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JMで建築データと言えば3DのBIMデータのこと!データ活用で設備管理の圧倒的な効率化を実現させた株式会社JMが描く自らの未来像とは!?

         

創業の志とビジネスモデル、未来のビジョン。この3つが「データ」によって上手にリンクしている会社があります。株式会社JM。主な事業は「保守・メンテナンス事業」「ライフサイクルマネジメント事業」「エネルギーマネジメント事業」「地域創生事業」の4つ。ICTによるデータ利活用を最大限に行い、職人さんの負担軽減と効率化、顧客のトータルコスト削減を実現しています。現在は「保守・メンテナンス事業」が売上の8割ほどを占めていますが、上記の順番で自らを進化させていく計画です。

さらには、同社に蓄積されたデータを使って、人口減と高齢化に悩む地方の自立を助ける地域創生プラットフォームをめざすといいます。その全貌を「創業の志とデータ」「Matabeeシステム」「思想とカルチャー」「地方の未来」という4つのキーワードから探ってみました。

今回はマーケティング本部 事業企画部長 力武剛さん、事業運営本部 エンジニアリング部部長兼CMプロジェクト管掌 小林保貴さんのお二方にお話を伺いました。

Keyword①:創業の志とデータ

同社の創業は2002年。それ以前からも大手ゼネコンの前田建設工業の一事業部として、保守・メンテナンス事業を進めていました。立ち上げたのは現在の社長でもある大竹弘孝さん。当時の建設業界は談合や政治献金、現場の職人さんたちへの負担拡大などが大きな問題となっており、新しいビジネスモデルの構築と転換が急務となっていました。

そこで同社が見出したのが、建築物の保守・メンテナンスという小口工事の開拓です。小口工事は大手ゼネコンにとって競合が少ないというメリットがある一方、効率性を追求しないと成長が望めないという課題があります。つまり、ポイントとなるのは、ICTによる徹底した効率化=データ利活用だったわけです。

「建設業界の生産性向上をめざそう」

「当時は、いい腕をもっているのに報告書が遅かったり、エビデンスがきちんと残っていなくて請求ができなかったりする職人さんが数多くいました。そこで私たちは、データやITツールという“武器”を職人さんに提供して、建設業界の生産性向上をめざそうと考えました」。そう語るのは、同社マーケティング本部事業企画部長の力武剛さんです。

同社が提供した“武器”は何なのでしょうか。たとえば「Matabee iReporter」は、これまで紙で作成していた報告書などの業務を電子化することで作業現場の効率化を実現させています。

Matabee INSIDE」はスマートフォンで撮影した写真データから3Dモデルが作成できます。現場の職人さんたちの業務プラットフォームを構築したことになります。(注釈:同社の商標が「なおしや又兵衛」(またべえ)なので、同事業のシステム・ツール名にはすべてMatabeeが付いています。)

エビデンスはMatabee MotionBoardでお客さまと共有

この体制を早く構築したことにより、創業当時から大手コンビニチェーンなどの店舗保守契約を受注することができました。全国で多店舗展開する企業には、全国どの店舗でも同じ工事は同じような金額で同じクオリティで実施してほしいというニーズがあります。もちろん、できるだけ低コストで。

「全国多店舗展開しているお客さまは、施設管理のコストはできるだけ抑えたい。『Matabee INSIDE』のデータは3次元(3D)なので現場とほぼ同等の情報が得られます。このデータが使えることで担当者が現場に出向く回数を減らせます。職人さんと私たちがお客さまの目になることで、たとえば、お客さまはこれまで10人でやっていた仕事を5人に減らすことが可能になります。」こう語るのは、同社事業運営本部エンジニアリング部部長の小林保貴さん。

ここで大事になるのが透明性です。3Dの現場映像を見ることができるとはいえ、職人さんとJM、顧客企業でそれを共有できなければ意味がありません。

「社長の大竹は『建設業界がオープンでなかったことに問題の根源があった』と考えており、作業工程の写真や3D映像はお客さまの見えるところに置いています。」(力武さん)

具体的には、作業工程の写真はエビデンスとして「CCWEB」という予定管理システムに積み上げており、Matabee MotionBoadによって進捗状況を共有することが可能です。「工程写真の撮り方も大事で、直した場所を撮るのは誰もが知っていますが、当社では工事完了後に見えなくなる場所(過程)も必ず撮るように徹底しています。」(小林さん)

施設管理コストを25%削減。職人さんへの支払いも迅速化

また、力武さんは「お客さま施設の保守・メンテナンスコストは当社を使うことで25%削減できる」と明言します。

「お客さまの施設部門の人員コストを含めて、トータルでのコスト削減が可能ということです。たとえば大手コンビニチェーンのお客さまでは、1万店で30~40人だった施設担当者は店舗数が倍の2万店になっても増えていません。当社のデータやツールを使っていただくことで、企画検討段階での時間削減や無駄な積算がなくなるからです。」

