堅実な経営で黒字決算を続けていたため、従業員に事業を引き継げないかとも考えたそうですが、適材がおらず断念。第三者に事業を譲渡することを考慮に入れ、埼玉県事業引継ぎセンターに相談しました。
センターがマッチング先として挙げたのは、神奈川県の給食事業会社ヤマト食品(株)。事業拡大を目的としてM&Aを活用してきた企業で、規模は小さいものの経営状態が良いさいたま給食(株)の事業引継ぎには当初から積極的でした。
中里さんが譲れない条件として挙げていたのは、「現在の顧客に迷惑をかけないこと、そして現在の全従業員を同待遇で雇用すること」。ヤマト食品(株)の岩見社長は、「M&Aでは、譲渡価格をどうするかが焦点になるのが普通だが、中里さんは顧客と従業員を第一に考えていた」と言います。
事業引継ぎセンターは、M&Aに関する知識のない中里さんの書類作成、必要資料集めなど、実務面でサポートに徹しました。当初は株式譲渡の形式を考えていたそうですが、最終的には事業譲渡という形式で引継ぎが完了。このおかげで従業員はさいたま給食(株)を退職扱いとなり、退職金を受け取ることができました。これも中里さんの従業員を思うが故の計らいでした。
上記の中里さんの例のように、売り手の目的が会社譲渡による利益ではなく、廃業リスクの回避というケースはこれからも増えていくでしょう。とすると、すでに経営状態が安定している優良中小企業を手頃な価格で買い取り、事業拡大や新規参入に活かせるチャンスかもしれません。
この問題についてより詳しく知りたい方は、少し前に話題になった「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」という書籍がオススメです。小規模なビジネス同士のより具体的な解決策をお探しの方であれば、後継者問題の解決策としてM&Aを提案し、そのマッチングプラットフォームを提供しているTRANBIの創設者 高橋聡氏が書いた「後継者不在の問題は、ネットで解決! 会社は、廃業せずに売りなさい」という書籍も合わせてオススメです。仲介サービスの選択肢も最近は増加傾向にあり、ビズリーチも事業継承M&Aに特化したサービス、サクシードを立ち上げています。つまり、インターネットで会社が買える時代にすでに突入しているのです。
働く、ということだけに焦点を当てても着実に選択肢が増えてきている今後の日本社会では、大企業同士の売買ではない草の根M&Aが、日本の若手経営者や中小企業を盛り上げていくのかもしれません。
2025年の壁や働き方改革などと合わせて、継承者不在問題についても、データのじかんでは取り上げていきたいと思います。
最後に、独立行政法人中小企業基盤整備機構によるなかなか攻めの姿勢を見せた後継者不在問題に関する動画をどうぞ。このシリーズを他にも見たい方はこちらからどうぞ。
https://www.youtube.com/watch?v=g4CEEyKgmME
参考リンク: 事業引継ぎポータルサイト
(佐藤ちひろ)
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