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アカデミアと経済界がタッグ結成! 社会課題が“発生する前”にエビデンスによって解決を図る。 日本のトップランナーが集結する 一般社団法人Data for Social Transformationが発足

2022年11月1日、一般社団法人Data for Social Transformationが創設された。同法人は「学問的独立性を徹底的に担保したエビデンスを提供する第三者効果検証機関」であり、「事前領域を中心とした研究によって、社会保障領域における課題を発生前に食い止め、持続可能な社会保障システムを構築し、人々のウェルビーイングの実現」を目指すという。

         

2022年12月16日に行われた一般社団法人 Data for Social Transformation設立発表会(以下DST)では、共同代表理事の高島宏平氏(オイシックス・ラ・大地株式会社 代表取締役)がDSTの設立背景や活動意義を解説した。

社会保障の領域でデータの見える化を進め根本的な解決を図る

2022年12月16日に行われたDST設立発表会

日本の社会保障給付費は約120兆円だといわれる。一般会計歳出総額の3分の1を占め、これからも急増していくことも見込まれている。しかも社会保障予算の大半は、何か問題が起きた後の「事後領域」(病気になった後、介護が必要になった後、離職した後など)に使われ「事前領域」への投資が非常に少ないのが実状だ。

高島宏平氏(オイシックス・ラ・大地株式会社 代表取締役)

「事前領域への投資が少ない理由の1つは、事前領域(主に医療・介護・雇用)における効果検証の方法が定まりきっていないことだと考えられます。そこで、民間主導で効果検証方法を確立する団体を立ち上げる必要性を感じていました」(高島氏)

事実、海外にはエビデンスにもとづく社会変革の事例がある。その1つが、2003年アメリカMIT内に創設した「J-PAL」(The Abdul Latif Jameel Poverty Action Lab)だ。

J-PALはランダム化比較試験によるエビデンスにもとづき「貧困」問題の根本的な解決策を見いだした。具体的には、世界の貧困削減に「発展途上国での、体内の寄生虫を駆除する駆虫薬の配布」が最も費用対効果が高く、かつ子どもの通学率向上に対しても寄与することを突き止めた。高島氏は「データの見える化によって社会変革することが、少なくとも貧困領域においてはできている。であれば、われわれは、社会保障の領域を中心に、データの見える化をしていきたい」と話した。

もともとDSTは2019年9月、経済同友会内に設立した「負担増世代が考える社会保障改革委員会」(委員長は高島氏)を母体としている。

委員会はこれまで社会保障領域におけるイノベーションの第三者効果検証期間「ソーシャル・データ・リサーチ(仮)」構想提言(2021年4月)、各業界を代表するマルチステイクホルダーからなる「Data for Social Transformation勉強会」発足などの活動を推進してきたが、「このままのかたちで政策提言だけをしていくのではなく、民間が自分たちの力で活路を見いだす必要がある。新しい団体をつくり活動しよう」との議論が生まれ、そこに各界から数々の有志が発起人に名を連ねた。

エビデンスが導く日本の未来。社会課題解決と経済活性化を目指して

設立発表会と同日、DST発起人がパネリストを務めるトークセッション「エビデンスが導く日本の未来 社会課題解決と経済活性化を目指して」が行われた。パネリスト各者はDSTで活動していく上での現状課題、期待値についてそれぞれコメントを寄せた。

武田薬品工業株式会社 代表取締役 日本管掌 岩﨑真人氏

日本の医療制度は優れています。平均寿命も日本人は世界トップレベルです。しかし高齢化に伴い増加傾向にある医療費・介護費が社会保障給付費の多くを占めることなどからサステナブルではありません。DSTでの活動は日本の医療のレベルを全く毀損(きそん)することなく、効率的な医療につなげられるものと私どもは考えています。事前領域にたくさんのエビデンスをつくり、病気にならなくていい人を病気にさせない、進行しなくていい病気を進行させない、そのような効率的で質の高い医療を実現していきたい。

