毎度話題の「街の幸福度ランキング」‐‐本当に「住みやすい街」に住めばみんな幸せになれるのか? | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
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毎度話題の「街の幸福度ランキング」‐‐本当に「住みやすい街」に住めばみんな幸せになれるのか?

         

毎年、さまざまなメディアが独自の視点で発表する全国の「住みやすい街」ランキング。タイトルは若干異なるものの、都道府県を対象にしているものもあれば、市町村の住みやすさを順位付けしたものもあります。

こうしたランキングを少しでも見たことがある人なら気付くことがあります。一つは各メディアのランキングの上位が毎年あまり変化しないこと。つまり、誰もが「住みやすい」とイメージするエリアが毎年ランクインすることです。そして、もう一つは、結果にバラつきがあることです。

もちろん、こうしたランキングの背後には住宅・不動産業界をバックにした商業メディアの存在があることは百も承知です。それでも、こうしたランキングがどのように作り上げられているかを紐解くことで見えてくるものがあります。

はじめに

そもそも、この記事を書くきっかけとなったのは、2023年8月に日経BP総合研究所が発表した「シティブランド・ランキングー住みよい街2023ー」でした。

私が住んでいる福岡県太宰府市が11位にランキングしたため、長く太宰府市に住んでいる友人たちにこのニュースを振ってみたところ、彼らの注目度が低いだけでなく、その多くが「住みやすいと思わない」という反応だったことです。私個人は太宰府市に住んで1年ほどですが、「住みやすさ」を感じていたため、彼らの反応は意外でした。

それからしばらくして、さらに驚くべきことがありました。2023年10月にはブランド総合研究所が「都道府県魅力度ランキング2023」を発表しましたが、佐賀県が46位(2022年は最下位)だったのです。

私は佐賀県に住んだことはありませんが、福岡県からアクセスしやすいこともあり、たびたび訪れては物価の安さ、食べ物の美味しさ、自然の素晴らしさ、文化の豊かさに感動していたため、「魅力度ランキング」の結果にショックを受けてしまいました。

各ランキングの違いをまとめてみる

冒頭で述べたのはあくまでも私の主観ですが、さまざまなメディアが公表するランキングにもかなりのバラつきがあります。ここでは、代表的なランキングについてまとめてみましょう。

 

タイトル

調査機関・対象・方法

A

シティブランド・ランキングー住みよい街2023ー

・日経BP総研

・2万1941人のビジネスパーソン(有識者=働く世代)

・ウェブ調査

B

街の住みここちランキング2023

・大東建託

・全国47都道府県居住の20歳以上の男女、2019~2023年合計806,722名対象に集計。

C

全国住みたい街ランキング(2023年版)

・生活ガイド.com

・会員19,106名にインターネット調査

D

住みよさランキング2023

・東洋経済

・2023年6月時点で、全国にある市と特別区(東京23区)のうち812市区を対象としている。

・「安心度」、「利便度」、「快適度」、「富裕度」の4つの視点から20のデータを用いて偏差値を算出。

E

都道府県魅力度ランキング2023

・ブランド総合研究所

・47都道府県と国内1000の市区町村を対象に、全国の消費者3万4117人の有効回答を得て集計。

F

みんなが選んだ住みたい街ランキング2023

・SUUMO

・首都圏:東京都、香川県、埼玉県、千葉県、茨城県在住の20~49歳の合計10,000人の男女。

・関西:大阪府、兵庫県、京都府、奈良県、滋賀県、和歌山県在住の20~49歳の合計4,600人の男女。

各ランキングのトップ5とは?

各メディアによるランキングの上位5位は、以下の表の通りです。

 

A

B

C

D

E

F

(首都圏)

F

(関西)

1位

武蔵野市

(東京都)

東京都

神奈川県

横浜市

野々市市

(石川)

北海道

東京都

港区

兵庫県

西宮市

2位

千代田区

(東京都)

福岡県

北海道

札幌市

武蔵野市

(東京)

京都府

東京都

世田谷区

大阪市

北区

3位

中央区

(東京都)

沖縄県

福岡県

福岡市

福井市

(福井)

沖縄県

東京都

渋谷区

兵庫県

明石市

4位

港区

(東京都)

神奈川県

東京都

港区

文京区

(東京)

東京都

東京都

目黒区

大阪市

天王寺区

5位

文京区

(東京都)

北海道

東京都

世田谷区

白山市

(石川)

大阪府

東京都

新宿区

兵庫県

神戸市

中央区

対象が都道府県だったり、市町村だったりでバラつきがありますし、SUUMOの「みんなが選んだ住みたい街ランキング」は全国順位ではなく、首都圏、関西とエリア限定でのランキングであるため、一概に比べるには無理があります。

しかし、東京都武蔵野市や東京都港区、都道府県で言えば北海道や沖縄県、東京都など毎年のように上位にランクインする街が共通していることに気付きます。他方、TOP5でさえ各ランキングでかなり相違があることもお分かりいただけるのではないでしょうか?

