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Takram代表の田川欣哉氏と、データビークル代表で統計家の西内啓氏はともにV-RESASプロジェクトのメンバーとして立ち上げから参加してきた。西内氏は企業や社会に専門家としてのデータサイエンティストがいなくも、一人一人がデータリテラシーを高めてデータ活用ができる仕組みづくりを目指しているという。田川氏は、V-RESASがその一助になれたらと期待する。データ活用の未来について、2人はどのような姿を描いているのか。

DXを実行するにはデータのDXも必要

株式会社Takram 代表取締役 田川 欣哉氏

田川: コロナ禍によって、データを取り巻くいろいろな物事の動きが、相当変わってきたと思います。西内さんは分析サービスを提供するデータビークルの代表取締役を務めています。データドリブン経営という言葉もありますが、どう見ていますか。

西内: 最近の大きな変化でいうと、まず、オフラインのビジネスがオンラインに切り替わる速度が10年ぐらい早まった気がします。テレカン(テレカンファレンス)やテレワークなどを活用した働き方についても、今では多くの企業に広がっていますが、コロナがなかったとしたら、2030年ぐらいまで進まなかったのではないかと思います。

株式会社データビークル代表取締役 西内 啓氏

テレワークが進むと、業務のパフォーマンスをモニタリングできるような仕組みが必要になってくるでしょう。一方で、顧客とのタッチポイントなどははっきりと浮き上がってきます。これまで対面でやっていた商談がオンライン化することで、意図するかしないかに関わらずデータがどんどんたまり、それが競争力の源泉になっていきます。どういう人が自社の商品やサービスを購入してくれているのかなど、はっきり見えてくるわけです。

ある実証研究では、データドリブンに意思決定する企業はそうでない企業と比較し、5%~6%ぐらい生産性が高いという結果が出ています。中期経営計画にデータドリブンなどのキーワードを掲げている企業も増えています。ただ、それが株主向けのポーズで終わるか、本気で取り組むか分岐点に来ていると感じます。

田川: データを活用できている企業とそうでない企業との差が広がりそうですね。

西内: DX(デジタルトランスフォーメーション)と言いながら、データドリブン経営になってないのは、データの統合がうまくできていないことが多いですね。

例えば、ウーバーイーツ(Uber Eats)は、それまでの飲食業と比較するとかなりDXだと思います。ところが、大量にデリバリーしている料理のデータ構造を分析できる状態におそらくなっていません。ウーバーイーツは店舗ごとのメニューと届け先の住所は管理していてもここから売れ筋商品の共通した特徴などはやろうと思っても分析しにくいでしょう。

ウーバーイーツはデリバリーのオペレーションさえしていればいいのですが、食品メーカーやレストランチェーンだったらそれでは済みません。同じように、現状はかなり大手企業でも、製造現場とマーケティング担当者ではアクセスできる情報が違うことがよくあります。それは、レシート(POS)の商品マスターと、製造側マスターがつながっていないために発生します。この状態では、データをもとにしたヒット商品の企画や、キャンペーン施策の検討をデータドリブンに行うことができません。真のDXを実行するには、「データのDX」も必要なのです。

これからは「市民データサイエンティスト」が重要になる

田川: 西内さんはかねてから、データサイエンティストがいなくも、データ活用が企業で実践できる仕組みをつくりたいとおっしゃっていますね。

西内: 6年前に創業した時には、「これからはデータサイエンティストの時代だといわれているのに、なぜお前はそれを不要にする仕組みをつくろうとしているのだ」と言われました。

ただ、データからインサイトを引き出す能力は、全ての社会人が身につけるべき大切なスキルです。企業であれば、現場のマネージャーが、自分自身でデータにアクセスできる環境がなければ良い意思決定は難しいでしょう。そのためには、データサイエンティストだけに任せるのではなく、意思決定する人自身がデータリテラシーを高めなければなりませんし、ツールも必要です。このように、データの専門家ではないけれど適切に扱える人のことを「市民データサイエンティスト」と呼んでおり、これから重要性がますます高まる存在だと考えています。

「市民データサイエンティスト」がデータからインサイトを得て、自分で意思決定をしたり生産性を上げたりできる時代がやってきます。コロナ禍によってその時がさらに早まることになりました。なぜなら、ビジネスの多くのプロセスがオンライン上に置き換わり、「現場を体験する」といったことが難しくなる一方で、蓄積されるデータの量と幅は大きく増加したからです。

田川: 「市民データサイエンティスト」の必要性は、DX文脈においてかなり核心の部分にありそうですね。 アナログオペレーションをデジタル化するといった表面的なことにとどまらず、情報へのアクセスや透明性も高めなければなりません。それによって、市民のステークホルダーがエンパワーされて自分で考えて判断して実行できるようになる、そんなイメージが広がります。