これまでにも企業やグループごとにさまざまな検討が行われてきましたが、それだけで世の中は動きませんでした。いくつかの自治体で行われるソーシャルインパクトボンドのような仕組みを生むためにも、ベースとなる各種データを公共財として使い、そこへの投資から効率的な医療を生み出していかなければなりません。世界、特にアジアでは高齢人口が増えており、今の日本の課題は今後の世界的な問題ともいえるでしょう。DSTでの成果を日本の学びとして発信していくようなグローバルな展開も視野に入れています。

Zホールディングス株式会社 代表取締役社長 Co-CEO 川邊健太郎氏

インターネット上のサービスは全てデータにもとづいたデータドリブンです。例えば、当社は災害領域における国産データプラットフォーマーとして災害大国・日本の課題を解決していきたいと考えます。ユーザーの住まいや行動履歴、地域のハザードマップ、さらに気象データなどを組み合わせれば、人は災害に対して事前に予防的な行動をとれるようになるでしょう。また事前だけでなく、このようなデータ活用は災害事後においても、地域行政による被災者ファーストな支援につなげられます。

データ活用の研究をしていく上で研究者たちは極力RAWデータに近い状態を望みますが、個人情報保護法によって、個人データの目的外利用は禁止されています。DSTでは複数のデジタルプラットフォーマーが協力の姿勢を表明していますが、ユーザーデータの利用に関しては各社ユーザーの理解を得たりデータを匿名化したりするなど社会的コンセンサスをつくることも課題となっていくでしょう。

慶應義塾大学 総合政策学部 教授 中室牧子氏

予防の考え方は子どもたちへの教育でも注目されています。不登校や虐待などが起こる前に救済できていたら、本人やご家族が傷つかないのはもちろん、社会的なコストも抑えられます。連続して欠席する不登校状態の前には何らかの予兆(休みがちになるなど)を現すものですが、いまだ学校の出欠席は紙への手入力で行われており、先生や教育委員会が予兆に気づけません。データで打ち手をつくることが、ますます重要になっていくと思います。

アメリカのハーバード大学に立ち上がったOpportunity Insightsでは、コロナ禍の影響を誰がいつどこで受けているのか、かなり細かくリアルタイムで分析し、それを政策に生かす活動をしています。一方、日本は長く続いたコロナ禍においても、エビデンスがないままに意思決定が下されてきました。私が委員を務める規制改革推進会議 でも、先日医療レセプトデータ開示の規制緩和についてようやく議論が行われた段階です。DSTでは、民間企業が提供するデータを使いながらイノベーティブな研究を行うとともに、公共政策に役に立てられる知的公共財の創出を図っていきます。DSTの活動で政府にプレッシャーをかけ、政府の在り方も変えていきたいです。

慶應義塾大学 医学部 教授 宮田裕章氏

これまで日本の医療領域では病気が進行した後、患者が医療機関を受診した段階からのデータが注目されていました。すでに病気が進んだ状況からでは、できることが限られてきます。例えばフレイルなら、スマホで歩行速度を測る(モニタリングする)ことで、もっと手前の段階から、病気を予測できる可能性があります。コロナ禍で行われた全国調査データでは、エビデンスが分かってからアクションするだけではなく、リアルタイムなつながりから社会を変えていくことができました。それが今日のデジタルデータの力です。DSTの連携の中で新しい課題を見ていきたいと考えています。

ここに集まった企業・大学の研究者を皮切りに“信頼”の中でどうデータを使っていけるか、がDSTの中核だと思います。民間・学会の連携によりデータをしっかりと蓄積するとともに、マイナンバーポータルを軸とする官との取り組みにも期待しています。フェアに議論を戦わせることももちろん辞さないですが、官の立場だけではやりにくいところでも共に活動していきたいです。正直、日本のサステナビリティは非常に厳しい状況ですが、国内の課題を解決し、世界に向けて未来を切り開く成果を発信していきます。

