About us データのじかんとは?
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河村:コミュニティ運営者は必ずコミュニティの存在価値を経営陣に説明をする必要に迫られます。その時にどのように説明すればよいのか、話し合っていきたいと思います。はじめに、横田さん、田中さんのコミュニティ歴を、自己紹介を兼ねて教えてください。
横田:コミュ二ティとの最初の出会いは、小学5年生のときの学級委員です。じゃんけんに負けて委員になった(笑)のですが、やってみると面白かったため、中高生になっても続けました。多様な人たちをまとめあげるという経験が、その後の起業にもつながっていると思います。
20歳を過ぎた頃(約20年前)にはJa-Jakartaプロジェクト(Apache Jakarta Projectの日本語訳を通じた普及促進グループ)に参加。これがエンジニアのコミュニティとの出会いで、そのときのよい体験があって、2005年にFlexユーザーグループからAdobeのコミュニティをつくりました。これは全国で約5000人規模のデベロッパーコミュニティでした。また、AWSのコミュニティでも宴会予約担当などを務めていました。
大学在学中にスタートアップのお手伝いなどを経て、就職せずに会社をつくりました。その会社(クラスメソッド)は創業20周年を迎えています。現在はDevelopersIOやZennのコミュニティ運営、会社経営を続けています。
田中:私は、高等専門学校(高専)時代にロボット製作を介して、CAD/CAMシステムの裏側にサーバーがあることを知り、サーバーに興味を抱きました。1994年ごろ(当時16歳)は、オープンソースOSのLinuxやBSDなどが出てきた時期で、自分でサーバーを立ち上げて喜んでいました。目新しかったWebサーバーを高専の研究室に置いたサーバーに勝手に立ち上げていたら学校から怒られて、仕方がないので外にサーバーを構築したのが、さくらインターネットの始まりです。
創業は1996年、18歳のころです。それからWeb2.0と呼ばれる時代に入り、日本で次々に登場し成長していった数々のインターネット系企業を主要顧客として成長、2005年に上場するに至りました。2015年くらいにはディープラーニングやブロックチェーンのブームがやってきて売り上げが数倍になりました。一時はデータセンターバブルやAmazon(AWS)の台頭といった逆風もありましたが、2022年くらいから国内のパブリッククラウドを求める声が大きくなり、ガバメントクラウドやGPUクラウドなどで成長しています。
コミュニティ活動としては、創業の少し前にAppacheユーザー会が日本で立ち上がり、そのコアメンバーの一人として技術コミュニティの運営や部会の企画などをやっていました。またPHPユーザー会の立ち上げなどにも関わらせていただきました。
現在はさくらインターネットの経営の他、インターネットプロバイダー協会の副会長、ソフトウェア協会の会長、日本データセンター協会理事長、経産省の外郭団体のIPAの技術者コミュニティのプロジェクトマネジャーなど、マーケティング的ではないコミュニティでの活動がメインになっています。
河村:横田さん、田中さんの会社ではコミュニティを運営はしておらず、コミュニティディレクターも不在とお聞きしています。運営者ではない立場、また経営者視点から、コミュニティとビジネスとの関係をどのように捉えていますか。
横田:自社製品や事業、興味関心のある技術などについて常に考えて取り組める場所としてコミュニティは必要です。世の中には、顧客と会社、上司と部下、社員と経営などのようなある種の対立関係がありますが、コミュニティはそうではなく、同じ目標に向かって横に並んで伴走し、お互いに刺激を受け合いながら前に進んでいこうという関係性が保てるものです。
田中:立場を超えて「壁」を壊していく存在がコミュニティだと思います。会社、部署、製品など、さまざまな要素ごとに壁ができやすく、壁の内部にいると居心地がいいので基本的にその単位でグループになりやすいものです。(壁を壊す必要性が出たときに)無理に崩していくのではなく、なんとなく気持ちよく崩していける、あるいは(壁により分断された2つを)融合させていけるのがコミュニティのよさだと思います。
河村:ビジネスにとってコミュニティはどのように位置づけられますか。またコミュニティをビジネスに生かすためのポイントについて教えてください。
横田:事業の目的は、事業を通じて何か世の中をよくしたい、負の部分を解消したい、よりクリエイティブなものを提供したいといった思いを実現することです。コミュニティ運営も自分(自社)の業務のKPIを達成するためにやるのではなく、参加する人たちの課題が一つでも解決することを目指して取り組むべきだと思います。
田中:コミュニティからのフィードバックによって、経営者が自社を客観的に見ることができるという利点があります。最近の経験ですが、競合会社の人から「御社のカスタマーサポートの人とコミュニティを通じて仲良くしていますが、LTV(ライフタイムバリュー/顧客生涯価値)の話をよくされていて素晴らしいですね」という話をされました。実は弊社では全社的にLTVを大切にしようという考え方をとっていますが、この出来事は、個々の社員が会社の思いをコミュニティで発信し、それが外部に伝わり、その評価が返ってきたということです。これは、嬉しかったです。