さらに、注目すべきは東洋経済の「住みよさランキング」のみが居住者を対象にしたアンケート方式ではなく、データに基づいているため、石川県の野々市市と白山市という全国的に知名度がそれほど高くない自治体が上位に食い込んでいる点です。

「住みやすさ」を定量化する

さて、前出のランキングは若干タイトルは異なりますが、いずれも「住みやすさ」を定量化しようとする試みです。バラつきが出るのは、その定量化の仕方が異なるからです。どのように異なるか、以下にまとめてみましょう。

 

ランク付けの方法

A

「安心・安全」「快適な暮らし」「生活の利便性」「生活インフラ」「医療・介護」「子育て」「自治体の運営」「街の活力」という8つの分野・合計39項目で「住みやすい街の条件に当てはまるか」を尋ねた。39項目のそれぞれについて、5段階で評価を尋ね、加重平均値を算出し、39項目のポイント合計値を偏差値化。

B

現在居住している駅・行政区について「全体としての現在の地域の評価(大変満足:100点、満足:75点、どちらでもない:50点、不満:25点、大変不満:0点)」の平均値から作成

C

詳細は不明

D

「安心度」、「利便度」、「快適度」、「富裕度」の4つの視点から20のデータを用いて算出。各指標について、平均値を50とする偏差値を算出し、すべての指標の偏差値を平均したものを「総合評価」としている。

E

各地域に対して魅力度など全89項目の設問を設け、地域のブランド力を、消費者が各地域に抱く「魅力」として数値化。

F

「あなたが、今後住んでみたいと思う街(駅)はどこですか」という質問に対し、最も住んでみたい街(駅)は3点、2番目に住んでみたい街(駅)は2点、3番目に住んでみたい街(駅)は1点として、合算してランキングを作成。

表に示されている通り、各メディアとも定量化の方法は大きく異なります。かなりざっくりとした主観や感覚に基づいているものもあれば、細かく項目を設けてできるだけ精緻に分析し、総合的に「住みやすさ」を数値化しているものもあります。

また、よく見ると、ランキングの中には「実際に住んでみて良かった街」と「今は住んでいないけど、今後住んでみたい街」があることに気付きます。そして、後者はその街に対する「イメージ」や「好感度」や「ブランド力」「知名度」によってかなり左右されそうです。

「住みやすさ」とは?

では、「住みやすさ」はどのように定義されるべきなのでしょうか?

例えば、私が誰かに「福岡県太宰府市は住みやすいですよ」と言うときに想定しているのは、あくまでも「私個人」、あるいはせいぜい「私の家族」によって「住みやすい」ということであり、ありとあらゆる年齢層、背景を持つ人にとって「住みやすい」と言ってる訳ではありません。

また、一人の人が「住みやすい」「住んでみたい」とある市町村を定義するときに、その街の交通機関の利便性や行政サービスや施設の充実度など、ありとあらゆる要素を考慮して数値化している訳でもないでしょう。

あくまでも自分が必要なものが必要十分であり、「使いやすい」と言っているに過ぎないのです。例えば、シニア世代にとって、子育て支援の行政サービスよりも重要なのは医療サービスですし、ビジネスパーソンにとって利便性は重要ですが、忙しくて使う余裕がなかなかない文化・スポーツ施設の充実度は二の次ではないでしょうか。

さらにどれだけ行政サービスが充実していても、自然環境が少なく、街の景観が殺伐としているなら、どの年代であっても幸福感を感じにくいはずです。

このように考えると、「住みやすさ」とは、一人ひとり異なるもので、かなり感覚的なものであることが分かります。他方、「住みやすさランキング」もどちらかというと、街の「ハード面」ばかりにフォーカスしているようにも思えます。

そう考えると、「住みやすい街」ランキング第一位のエリアに引っ越せば誰でも幸せになれるわけではないといえそうです。それは、スペックが最高だとされるタワマンに住めば誰もが居心地よく感じられたり、幸福感を感じられたりするわけではないのと同じです。

では、誰にとっても「住みやすい」街とは果たして存在するのでしょうか?それを知るためには、そもそも私たちの幸福と住む場所との関係について調べてみる必要があるでしょう。

次回はその点について取り上げます。

著者:河合良成
2008年より中国に渡航、10年にわたり大学などで教鞭を取り、中国文化や市況への造詣が深い。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。現在は福岡在住、主に翻訳者、ライターとして活動中。

(TEXT:河合良成 編集:藤冨啓之)

 

参照元

データ活用 Data utilization テクノロジー technology 社会 society ビジネス business ライフ life 特集 Special feature

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