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【書評】『遅刻してくれて、ありがとう』 “加速時代に成功するための楽観主義者の考え方”とは?

         

「遅刻してくれて、ありがとう」

時間を守ることが当たり前な我々にとって、上記の文言は奇妙に感じられるはずです。
しかし、“立ち止まって”考えてみれば、そう感じたことが一度はあるのではないでしょうか?

ピューリッツァー賞を3度受賞し、『フラット化する世界』など時代を洞察するベストセラーで知られるジャーナリスト/コラムニストのトーマス・フリードマン氏は2016年刊行の自身7冊目の書籍にこの奇妙なフレーズ「Thank You for Being Late(遅刻してくれて、ありがとう)」を冠しました。

彼はなぜそんなタイトルをつけたのか、このフレーズをキーとする「加速時代」へのヒントはどのように記されているのか。
本記事では、それらをお伝えするべく、同書を書評してまいります。

『遅刻してくれてありがとう』ってどういう意味?

「遅刻してくれて、ありがとう」執筆のきっかけについて、フリードマン氏は4つのパートと14章からなる書籍の第1パートで明らかにしています。

「熟考(REFLECTING)」と題されたその章で紹介されているのが、自身のファンだというエチオピア出身の駐車場係、兼Web活動家との出会いについてです。偶然出会った彼に、メールアドレスを教え、オピニオン・ライティング(文章で情報を伝え、人々に影響を及ぼしたりひとつの問題についてこれまでとは異なる形で考えるよう働きかける方法)について説明したフリードマン氏。

それによって湧きあがったのが、今の世界を自身がどう捉えており、それにどんな結論を見出しているのかを“オピニオン・ライティング”するためのフリードマン氏自身のエネルギーです。

そうして執筆された「遅刻してくれて、ありがとう」は、この休みなく加速しており、立ち止まることを許さず、私たちを振り落とさんばかりに進み続ける世界を示唆する言葉です。

アメリカのコンピュータネットワーク機器開発会社Ciscoが2017年に行った調査では、1984年には毎月17ギガバイトだった世界のデータ流通量は、2017年に約70億倍の122エクサバイト(1220億ギガバイト)にまで増加したということです。

引用元:世界のデータ総量ってどのくらい?データ総量、データ通信量(IPトラフィック)の意味から最新の予測まで徹底解説!!┃データのじかん

データのじかんの『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』(NewsPicksパブリッシング、2020)の書評記事でも触れられていた通り、ムーアの法則(半導体回路の性能が2年ごとに倍増することをインテルの共同創業者ゴードン・ムーア氏が経験則で仮定した法則)に象徴されるデジタル技術の発達とコラボレーションに後押しされ、世界の成長は加速しているように感じられます。

それは、もはや人間の適応能力すら凌駕しているように思えるでしょう。

そのような状況下で、フリードマン氏やわれわれが感じる切迫感やそこから逃れたい気持ちを反映したフレーズが「遅刻してくれて、ありがとう」なのです。

「加速の時代に成功するための楽観主義者による手引書」に記されていること

『遅刻してくれて、ありがとう』の原書には以下の副題が添えられています。

・An Optimist’s Guide to Thriving in the Age of Accelerations = 加速の時代に成功するための楽観主義者による手引書

“加速の時代に成功するための方法”を知りたいと思い、この本を手に取る人も多いでしょう。

その疑問に応えるべく、用意されているのが第3章にあたる「イノベーティング(INNOVATING)」のパートです。例えば8章目「AIをIAに変える」では、AIに代表される自動化技術により既存の仕事が置き換えられる中で、AI(Artificial Intelligence:人工知能)をIA(Intelligence Assistant:知的補佐)として使うためのアイディアが紹介されています。MOOCに代表されるような無料で学べる良質なオンライン講座は数多く勃興し、AIによる学習補佐システムやオンラインでスキルを評価するシステムにより、効率的に学びそれを仕事につなげる手段がどんどん有用なものになっているようです。

第3のパートでは、ほかにも「母なる自然」という政治上のメンター(師匠)の存在や、フリードマン氏が生まれ育ったミネソタ州ミネアポリスで機能する組織の取り組みやその背後にある考え方について紹介されています。

しかし、副題に冠せられた「楽観主義者による」の意味を理解するには、第4パート「根を下ろす(ANCHORING)」とそれにつづくハードカバー刊行後の追加パート「<その後>それでも楽観主義者でいられる」を読まなければならないでしょう。

それでは、第2パートでは何が記述されているのかというと、「加速(ACCELERATING)」と題し、第3章の前提となる加速する現代のあり方が、テクノロジー、マーケット、地球環境といった視点から、2007年という年に着目しつつ説明されています。

世界は減速している? それとも加速している?

世界は加速している、という見方に反論する書籍も2020年に執筆され、2022年に邦訳出版されています。オックスフォード大学の地理学教授ダニー・ドーリング氏によって記された『Slowdown 減速する素晴らしき世界』(東洋経済新報社、2022)では、データの生成量、テクノロジーの進化、経済成長、出生数などさまざまな面で長いスパンでは減速が発生し、安定期に突入することが予想されています。

世界は加速しているのか? 減速しているのか?

その答えは実のところ、基準となる時間の尺度や、スピードメーターを合わせる対象によって異なるのでしょう。

『遅刻してくれて、ありがとう』は基本的には世界が加速している世界観を前提としつつも、そのことを無批判に肯定せず(例えばユーチューブがテロリスト集団の動画に広告をあてがったニュースなどを例にとり)、フリードマン氏の意見や倫理に貫かれることで、世界の加速・減速に左右されない一定の普遍性を獲得しています。

一見、どんな内容なのかわかりづらいタイトルですが、それもフリードマン氏が「コラムニスト」として事実を意見に昇華させてオピニオン・ライティングを行ったことを反映しているのでしょう。

「遅刻してくれて、ありがとう」という言葉は、加速/減速する世界から今ここへ意識を引き戻し立ち止まって考えることを、あなたに語り掛け、促しています。

終わりに

現代はどんな時代なのか、これからどうなっていくのかについて興味を持ち、データや他者の洞察を得て自分なりの見解を育てていきたいと考えている方は多いはずです。

「遅刻してくれて、ありがとう」はそんな時代の趨勢について記述しながら、ではどうするべきかまでニューヨークタイムスの人気コラムニストの立場からオピニオンを発信する書籍です。

ぜひフリードマン氏と対話する気持ちで、同書を開いてみてください。

【参考資料】
・トーマス フリードマン (著), 伏見 威蕃 (翻訳)『遅刻してくれて、ありがとう(上) 常識が通じない時代の生き方 遅刻してくれて、ありがとう 常識が通じない時代の生き方 (日本経済新聞出版) Kindle版』日経BP、2018
・トーマス フリードマン (著), 伏見 威蕃 (翻訳)『遅刻してくれて、ありがとう(下) 常識が通じない時代の生き方 遅刻してくれて、ありがとう 常識が通じない時代の生き方 (日本経済新聞出版) Kindle版』日経BP、2018
・木村剛久『[書評]『遅刻してくれて、ありがとう』┃論座
・ダニー・ドーリング (著), 遠藤 真美 (翻訳), 山口 周 (解説)『Slowdown 減速する素晴らしき世界』、東洋経済新報社、2022

宮田文机

 
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