横田:LTVについて、自社のプロダクトやサービスを長く使ってもらうことだと捉えている人が多くいるようです。しかし、本質的なLTVは、自社のプロダクトやサービスがなくなったとしても、顧客課題が解決されてその業界やビジネスがうまくいくようにすることではないかと思います。コミュニティは、その役割を果たせる存在でもあるでしょう。
田中:LTVは、自社と一緒に仕事をしている人たちや業界の人たちが、長くバリューを提供できるようにすることだと、拡大して理解することもできます。私はさくらインターネットがなくなったとしても、働いていた社員や、サービスユーザーからバリューが提供されることを期待したい。会社やプロダクト関係者たちは、(一心同体ではなく)相棒のような存在で、分裂したり融合したりするものです。ですから、特定の会社や製品がLTVを実現するというより、それに関わったコミュニティの人たちによってLTVが実現されるのだと思います。
横田:コミュニティへの参加は奉仕活動であって、(会社にとって)リターンがないと思われる経営者もいるかもしれませんが、そのくらいの方がおそらく協力者が増え、信頼してもらえるでしょう。コミュニティで(利他的な)活動を続けていくと、いつの間にか仕事の相談が増え始めるものです。これがコミュニティ活動の意義の一つかと思います。
最初からプロダクトなどについてアピールすると、営業トークのようになってしまい興ざめされてしまいます。まわりの人のために活動をしていれば、回り回って自分にリターンがあるという成功体験を持っている人は、当たり前のようにコミュニティに貢献しています。リターンが実感できているからです。
河村:コミュニティは、事業成長に対してどのような役割を担えるのか、あるいはどう作用できるのでしょうか。
横田:どんなによいコミュニティをつくっても、事業成長しないとコミュニティも成長しません。例えば、Adobe Flexに関する素敵なコミュニティがすごくよい状態に成長したことがありますが、マーケットが縮小したタイミングでコミュニティも縮小していきました。コミュニティが成長するには、成長マーケットにあるプロダクトやサービスがテーマであることが大前提になります。そこにおいてよいコミュニティ活動が行われると、マーケット成長との相乗効果で(社会に)大きな貢献ができると思います。
田中:成長しなくなったマーケットでプロダクトをつくり続けられるかというと、経済合理的にできない可能性が高い。そんな状況でコミュニティをやっていたら、「次のバージョンは出ないのか」「どうして開発を止めたんだ」とひどく非難されることになるでしょう。その意味でも、コミュニティ活動は成長分野ですることが重要だと思います。
下降トレンドにある市場でコミュニティを頑張るのであれば、コミュニティ活動を通じて成長分野を見つけ出し、製品開発などにフィードバックし新しい製品開発につなげるなど、本当の意味で顧客の役に立つようなことを探してくることが大事です。
横田:マーケットの成長トレンドは変動するものなので、コミュニティマネジャーは先行きに不安を持つことがあるかもしれませんね。
田中:また、マーケットがまだ伸びていないとしても、将来伸びるかもしれない気配はコミュニティ内で感じとれるのではないかと思います。このままいくと危ないのか、希望が持てるのかを、会社やプロダクトマネジャーにフィードバックする、いわば「炭鉱のカナリア」のような役割を、コミュニティマネジャーが担えるでしょう。
河村:コミュニティマネジャーと経営者がこのような会話ができると、コミュニティに投資する理由の解像度が上がると感じました。しかし、経営者はコミュニティにどこまで期待していいのか分からない状態なのかもしれません。
横田:コミュニティ活動にアクセルを踏んでいいのか、長く続けるためにコストを抑えるべきなのか、経営者もためらっているのでしょう。
田中:経営者はどうしても数字しか見られなくなりがちで、顧客の声に触れる機会が少なくなります。だからこそコミュニティマネジャーが定量的でないウェットな声をフィードバックして経営者に伝えることによって、経営者の視野を広げることができるはずです。コミュニティ活動には、そういった価値もあると思います。
横田:確かに、コミュニティ参加者のフィードバックを経営者が継続的に知ることは、経営者にとって自信につながります。
田中:経営は数字だけでできるわけではありません。伸びる会社とそうでない会社が数字以外の部分で分かれるとすれば、コミュニティマネジャーは会社を伸ばすための役割の多くを担うことができると思います。
河村:ウェットなユーザーズボイスが経営者のマインドに変化をもたらす可能性があるということでしょうか。
田中:その通りです。また、経営者には、中長期にわたりみんなで頑張り、結果として会社がよくなればいいという思いもあります。そう考えると、経営はもっと数字から解放されてもいい気がします。
横田:私も、数字を見るのは嫌いではありませんが、数字しか見ていないと面白くない。喜んでいるお客さまの顔をイメージしながら仕事していますが、実際のお客さまの声を直接聞く機会は少ないものです。そこで、(コミュニティに参加した)社員から間接的にフィードバックをもらえるとしたら、すごく大事な活動だと思います。
河村:ユーザーのウェットな声を経営者に届ける場をコミュニティマネジャーがつくっていくことで、経営に理解を促すことができること、さらにコミュニティのネクストステージが生み出される可能性を感じました。ありがとうございました。
(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣 編集:野島光太郎)
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