データの「抽象」と現場の「具体」をつなぐことで本質が見える

田川: 西内さんは、2021年、さらには、この先2、3年ぐらいでどのような変化が起きると予想していますか。

西内: 一つはデータの「同期性」です。テレカンでミーティングをしているときには、同期性はそれほど重要ではありません。しかし、音楽のライブイベントなどでは、曲に合わせて観客が同時に手を挙げるといったことが、大切な体験になります。サッカーなどのスポーツイベントでも同様です。同じタイミングで歓声が上がることで、興奮が増幅します。

ただし、音楽のようにミリ秒単位のタイミングが必要となる場合、オンラインになると同期性を実現するのが難しくなります。日本とブラジルで同期しようと思っても光の速度という限界がある以上どうしてもズレが生じます。そういう点で私は、求めるニーズから見ても、今後はリアルタイム性と同期性が分かれていくと考えています。収録だったら同期性を上げられる(タイミングの調整が可能なため)が、リアルタイムだと同期性が下がる、そのトレードオフになったときに、どちらを選ぶかということです。例えば、あるオンラインの映像配信サービスでは、動画の配信をリアルタイムより1秒程度遅らせることで、ユーザーの同期性を確保しています。

田川: それは面白い視点ですね。前編で少し紹介しましたが、現在、V-RESASではコロナの新規陽性者数の表示がされています。感染と経済を一つのサイトの中で可視化するという独自のサイトにまた一歩進化しています。

ただし、今のところ両者を重ねて表示はするものの、互いの相関性については出さずに、見る人にある程度任せようと思っています。ミスリーディングを避けるためでもあります。

西内: 確かに、感染と経済を両方一緒に出して両者の相関を計算処理してしまうことにはリスクが伴います。

もちろん、アルゴリズムはつくれると思いますが、そのためには特定の現象が生じる背後の仕組みが今後も一定であるという仮定が必要です。物理現象や生理現象ならそれが一定だといえるかもしれないのですが、社会現象ではなかなか難しい。ファッションのトレンドなども刻々と変化します。さらに、前編で議論したように、コロナの感染者数に対する人々の外出自粛の心理も大きく変わります。変化するものに対してアルゴリズムを活用すると、ミスリーディングになる恐れがあります。

田川: アルゴリズムで相関を示すのは簡単ではないでしょうね。最終的には人間が判断することになると思います。

ただ、前編で西内さんから、スピリッツなど一部の酒類の売り上げが突然増加したのは、品薄状態となった消毒液の代替品を求めたからに違いないといった話もありました。このように、データを見て、それを社会に投影できる力を磨くためにはどうすべきでしょうか。

西内: まずはデータのスケールをそろえるのが大事です。一方のデータがゼロから10,000まで動くのに、他方が100までしか動かないと、ずっと下に張り付いたままになってしまって比較ができません。

スケールをそろえるとき、さらに言えば外れ値をきちんと除去してうまく収まるように整理することも重要でしょう。あともう一つ大切なポイントは、データを毎日見ることです。そうすればちょっとした動きでも、ノイズなのか傾向なのかが直感的に判断できるようになります。

田川: その点でV-RESASは、データの鮮度が高く毎週更新のペースで提供されますから定点観測がしやすいと思います。

西内: さらに、データは基本的にすごく抽象的なものなので、具体と抽象の往復がすごく大事だと思います。

例えばレストランチェーンの店舗開発などの仕事に携わっている場合、実際の店舗や街の様子をまったく見ずに、V-RESASのデータだけ見て「人が戻ってきている」からと出店を決めるのは非常に危険なことです。

自分で店舗や通りを歩く人の様子を見て、人が少し戻っているというのはこういう状況なのだと、具体側を捉えることが大切です。それが自分の中で経験できると、今度は抽象だけ見ていたとしても、きっとこういう状況だろうとつながりが見えてくるでしょう。

田川: V-RESASが、皆さんとって抽象と具体とをつなぐ新たな発見の場になるように進化させていきたいと思います。本日はありがとうございました。

写真左|株式会社Takram 代表取締役 田川 欣哉氏

テクノロジーとデザインの幅広い分野に精通するデザインエンジニア。主なプロジェクトに、トヨタ自動車「e-Palette Concept」のプレゼンテーション設計、メルカリのデザインアドバイザーなどがある。東京大学工学部卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了。経済産業省 産業構造審議会 知的財産分科会委員。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート名誉フェロー。

写真右|株式会社データビークル代表取締役 西内 啓氏

1981年生まれ。東京大学医学部卒。東京大学助教、ダナファーバーハーバードがん研究センター客員研究員、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長等を経てデータビークル代表取締役。現在多くの企業のデータ分析および分析人材の育成に携わる。統計家、Jリーグアドバイザー。著書に『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)など。

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/下原  PHOTO:Inoue Syuhei  編集:野島光太郎)

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