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新時代のデータの使い方。ニューヨーク・タイムズに見る「データ・ジャーナリズム」

         

今月の特集は「データ×ニューヨーク」ということで、ニューヨークにまつわるデータの話をお送りしています。

多民族国家であるアメリカでは「当たり前」や「常識」と言った日本人同士では伝わりやすい感覚も、人種や宗教、育った環境や地域、受けて来た教育、あるいは言語などにより一人一人異なります。

そうなってくるとやはり感覚よりもデータに頼ることが多くなるのかもしれません。データの蓄積もあらゆる分野で進められているようです。先進事例も多く、参考になる部分も多いのではないでしょうか。

本記事では、ニューヨーク・タイムズの「データ・ジャーナリズム」に迫ります。

データ・ジャーナリズムとは

データ・ジャーナリズムとは、データを統計学的に分析したり、それらのデータをビジュアライズしたりすることで、これまでにない視点からの取材活動を可能にし、新しい表現で読者に情報を伝える手法のこと(参考記事)。コンピューターなどを駆使して世の中にあるデータを活用して報道する、新しいジャーナリズムの形です。

IT技術の進歩により、多種多様で膨大な事象がデータとして記録されています。これらのデータを分析することで、一見関連性のないような事象同士を比較できるようになったり、抽象的な情報を理解しやすいものにしたりすることが可能です。

またデータは客観的に情報を示すことができるので、従来のように記者や編集者の主観が入りません。紙面の大きさや放送時間などにとらわれず、すべてのデータを公開することができます。

ニューヨーク・タイムズに見るデータ・ジャーナリズム(1)

2012年の米大統領選において、ニューヨーク・タイムズ紙は50州全州で勝敗を的中させています。的中させたのは、政治ブロガーで統計の専門家ネイト・シルバー(Nate Silver)氏。KPMG会計事務所在職中、メジャーリーグの野球選手の統計的評価システム「PECOTA」を開発しています。これは、映画「マネー・ボール」に登場するセイバーメトリクスをオンライン化したものなのだそうです(参考記事)。

シルバー氏の分析手法は、選挙区の人種、宗教などの人口動態、世論調査などの膨大なデータを収集し、確率論によって選挙予測をするというものです(参考記事)。当初は古参の選挙分析専門家からの批判があったようですが、結果としてシルバー氏に軍配が上がりました。

ニューヨーク・タイムズに見るデータ・ジャーナリズム(2)

全米に広がる「汚染水域(Toxic Waters)」。市民が飲んでいる水は果たして安全なのかについて、ニューヨーク・タイムズは「Find Water Polluters Near You」というサイトを公開し、居住エリアが汚染されているかどうか地図上で調べられるようにしました。マップ上に色別の点が記され、汚染源が近くに存在するか一目でわかるようになっています。

このToxic Waterプロジェクトは、政府に対して情報開示請求を500回以上繰り返すことでサイトを制作。「5割以上の米国人が、国が定めた基準を超えて汚染された水を利用していること、そして5万人以上の米国人が有害物質『アトラジン』の含んだ水を利用していること」を明らかにしました(参考記事)。

こうした取り組みが政府を動かし、2010年には環境保護局(Environmental Protection Agency:EPA)が飲料水に関する規制の見直しと化学製品の使用に関するルールを強化しました。Toxic Waterプロジェクトは、優れた調査報道に贈られる「IRE Medal」を受賞するに至ったのです。

ニューヨーク・タイムズの「改革」

ニューヨーク・タイムズはこれまで、記者・編集(デスク)・カメラマンが中心でしたが、体制を変え、データを分析するチーム、データを可視化するチーム、ニュースアプリの構築などを行うチームを編集の中心に据えました。

これからの記者に求められるのは「ニュースを届ける、より良い方法を知っていること」「エンジニア、デザイナー、アナリストたちに『これはできるか?』『このツールは使えるか?』と問うことができるかどうかだ」と、同誌のデレク・ウィリス氏は語っています(参考記事)。

「見せ方」がますます重要になってくる

データジャーナリズムは、これまで記者が集めてきた情報に加えて、統計学の専門家による分析や、デザイナー・プログラマーによるビジュアライズ化、いわゆる「見える化」が加わります。どういったグラフィックにするか、プログラムを走らせてどのような動的コンテンツにするかなど、情報の「見せ方」が重要になるということです。

このような手法が一般的になれば、これまでのようにただ取材をして記事にするだけではなく、「データ」「ビジュアル」などあらゆる視点から複合的に考え、客観的に伝える姿勢が必要です。ますます伝える側の意識改革が求められる時代になってきているのではないでしょうか?

データのじかんでは、データ・ジャーナリズムの今後の展開にも注目していきたいと思います。

(参考記事)
 【解説】データジャーナリズム - Insight for D
 データジャーナリズム英米最新レポート(1) ニュースを読者の「自分事」に変えたニューヨーク・タイムズの水質汚染報道 _ News&Analysis _ ダイヤモンド・オンライン
 データジャーナリズムの新風、報道をどう変える:日本経済新聞
 大統領選でニューヨークタイムズのネイト・シルバーの数理モデル予測が全50州で的中―政治専門家はもはや不要?
 米大統領選の投票結果を完璧に予測! 新たに生まれたヒーロー、ネイト・シルバーとビッグデータ分析(市川 裕康) _ 現代ビジネス _ 講談社(1_3)
 

(安齋慎平)

 
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