【書評】『UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論』で「UX型DX」がわかる!

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2019年3月出版の『アフターデジタル』(書評記事はコチラ)で予見されたオンラインが主となる世界。2018年末ごろからのDXブームやコロナ禍を経て、現実はその通りになりつつあるのではないでしょうか。

2021年9月にリリースされたシリーズ第3作『UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論』(以下『UXグロースモデル』)では、「アフターデジタル」の世界観を前提とした具体的な方法論が解かれました。

本記事では、同書の価値や執筆の背景について、複数のソースを参照しながら解説いたします。

「UXグロースモデル」とは? 執筆の背景に見られる「日本のDX」に対する課題感


書籍のタイトルに冠された「UXグロースモデル」。これは、“UXの進化をトップダウン・ボトムアップの両面で実現する方法をモデル化したもの”を指します。

ここでのUXの定義は、ユーザーエクスペリエンスの提唱者ドナルド・ノーマンが自社サイトで示す定義に基づいており、「エンジニアリング、マーケティング、グラフィックデザイン、工業デザイン、インターフェースデザインなどあらゆる領域で生じるユーザーとの相互作用」全てを指します。ポイントは製品やサービスを利用したときの単なる使用感ではなく、ユーザーの心理を超えたメカニズムを捉え、ジョブの達成をサポートするということです。
ジョブとは、人あるいは集団が特定の状況で達成を図る進歩のこと。詳しくは、『ジョブ理論』について解説したコチラの記事をご覧ください。

『UXグロースモデル』執筆の背景には、アフターデジタルシリーズの著者の一人である株式会社ビービット執行役員CCO藤井保文氏の、「UX型DX」についての理解を日本で広めなければならないという課題感があったのではないかと推察されます。

2021年のインタビューにおいて藤井氏は度々「日本のDXトレンドに関する違和感」を口にしています。日本のDXでは、デジタル技術の導入や行動データの取得といった方法論に注目が集まり、“ユーザーにどのようなUXを届けるのか”という最も重要な点が無視される傾向にあると感じている旨がインタビューで語られていました。

UXという言葉はここ数年で広く知られるようになりましたが、やはり単なる“使用感”といった文脈で用いられることも多く、真のUX向上を実現する方法について体系的にまとめた例はあまり見られません。

『UXグロースモデル』は、そんなDX・UXの状況に切り込む実践書だといえるでしょう。

UXグロースモデルの構成と具体的な方法論

『UXグロースモデル』の具体的な内容や構成について見ていきましょう。

同書は全7章で構成されており、第3章まではアフターデジタルの状況整理やUXグロースモデルとは何かといった大枠の内容が、第4章以降は具体的なUXグロースモデルの方法論が語られる内容となっています。

UXグロースモデルにはトップダウン型ボトムアップ型の2種類があり、前者は組織変革や新サービス開発による新規かつ全社規模でUXに及ぶ変革を、後者は既存サービスの抜本的あるいは継続的な改善によるUX改善を指します。企業はこの両方を専門のチームを組織し、戦略的に実施していく必要があり、その具体的な実践方法についてレクチャーするのが『UXグロース戦略』の根本的なバリューであると考えられます。

2作目までの『アフターデジタル』シリーズは藤井保文氏あるいはIT 批評家の尾原和啓氏により執筆されていましたが、本作ではエクスペリエンスデザイナー/フェローの小城崇氏や、プロダクトマーケティング(事業開発/営業開発)チームリーダーの佐藤駿氏といった株式会社ビービットのチームメンバーが著者として名を連ねており、ほかのビービットのメンバーも執筆に関わった旨が「おわりに」にて説明されています。

すなわち、同社のITコンサルティングの知見が総合的に詰め込まれたのが本書であり、それゆえ全2作よりも個人の視点やビジョンが消失し、実用書としての側面が強くなっていると考えられます。

ユーザーの“小さな状況”を捉える「シーケンス分析」とは?

『UXグロースモデル』で「データ活用」について詳しく取り上げられているのが、第5章「ボトムアップ型UXグロースの方法論(2/2)──既存サービスの高速改善」です。

UXの良いサービスを生み出せば利用が増え、それによって大量の行動データが取得可能となり、データを材料にUXを改善することでUXグロースの好循環を生み出すことができると、藤井氏はMarkeZineのインタビューで語っています。

その具体的な方法論を詳しく取り上げたのがこの第5章なのです。ここで推奨されている手法が「シーケンス分析」。「行動データをユーザーIDごとに時系列に並び替え、行動の順序を加味した上で分析する手法(※)」と本文中では説明されています。

この手法は、サービスの利用体験の中で生じる「小さな状況」を正しく捉える方法としてビービット公式ブログの記事『アフターデジタルとビービット(3) – 事例で読み解く「UX企画力を高めるシーケンス分析」』中でも取り上げられています。

ジョブ理論において、「ジョブとは、人あるいは集団が特定の状況で達成を図る進歩のこと」と定義されていました。この特定の状況を行動データと結び付けて解き明かす手法が「シーケンス分析」といえるでしょう。

シーケンス分析により、PV数やCVR、継続率といった一般的な指標では捉えられない個別のユーザー行動の「WHY」を見出すことが可能になります。データで事実を捉えるだけでなく分析にまでつなげるための非常に有効な手法だといえるでしょう。

※……引用元:藤井 保文 (著), 小城 崇 (著), 佐藤 駿 (著) 『UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論』日経BP、2021、p245

終わりに

アフターデジタルシリーズ第3作、『UXグロース戦略』について書評してまいりました。UX/UIの文脈で語られがちなUXですが、本質的な価値はジョブの達成であり、それはカスタマーサクセスにも通じます。

記事で触れた日本のDXの課題感やアフターデジタル時代の戦略についてモヤモヤした思いを抱えている方は、ぜひご一読してみることをおすすめします!

【参考資料】
・藤井 保文 (著), 小城 崇 (著), 佐藤 駿 (著) 『UXグロースモデル アフターデジタルを生き抜く実践方法論』日経BP、2021
・クレイトン M クリステンセン (著), タディ ホール (著), カレン ディロン (著), デイビッド S ダンカン (著), 依田 光江 (翻訳)『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』2017、ハーパーコリンズ・ ジャパン
・『アフターデジタル』の誤解を取り払いたい。ビービット藤井氏が創ったフェス「L&UX2021」初開催┃MarkeZine
・「アフターデジタル3のつもりで企画した」 ビービット・藤井保文が明かす“UX・DX祭典”の開催理由┃Forbes
・アフターデジタルとビービット(3) – 事例で読み解く「UX企画力を高めるシーケンス分析」┃beBit Blog

宮田文机

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