データのじかん週報では、データのじかんの編集部内で会話されるこばなしを週1度程度、速報的にお届けいたします。
大川:福井県福井市にあるOOKABE GLASS株式会社は、元々はいわゆる工務店や建築会社がお客さんの「ガラス屋さん」でした。もちろんBtoBのお堅い仕事をしていたのですが、2005年にスタートした施主向けのガラス・鏡のインターネットオーダー販売をきっかけに、業界の常識だったサプライチェーンや商流、商習慣をガラッと変えたんですよ。CEOの大壁さんとはずっとお会いしたかったのですが、ようやく実現でき、面白い話をたくさん聞けましたよ。
野島:私も以前から大川さんから軽く伺っていましたが、まさしく「LocalDX」にピッタリの方ですよね。いずれ取材で直接、私も色々と聞いてみたいですね。
大川:ぜひぜひ!そう来るともって、すでに「取材依頼がくると思う」と先方に伝えていますから(笑)。
野島:ありがとうございます(笑)。でも、ガラスをはじめとした建材のインターネットオーダーってかなりユーザーとしてはありがたいですよね。私もブラインドを購入しようとしたときですら、ピッタリのサイズやデザインの既製品がなく、オーダーするのにも苦労しましたから。意外とユーザーにとって負担が大きいんですよね。
大川:そうですね。ただ、住宅建材は規格販売が基本なので個別で加工することは、サプライチェーンのギャップが大きいんですよね。当然、価格も高くなるので、メーカーはまずやりたがらない。それでもサイズオーダーまで手掛けて「ユーザーから見て自然な価格」に落とし込んでいるOOKABE GLASSはまさに変革者といえますね。
野島:ただ、なぜ大壁社長がBtoBからBtoCに展開を決断したのか気になりますよね。ガラス屋さんは職人的なイメージがあるので、かなり思い切りが必要な気もします。
大川:「お客さまのことが分かったから」と大壁社長は言っていましたね。実はインターネットオーダー事業を始める前に、ガラスの出張修理事業もスタートしていたそうなんです。そこで初めてエンドユーザーと顔を合わせ、意見を聞くことができたのがきっと最初の一歩ではないでしょうか。それがめぐりめぐって、施主から工務店に「OOKABE GLASS指定」で注文が入るようになったのは、ただの「EC事業」には留まりません。ビジネスモデル・バリューチェーン改革ですよ。
野島:まさしくBtoCtoBを構築できたワケですからね。
大川:約60人いる従業員の半分以上がエンジニアですし、大半がECサイトの運営に関わっていますからね。ライターまで内製にしていますし、組織体制だけ見るとIT企業ですよ。しかも自社の成功事例と組織を持って、プラットフォーム制作事業まで展開しているのも面白いですよね。
野島:「他業種に売る」という方針もあるんですね。確かに、商習慣が類似している他の建材や住宅設備業界であれば再現性もありそうですね。
大川:そうですね。しかも、大壁社長は「福井県板硝子商協同組合」の理事長にも就任していますから。
野島:すごいですね! 既存の商習慣やバリューチェーンの変革者に対する「業界内の風当りの強さ」は推して知る事例も少なくないのに。
大川:変革者はもちろん、その周囲を含めて色々と可能性を感じますよね。実際、全国から「同じことをしたい」という声も届いているようです。ネットワーク化したいとも言われていましたから。また面白いのは、「試行錯誤」や「取り組んで改善する」「上手くいかなくて当たり前」という概念を事業で実践していたのに関わらず、それを表す「アジャイル」という言葉を知らなかったことです。一度、週報でも触れましたが言葉や知識は後から付いてくるものだと感じましたね。
大川:ぜひ読者の方に共有したい有用な資料も一つ紹介させてください。国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の構成組織である研究開発戦略センター(CRDS)が発行する「研究開発の俯瞰報告書」です。
野島:画像を一枚拝見するだけでも、興味がそそられる内容ですね。後でじっくりと読ませていただきますよ。ただ、私は大川さんと接する機会が多いのでこのような有用な資料を知ることができますが、果たして「R&D(研究開発)」に携わっている人や一般のビジネスパーソンに認知が広がっているのかは疑問がありますね。
大川:そうですね、大きな課題だと思います。個人的に大人がざっくりとAIを勉強するのであれば、いずれ「研究開発の俯瞰報告書」にたどり着くレベルの資料だと感じていますから、尚更惜しいですよね。こちらの制作に携わっている人たちは、いわゆるビジネスタレントではない「本物」の方ばかり。社会人としての「学び先」であれば、このような人たちですよ。あとは資料を翻訳して伝える人や媒体も圧倒的に少ないのも課題でしょう。
野島:やはり海外は違うんですか?
大川:そうですね。ドイツなどでは、個人レベルで「産学官連携」を一人でやるのは当たり前ですよ。民間企業で働きながら大学院で研究し、時にはさまざまな立場で行政と組める人は、当たり前ですが、どの組織に対しても翻訳が上手い。これは非常に大きいですよ。
野島:データのじかんもメディアとしてそのような役割をもっと強化したいですね。特に週報は「アンノウンズアンノーン」な情報も積極的に発信できるわけですから。
大川:そうですね! それならぜひ、データのじかんの取材先には作成協力者をチェックしてください。読者の方も一緒で、学びたいことがあればまずは作成協力者の方々の著書や講演などがないかチェックしてください。この情報自体、あまり表に出ない「アンノウンズアンノーン」な情報だと思いますよ。
データのじかん編集長 野島 光太郎(のじま・こうたろう)
広告代理店にて高級宝飾ブランド/腕時計メーカー/カルチャー雑誌などのデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業/外資系IT企業での事業開発を経て現職。2023年4月より上智大学プロフェッショナル・スタディーズ講師。MarkeZine Day、マーケティング・テクノロジーフェアなどにて講演。
近著に「今さら聞けない DX用語まるわかり辞典デラックス」(左右社)。静岡県浜松市生まれ、名古屋大学経済学部卒業。
データのじかん主筆 大川 真史(おおかわ・まさし)
IT企業を経て三菱総合研究所に約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、製造業のデジタルサービス事業、中小企業のデジタル化。(一社)エッジプラットフォームコンソーシアム理事、東京商工会議所学識委員兼専門家WG座長、内閣府SIP My-IoT PF、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会 中堅中小AG、明治大学サービス創新研究所客員研究員、イノベーション・ラボラトリ(i.lab)、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMAを兼務。官公庁・自治体・経済団体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド」(大川真史編、技術評論社)
データのじかん編集 藤冨 啓之(ふじとみ・ひろゆき)
経済週刊誌の編集記者として活動後、Webコンテンツのディレクターに転身。2020年に独立してWEBコンテンツ制作会社、もっとグッドを設立。ライター集団「ライティングパートナーズ」の主宰も務める。BtoB分野を中心にオウンドメディアのSEO、取材、ブランディングまであらゆるコンテンツ制作を行うほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動中。データのじかんでは編集・ライターとして企画立案から取材まで担う。1990年生まれ、広島県出身。
(TEXT・編集:藤冨啓之)
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