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宮西 京華(みやにし けいか)
保険会社で事務職をやっているデータマネジメント担当。歌い手動画を見るのが好き。
データマネジメント解説、連載の第24回が始まりました。
いよいよ今回でデータ組織立ち上げ編は最後になります。
企画も通って、本格導入を進めていくことになりました。改めて考えてみると、松田先輩が最後に言っていた言葉の意味がわかってきました。
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「……でも、データマネジメント担当ってこと、忘れないでね?」
松田先輩のその言葉は、コーヒーの湯気と一緒にふわりと漂ってきて、私の胸に小さく刺さった。
ちょっとした会話の延長、何気ない口調。でも、それがどうしてか引っかかった。企画が通って、私はてっきりすべてが順調に進んでいると信じていた。PoCも成功し、導入計画も通った。周囲の反応も悪くない。自分なりにやったという達成感もある。
「……あれ?私、なにか間違ってた?」
その日は家に帰ってからも、ずっとその一言が頭の中でこだましていた。
データマネジメント担当。確かにそれが私の肩書きだ。でも、ここ最近の自分の動きを思い返してみると、もっぱらやっていたのは業務改善の話ばかりだった。申込書の転記作業を効率化するために、Vision APIを使ってOCRを試して、PoCやって、企画書つくって。
でも、それって本当に「データマネジメント」なのかな?もしかして私は、便利なIT導入係になってない?
「ミイラ取りがミイラになるって、こういうことかも……」
思わずベッドの上でつぶやいて、クッションを抱えた。
私は今、目先の目標であるデータを使い利益貢献した金額1億円というKPIに向けて突っ走っている。でも、それって本当に最終ゴールだったっけ?
違う。あれは今期の目標に過ぎない。言ってしまえば成果を出すための入り口だ。もちろん重要だけど、それだけを追いかけていたら、本当にやるべきことを見失ってしまう。
私が任されたのは、全社のデータを管理し、利活用を促進するという役割だ。部署を横断して、データの意味や品質を整理し、現場が正しくデータを扱えるようにする。データが勝手に使われ、勝手に解釈されるのを防ぐ。逆に言えば、ちゃんと使われるための状態をつくるのが私の仕事。それって、目の前の業務を自動化することとは、ちょっと違う。
もちろん、その一歩としてデジタル化ができるOCR導入は意味がある。でも、そこで終わってしまったらただの便利ツールの導入担当だ。
それで1億円達成しましたって胸を張っても、その先に何も残らないのでは意味がない。私がやるべきことは、データマネジメントなのだから。
気づいた瞬間、ちょっと背筋が伸びた。
今までが無駄だったわけじゃない。業務改善は確かに必要だし、現場がデータに触れる入口にもなる。でも、それを点で終わらせずに、線につなげていかないと、データマネジメントなんてできっこない。
「そうか……だから、先輩はあの言い方をしたんだ」
忘れないでと言われたのは、単に肩書きを意識しろって意味じゃなかった。
今やってる業務改善を、会社全体のデータ活用という視点に接続して考えなさいというメッセージだったんだと思う。
たとえば、今回OCRで取り込んだ申込書のデータも、ただ入力されるだけじゃ意味がない。それがどんな粒度で、どんな文脈で蓄積され、あとで分析に使える形になっているか。
どんな定義で管理されていて、誰が責任を持っているのか。そういう裏側の整備こそ、私が本当に考えるべき領域だった。
現場の改善は、確かに喜ばれる。反応も分かりやすいし、達成感もある。でも、その向こう側にはまだ見えていない、大きな地図が広がっている。
データのことは、宮西さんに聞けばいい。そう言ってもらえるような存在になるには、現場の目線と、全社視点の両方を持って動かなくちゃいけない。
どうやって会社全体のデータ活用を支えていくか。誰と連携して、どんな基盤を築くか。考えることは山ほどある。
「……でも、データマネジメント担当ってこと、忘れないでね?」<
松田先輩の声が、もう一度、頭の中で繰り返された。うん、忘れない。私はデータマネジメント担当としての仕事をする。そのために、この部署に来たんだから。
そして、宮西京華の物語は続いていく。
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データマネジメント担当という役割は、単にデータを集めて整えることや、現場の作業効率を上げるだけの職務ではありません。その本質は、会社全体がデータを正しく扱い、戦略的に活用できる状態をつくることにあります。
言い換えれば、バラバラに存在していたデータを揃え、組織として統一していき、データを管理するという文化や仕組みを育てる組織的な役割です。
だからこそ、宮西さんのように業務改善を出発点にすることには、大きな意味があります。現場で実際にデータを扱っている人たちの課題を理解し、それを丁寧に解消していくことが、全社のデータ活用へつながる道だからです。
業務改善を通してデータを整備しながら、どこに非効率や誤りの原因が潜んでいるのかを確かめることで活きたデータマネジメントが可能になります。
業務改善はデータマネジメントの目的ではなく過程であり、現場と向き合いながら少しずつデータを整えていくことに意味があります。
業務を改善しながら進めることで、現実的なルール設計やガイドラインを作る事ができるというのが、データマネジメント担当が業務改善を担うべき理由です。
宮西さんが直面したように、目先の成果に引きずられてしまうと、自分がやっていることの意味を見失ってしまうことがあります。そうした成果はデータマネジメントの視点ではあくまで通過点であり、本当に重要なのは、データが人に使われる状態をどう維持していくかということです。
松田先輩の一言には、そうした背景が込められていたのでしょう。現場に寄り添いながらも、視点は常に全社に置く、このバランス感覚こそが、データマネジメントを担う人に求められる重要な資質です。
データを扱う仕事は、ともすればExcelやBIツールの使い手として誤解されがちですが、真の役割はそこではありません。仕組みを整えること、文化を築くこと、価値あるデータが自然と生まれ、活かされていく状態をつくること。
それを忘れずにいることが、組織にとっての持続可能なデータ活用の鍵となります。
宮西さんのように、一つひとつの業務改善を丁寧に積み重ねていくことが、やがて会社全体のデータ利活用の未来につながっていきます。
これからの宮西さんの活躍を楽しみにしています。
よしむら@データマネジメント担当
IT業界、金融業界、エンタメ業界でデータマネジメントを担当した経験を持ち、現在もデータマネジメント担当している。データマネジメント業界を盛り上げるために、経験を通して得た知識の発信活動を行っている。
本記事は「よしむら@データマネジメント担当」さんのデータマネジメントを学べることをコンセプトの4コマ漫画「AI事務員宮西さん–データ組織立ち上げ編」のコンテンツを許可を得て掲載しています。
保険会社で事務員として働く宮西さんは、会社がAI時代に対応するために新設したデータ部門に突然配属されました。事務員からデータマネジメントのリーダーへと成長していく宮西さんの奮闘記を描いた物語。
本シリーズ「データ組織立ち上げ編」では、宮西さんがデータ利活用組織を立ち上げるまでの挑戦を描きます。IT業界、金融業界、エンタメ業界でデータマネジメントを担当した経験を持つ著者「よしむら@データマネジメント担当」さんが豊富な経験を基に執筆しています。データ組織の一員の皆様には、ぜひご一読ください。
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