About us データのじかんとは?
「もともとは伊藤忠商事のある方と飲みに行って、『何か面白いことをやりたいですね』と会話したことがスタートでした」と振り返るのは、ウイングアーク1st⼩売・外⾷DX企画部の松本俊介氏だ。「そのときにはすでに、味香り戦略研究所という、味覚などのデータをたくさん持っている企業があるということも聞いていました。私自身も『味』に興味があり、特に辛い物が好きです。『激辛』と書いてあるのにそれほどでもない商品に出会ったりするとがっかりして、『定量的な指標はないものか』と感じていました。ちなみに、実は辛味は味ではなく『痛み』なんです」
その後のアクションは速かった。同じくプロジェクトメンバーの関口太郎氏とともに味香り戦略研究所を訪問すると、さっそく食品メーカー向けの分析ツールの企画を開始した。伊藤忠商事にも大きな動きがあった。当初は「情報・金融カンパニー」がプロジェクトの窓口になっていたが、すぐに「食料カンパニー」が加わることになったのだ。
「伊藤忠商事の食料カンパニーは国内のほとんどの食品メーカーと付き合いがあります。プロジェクトに入ってもらうことは大きなメリットになります」(松本)。
ただし、伊藤忠商事にとっても、複数のカンパニーを横断して新規事業に取り組むことはほとんど例がなかったようだ。それにもかかわらずプロジェクト化したのは、「食のDX」が伊藤忠商事にとって格好のロールモデルになると期待されたのであろう。
過程では、それなりの「難しさ」も発生した。松本は「新規事業開発はアジャイルに小さく始めていきたいところですが、各社それぞれの事情があり、予算の確保やプロジェクトの承認を得るためには大きな絵を描く必要もありましたし、関係者が増え、求められるスピードも次第に高まり、まだまだ検証しきれていない中で期待値が独り歩きしている雰囲気もありました」と話す。
そうなるとPoC(概念実証)で終わらせるわけにもいかない。ウイングアーク1stにも相当プレッシャーがかかった。しかし、そこで臆することなく、共同開発に当たっては、単なるツール提供者、構築ベンダーという立ち位置ではなく、主体性を持ってプロジェクトを推進してきたという。
関口は次のように語る。「『私たちは裏方なので、言ってもらえたらやりますよ』という待ちのスタンスではなく、最初から前に出て行くと決めていました。企画設計、ユーザーインタビュー、リサーチなどまで、私たち自身で関与するようにしました。そうしないと、ユーザーが本当に求めているものはつくれないと考えているからです」
主体性を持ってプロジェクトを推進するために、関口、松本の二人が重視したのがユーザーのヒアリングだった。
松本は次のように語る。「新しいサービスのつくり方にはいろいろありますが、今回のFOODATAに関しては、まずユーザーの声をしっかりと聞き、その上でモックアップ(プロトタイプ)をつくって、正式なものへと構築を進めていこうと考えていました。そのために伊藤忠商事と一緒に30社ほどの企業にインタビューをした他、当社自身でも独自にインタビューを行いました」。
ただ、ここで注意すべきは、「顧客の声を形に」といえば聞こえはいいが、「あれも欲しい」「これも欲しい」といった要望を全て盛り込もうとすると、総花的なものになってしまうことだ。
「総花的なものにならないようにするため、『あったらいいね』ではなく、顧客にとってMUST(必然)な機能は何かを常に考えていました」(松本)
プロジェクトがスタートしたのが2020年2月、プロトタイプをもとに、ユーザーのヒアリングを行っていたのが、その1年あまり後の21年の3月だったという。その4カ月後の21年7月にはFOODATAがローンチされていることを考えると、驚異的なスピードだ。だが、その裏では大きな変更もあったようだ。
「商品の企画開発の業務を紐解いていくと、ID-POSのような市場分析からスタートし、その後、味のデータが生かされる一連のプロセスの流れの重要さに気づきました」と松本は話す。味・栄養・原材料などの食品に関する「モノデータ」と、ID-POS・意識・口コミなどの消費者の行動・嗜好に関する「ヒトデータ」をかけ合わせ、その分析結果を一気通貫でダッシュボードで可視化できるというFOODATAのコンセプトが生まれた瞬間である。