透明性を高めることは、職人さんにもメリットを生んでいます。JMからの支払いが早くなることです。「完了写真と現場のお客さまのサインを『Matabee iReporter』で送れば工事終了で、工事代金は月2回お支払いしています。建設業は普通、翌月末の1回です」と小林さん。地元の小規模工務店や個人事業主にとっても、うれしい仕組みといえるでしょう。

小林さんは自社の強みを、職人さんとJM、顧客企業をつなげたオープンなデータプラットフォームに加えて、圧倒的な全国ネットワークを挙げます。

「毎週、JMグループ社員300~500人が参加するウェブ会議で情報を共有しています。すぐに全国へ広がりますね。『Matabee iReporter』でも、たとえば、私たちが新しいフォーマットをつくって提供するとすぐに広まって、翌日にはそのフォーマットでデータが上がってくる。これは大きな強みですよね。」

Keyword②:Matabeeシステム

施設データのオープン化と共有の基盤となっているのが同社の「Matabeeシステム」です。全国の店舗や商業施設、企業施設から個人宅まで、顧客施設の生データをリアルタイムで開示して履歴に残します。それによって蓄積されたノウハウが、さらに顧客施設の維持管理コスト削減に役立つというサイクルを実現しています。

3DのBIMデータを重要視

同社のデータ利活用のなかで特筆すべきは、3次元(3D)データを重視している点でしょう。たとえば、『Matabee INSIDE』はスマートフォンで撮った2次元の写真を6時間で360度バーチャルツアーと平面レイアウト図面に、12時間で3次元モデルに、48時間でさまざまな3DシミュレーションができるBIMモデルに生成して編集・出力することを可能にしています。

BIMとは「Building Information Modeling(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」の略称で、建物を設計・建設する前に、コンピューター上に現実と同じ建物の立体モデル(BIMモデル)を構築する手法。建材の仕様やコスト、工程などすべてのデータが連動しているため、一部を修正しても図面やパース、コスト、スケジュールなどが自動修正されます。この点が従来の3次元CADとの大きな違いで、現在の建築業界の主流になっています。

「既存施設の3Dデータを当社ほどもっている会社はない」

BIMによる3Dデータ可視化が主流になったのはここ数年ですが、同社では10年ほど前からすでに取り組んでいました。

「建築の専門家は2次元データから実際の建物をイメージすることができますが、お客さまや職人さんを含めて多くの人はそうではありません。3Dの方がひと目でよくわかるし、相互理解も進むでしょう。だからです。データプラットフォームやBtoCの事業をめざすとなると、3Dデータによる共有は欠かせません。」

力武さんはこのように話します。重ねて「『Matabee INSIDE』はデータの3D化のスピードが速い。3Dファイルの国際標準であるIFC形式のデータ生成が、2次元の写真データから48時間でできるなんてなかなかできません。また、新築物件はともかく既存建築施設の3Dデータを当社ほどもっている会社はないと思います」。

3Dデータを蓄積してライフサイクルマネジメントへ

最近の技術であるBIMの3Dデータは新築施設ではあるかもしれませんが、古い施設には当然ありません。しかし、同社が保守・メンテナンスする施設は古いものも多いはずです。

「古い施設はもちろん新築でも3Dデータがないことが多いので、『Matabee INSIDE』でどんどん3Dデータ化を進めています。3DのBIMデータでメンテナンス性を紐付けて管理していけば、お客さまの後々の施設管理が簡単になるし、そのデータをもとにして施設計画や設計をご提案するライフサイクルマネジメント事業にも役立ちますから。いわば3D設計図を古い施設の“店舗カルテ”のベースに施設のライフサイクルを回していこうということです」(力武さん)。

「設計図がないことは珍しくありません。築20~30年という建物では最初の図面がそもそもなかったり、あっても製本された青焼き図面とか」(小林さん)。

「図面データといっても、単に数字が並んでいるだけでは意味がありません。私たちがデータといえば、いまやエクセルの数字でも2次元でもなく3DのBIMデータのことなのです」(力武さん)。

Keyword③:思想とカルチャー

データ利活用の根源は、ツールやプラットフォームだけでなくデータをいかに効率よく集めて、いかに使いやすく提供するか、です。つまり、データの集め方・持ち方、提供方法にその企業独自の思想やカルチャーが色濃く反映されます。

「ライフサイクルマネジメント事業はまだまだ発展途上ですが、保守・メンテナンスで得た3Dデータを壊れにくい仕様や施設になるように設計部門へフィードバックすることから始まります。そこで生まれた施設は必ず、メンテナンスコストが下がります。保守・メンテナンス事業にBIMを取り入れている点が他社との大きな違いでしょう」(力武さん)。

既存の仕組みをアレンジして一気に全国展開

「私たちのデータ構築思想を改めて考えてみると、イチから作るのではなく、すでにある仕組みを使うことにポイントがあるのかもしれません。『Matabee INSIDE』のスマートフォンはiPhoneだし、『Matabee iReporter』のツールはiPad、360度カメラはリコーのTHETA。そして進捗管理はMotionBoard。これらの枠組みを真似することは他社もできるでしょうが、3Dデータの構築・管理・運用を一気に全国の工務店・職人さんへ展開することは難しいと思います」(小林さん)。