DSTが展開する3つの「第一弾研究」

DSTが発足後に注力していく「第一弾研究」では「マッチング理論×新卒配属」「男性育休の取得推進」「介護離職低減」3テーマのもと、プロジェクトが推進されている。2022年11月2日開催のオンライン説明会の内容から、各プロジェクトの概略を振り返ってみよう。

詳細は「DST第一弾研究 参加企業募集のお知らせ」から。

マッチング理論を活用した新卒配属手法/東京大学 教授 小島武仁氏

小島氏らのマッチング理論では、独自に研究を進めたマッチングアルゴリズム(G-Sアルゴリズム)を応用し、「お互いが相手に対して既に好みの順番を持っている」状況下で最適な意思決定を分析する。DSTでは実際の「新卒採用後の配属」に適用しながら、離職率・労働時間・エンゲージメント・メンタルヘルス・生産性などへ及ぼす影響を評価していく。

例えば、同アルゴリズムによって、社員側(キャリア形成)と部署側(経営戦略を意識した人材配置)双方の希望を最大限に尊重する配属を実現するという。過去に行われた実証では、「新入社員の80%以上が第一希望部署に配属」「約75%がキャリアを考えるきっかけに」「入社後8カ月時点で、異動を希望しない回答数が65%増加」「部署側の約75%が育成計画や受入体制の検討をできるように」などの成果を得た。社員側に自分のキャリア形成ができているという強い意識を持たせると同時に、企業のパフォーマンスも向上した。

男性育休取得推進施策の実証研究/東京大学 教授 山口慎太郎氏

法整備などにより「男性育休」の認知・活用は、日本国内の企業でも徐々に広がっている。2023年4月からは従業員1001人以上の大企業を対象に、取得率公表が義務化されるため、この動きはこれからも拡大する見込みだ。非財務情報として投資家に評価されたり、人財採用面で有利に働いたりするなど男性育休拡大のメリットは大きいが、現実的な取得率は低い水準のまま。他国と比較していまだ圧倒的に低いのが現実だという。

要因の1つとなっているのが男性育休に対する心理的なネガティブイメージだ。企業側、特に中小企業経営者の間では「男性社員まで育休を取得してしまったら現場業務に負担がかかりコストが増大する」などデメリットとして語られることもある。山口氏らの研究では男性育休取得推進施策(育休研修・イクボス研修)が取得率・労働時間・生産性エンゲージメントなどに及ぼす影響を検証する。実証事業で得たエビデンスの確立から、日本企業の在り方を変える契機にすることを目的としている。

介護離職撲滅施策の実証研究/東京大学 教授 山本則子氏、筑波大学 准教授 目 麻里子氏

厚生労働省が行った調査によると、家族介護者(家族に要介護者がいる者)の約6割は就労状況下にある。中には介護開始間もなく離職(介護離職)に至ることも少なくなく、離職理由には「離職以外の選択肢が思い浮かばなかった」と回答するケースもあるという。社会保障給付費の増加に伴い、労働世代の負担が増大する中、労働力確保は企業の重要施策であり「介護と仕事の両立」は日本における喫緊課題だといえる。介護休暇など、介護離職を防止するための支援・施策が整備されつつあるものの、現実的な利用率は低く「+α」の取り組みが求められているという。

介護離職者ゼロを目指す山本氏・目(さっか)氏らとの研究では、民間企業を対象に「介護と仕事の両立」の準備性を高めるeラーニングプログラムを開発・公開。プログラム参加前後の比較試験(効果検証)を実施し、アンケート調査から職場風土・介護休暇取得促進に与える影響を科学的に明らかにしていく。

設立発表会で高島氏は「データの力で社会を変えたい」と力強く意気込みを語った。データが、日本の社会医療や人々のウェルビーイングをいかように変えていくのか。DSTの動向に注目していきたい。

一般社団法人 Data for Social Transformationの詳細はこちらから。


(TEXT・取材: MGT 編集:野島光太郎)

 
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