Yahoo!ビッグデータレポートチームが2019年9月に上梓した『ビッグデータ探偵団』(講談社現代新書)の帯には上記のような惹句が踊ります。
2019年現在国内2位のシェアを誇るヤフーの検索エンジン。1996年4月のYahoo!JAPAN公開以来蓄積されてきた膨大なデータからは、私たちの気持ちから日本の知られざる姿まで多種多様な答えが浮かび上がってくるようです。その成果がヤフーのビッグデータ分析チーム自身によってまとめられたのが『ビッグデータ探偵団』。
ビッグデータ探偵団は何を解き明かすのでしょうか? また私たちがビッグデータから社会やビジネスにまつわる謎を解き明かすことは可能なのでしょうか?
ヤフーが抱えるビッグデータの筆頭として挙げられるのが「検索キーワード」。ビッグデータ探偵団の「こころ掘り下げ人」池宮伸次氏らは、そこから新入社員やママ、日本人といった属性の人々が抱える悩みや行動パターンにまつわる謎を解決してみせます。
その中には例えばこんな謎が。
新社会人は入社から1カ月経過した5月にどんな悩みを抱えるのだろう?
上記の謎を解決すべく、次の3ステップでデータ分析が進められました。
そして制作されたのが以下の図表です。
※『ビッグデータ探偵団』p.26-27より引用
5月全体で最も検索量が多いのが「眉毛 整え方」や「貯金の仕方」「父の日 プレゼント」など個人の生活にまつわるもの。少しずつ仕事に慣れてきて身だしなみや初任給の使い道に気を配る新社会人が多いことが見て取れます。
さらに詳細に見てみると5月前半に目立つのは「食欲が止まらない」「足の臭いをとる方法」など身体に関する悩み。一方、後半は「仕事 つらい」「新入社員 辞めたい」「ストレス 吐き気」など心配なワードが並びます。五月後半には新入社員の心のケアに力を入れた方がよさそうですね。
このように共感できる「あるある」がモデルケースとして浮かび上がってくるのがビッグデータ分析の面白いところ。その結果を生かせば、適切な時期に適切な人に対して適切なものを提供すること(≒マーケティング)も容易になりそうです。
ビッグデータ分析の対象となるのは検索エンジンだけではありません。
ビッグデータ探偵団は「GYAO!の歌詞サービス」(2019年4月サービス終了)に登録されていた約16万曲の歌詞を分析。含まれている特徴語をもとに歌手を分類し、わかりやすく樹形図にまとめました。
※『Yahoo!JAPAN Aritst Clustering』の画面キャプチャ
実際の図表にはこちらからアクセスできます。
ビジネスと直接は関係なさそうな試みですが、ここにはビッグデータ活用のエッセンスがつまっています。
上記のプロセスを踏んで初めて”ビッグデータを活用できている”といえるのです。ちなみに、歌詞の「一人称/二人称」のうち最も多いのは「君/僕」で、「私/あんた」だったのは故やしきたかじん氏のみだったとか。こんな気づきが得られると思えば、一見無味乾燥なデータも「面白!」の宝庫に見えてくるのではないでしょうか?
書籍の後半ではビッグデータがどう役立つのか? という疑問に対し6つの事例で回答がなされています。
ビッグデータは上記のような謎を解決し、混雑回避や災害救助、政治・経済の動向予測にさえ貢献してくれるようです。
ここではそのなかでもビッグデータの威力が“目に見える”例としてリニア開通の効果について取り上げましょう。以下の動画をご覧ください。
これは『リニア中央新幹線の開通前後の「到達所要時間マップ」比較』動画です。リニアの開通によって東京駅から名古屋駅までの所要時間は1時間44分から40分、大阪駅までの所要時間は2時間47分から1時間51分へと大幅に短縮されるとのこと。以下の画像を一目見るだけでも大きくリニア開通後に同時間における移動可能範囲が増えることがわかりますね。
※『リニア中央新幹線の開通前後の「到達所要時間マップ」比較- Yahoo! JAPANビッグデータレポート』の画面キャプチャ(0:52~0:57)
多くの人が一目でわかるよう適切な形で表現するデータビジュアライゼーションによってデータには圧倒的な価値が生まれると『ビッグデータ探偵団』主著者の安宅和人氏は主張します。同じデータでも表現手法によって発揮できるポテンシャルが大きく異なるということは忘れずにいたいポイントです。
本記事執筆中の、2019年11月19日、ヤフーを運営するZホールディングスとコミュニケーションアプリ大手のLINEが経営統合に合意したというニュースが流れました。
これにより、ヤフーのビッグデータ探偵団には、LINEに蓄積されたコミュニケーションにまつわるデータやLINE PAYの決済データなど新たな謎解きの材料が提供されるでしょう。
その結果、どのような新たな発見があるのか想像するとワクワクしてきますね。
貴社にもきっと独自の新発見につながるデータが蓄積されているはずです。『ビッグデータ探偵団』はその生かし方と面白さを知るきっかけとして最良の一冊といえるでしょう。
(宮田文机)
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