力武さんによると、有用で安価なテクノロジーはいまでも世の中にたくさんあるといいます。大事なのは、それを早く見つけて自分たちなりにアレンジすることです。

「当社には、自分たちの思想に合った面白いテクノロジーを見つけてくる専門チームがあります。大竹もいろいろな人との話題のなかで、そのヒントを見つけてきます。最近では『ドローンに音と匂いのセンサーを組み合わせられないかな』という話がありました。社内で誰かがそうつぶやくと面倒くさがらずに探し出す。そんなカルチャーはあると思います」(力武さん)。

「パーティグッズ扱いだったTHETAも、上司が「建物のなかで撮ったらわかりやいかも」と、その場で決めて300台くらい買ってくばっちゃった(苦笑)」(小林さん)。

個人にスポットを当てる「職人甲子園」

出典:matabee.com

同社の思想とカルチャーを探るうえで、大きなヒントになるのが「職人甲子園」でしょう。

「いま全国14か所にサービスセンターを設けて、職人さんたちの技能レベルの均一化と向上をめざしています。『職人甲子園』はその一環です。全国の約250人の職人さんたちが集って技術を競い合う大会で、地元にいる職人さん1人ひとりが「大事にしてもらっているな」という実感を得られるように、職人さん個人にスポットライトが当たるような取り組みです」。

「職人甲子園で新しい技術やノウハウを披露した職人さんは、あっという間に全国のレジェンドです。実際の作業フローでコンテストをおこなったりするので、見ている私たちも参考になりますね。たとえば、職人さんたちが実際に作業する様子を生で見て『iReporterのiPadでは大きすぎて使いづらそう』と感じたため、現場にはスマートフォンが導入されました。」

Keyword④:地方の未来

同社がデータ利活用を積極的に進める先には何があるのでしょうか。同社が最終目標と掲げる地域創生事業が未来像の基礎となると思われますが、そこには同社なりの独自性があるはずです。

「なかでも、人口10万未満の過疎の町が主な対象になると思います。人口減少と高齢化が進むと自治体の税収は減る一方。その地域が自らお金を稼いで、自ら活性化していく必要があるでしょう。そのためには、住民の声が地域の開発計画にきちんと反映されなければなりません。さまざまな地域データをオープンにして、地元の人たちが自分たちで町のデータを積み上げていくこと。それがタウンマネジメントの基礎になるはずです」(力武さん)。

自立した地域創生の第一歩として

同社がデータとITツールを駆使して、全国の職人さんの育成や生産性向上に注力している理由は、ここにあります。多くの職人さんは地元の工務店に所属しているか、そこで暮らす個人です。地元に暮らす職人さんが自分たちの町にある建物・施設を保守・メンテナンスすることが自立した地域創生の第一歩となるわけです。

たとえばUberのように、地元の職人さんが空いている時間を利用して地元の施設や近くの個人宅を訪問して、さまざまな困りごとを解決していくイメージです。勝手知ったる地元の施設を同社のデータを利活用することで文字通り「町医者」として診る。職人さんは地域活性化に貢献できて、収入増加も期待できるのではないでしょうか。

“地域創生プラットフォーム”で日本をマネジメント

「地域住民が自分の家や町をメンテナンスする、マネジメントできる基礎データを自分たちでもつことができれば、なおさら便利ですよね。いわば“地域創生プラットフォーム”を当社が提供して、それに地域住民がさまざまなデータを載せて利活用していく仕組みです」(小林さん)。

そこでのキーワードは「自立」。人口が少なかったりお年寄りが多い町ではドローンやロボットを使って点検して、遠隔操作で職人さんを派遣すればいい。困った人を見つけるのはテクノロジー、助けるのは人間とデータの協業です。同社では、そのベースとなるのは1戸の建物のライフサイクルを回すことと考えています。

「建物1戸のライフサイクルの集合体が町、その集合体が地域、都市、最終的には日本。社名のJMはジャパンマネジメント、つまり日本をマネジメントする会社ですから」と力武さん。これを聞いて、幕末の志士・坂本龍馬が残した「日本を今一度せんたくいたし申候」という言葉を思い出した、と いったら大げさでしょうか。しかし、そんなイメージを抱いたことは確かです。

株式会社JM (Japan Management) (商標:なおしや又兵衛)
設立:2002年12月
所在地:東京都千代田区
資本金:3億5000万円
売上高:301億円(2019年3月期)
従業員数 (2019年10月1日現在)
従業員数:1535名  
(正社員)317名、(準社員)1,218名
※準社員とは、フランチャイズ認定制度により認定された社員です。
※JM登録職人数 12,015名

(ライター:小島 淳 フォトグラファー:鈴木ジェニー)

 
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