「急遽設計の変更などに取りかかったのですが、時間がない中でかなり大変でした。作業もさることながら、業種・文化の異なる会社が集まりチームを組んでいるので、認識を合わせるところには常に苦労しました。プロジェクトに関わる各社のメンバーがそれぞれで同じことを思っていたかもしれませんが、自社メンバーだけでもチーム作りは最も苦労する部分の一つです。それを複数の会社でかつ、新たな領域でとなると尚更チーム作りの難易度は上がります。また、チーム作りに終わりはなくフェーズごとに変化するものなので常に改善を繰り返していく必要があります。チーム作りの難しさというものを改めて痛感をしましたが、ポジティブに捉えれば、チームで議論を繰り返すことで経験値が蓄積されプロダクトへの成長に繋がっていくと考えています。」と松本は語る。
FOODATAは、総合商社である伊藤忠商事と、独自の分野の解析を手がける味香り戦略研究所、さらに、データにもとづく意思決定・行動を支援するサービスを提供するウイングアーク1stという、文字通り企業規模も業種も大きく異なる3社の異例のタッグにより誕生した。1つの大きな成功事例となったが、ビジネスのノウハウをITとかけ合わせるという面では、FOODATAのさらなる発展もあり得るだろう。次の施策、次のビジョンとして描いているものはあるのだろうか。
松本は「現在は、商品企画開発部門、マーケティング部門で主に使われていますが、今後は営業部門で使われるような、利用者の範囲の拡大はあると思います。データの共有という点では、お客様が持っているデータやマスタを取り込めるような仕組みについても構想を練っているところです。また、これはFOODATAに限りませんが、当社自身も引き続き、企画からビジネスをつくっていくようなポジションで新たなサービスを生み出していきたいと考えています」と力を込める。
松本が語るように、ウイングアーク1stのコアコンピタンスを生かすことにより、「食のDX」に限らず、さまざまな分野でDXを支援するサービスが創出できそうだ。関口は「食品メーカーの他、多様な企業が参画できるような仕組みをつくっていきたいです。食品業界周辺のビジネスについていえば、当社では食品衛生法のHACCP(危険度分析による衛生管理)に対応した帳票管理アプリの開発なども支援しています。これもビジネスのノウハウをITとかけ合わせることから生まれたものです」と話す。さまざまな業態で、同様の取り組みが可能だろう。ウイングアーク1stのビジネスチャンスを拡大するだけでなく、多くの企業の課題を解決するという点でも意義深い。
関口はさらに「伊藤忠商事からは、FOODATAを海外に持っていけないかといった相談も受けています。アジアをはじめとする海外マーケットの多様な食文化、食の市場のニーズに応えるという点ではポテンシャルがあると感じています。実際に指揮をとるのは伊藤忠商事が中心になると思いますが、当社はさまざまなデータをつなぐプラットフォームのような基盤を提供するといった役割になると考えています」と語る。多様なプレーヤーが参画することで、従来にはなかった新たな価値を生むサービスに発展することが期待できる。
松本は「飛躍しているように聞こえるかもしれませんが、例えば、将来的には自分たち自身がFOODATAを使っていつか食品の開発をしてみたいと思っています。IT会社がデータを使って食品開発するってあまり無いと思うんですよね。馬鹿げた話しに聞こえるかもしれませんが、自分たち自身が実際に体験して見えることがあるはずなので、そういうチャンレンジもしたいと思っています。」
FOODATAは、これまでの開発担当者の「勘と経験」を、ビジネスとITをかけ合わせることでデータドブリン化し、現場でPDCAを回せるようにする仕組みである。これが多くの日本企業に定着することで、迅速な意思決定や企業価値の最大化につながる。活用場面の広がりに大いに期待したい。
(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣 PHOTO:Inoue Syuhei 企画・編集:野島光太郎)
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