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認知症1,200万人時代がやってくる①‐認知症をデータでみる重要性

認知症1,200万人時代がやってくる①‐認知症をデータでみる重要性

2025年9月15日に総務省統計局が「敬老の日」にちなんで発表した統計によると、日本の高齢者人口は3,619万人(2025年9月現在)で、人口に占める割合は過去最高の29.3%になりました。少子高齢化が進むことが日本社会に与えるインパクトは広範囲に及びますが、中でも懸念されているのが認知症患者の増加です。内閣府の認知症施策推進関係者会議によると、2050年時点の65歳以上の高齢認知症患者は推計で586万6,000人、軽度認知障害(認知症の前段階、MCI)患者は631万2,000人、合わせると約1,200万人になるとのことです。

自分も家族もいつなるか分からない「認知症」、でもどこか他人事のように感じてしまう方もいらっしゃるでしょう。このシリーズではデータを組み合わせながら、認知症のリアルに迫り、年代に関わりなくこの問題に私たちはどのように関わるべきなのかを見ていきます。「認知症1,200万人時代がやってくる」シリーズ第1回では、認知症の基本的な理解を概観します。また、このテーマについていたずらに不安を感じたり、感覚的に捉えたりするのではなく、データに基づいて検証することの重要性についても考えます。

         

2025年の100歳は10万人近くに

前出の総務省統計局の発表によると、2025年の100歳以上の高齢者人口は99,763人で、2024年より4,644人増加したそうです。そして、私の祖母もその中に含まれています。

「治安維持法」が制定された1925年に生まれた祖母はコロナ前までは庭木の剪定や畑仕事にいそしみ、体を毎日動かしていました。また、家族や友人たちの誕生日や電話番号はすべて暗記しており、記憶力が自慢でしたが、100歳が近づくにつれて、少しずつ記憶障害が見られるようになりました。

自分で記憶していた場所に大切にしていたものが見つからないと「盗まれた」と即断してしまうことが増え、時にその矛先は家族に向けられます。そんな祖母の姿に少なからず戸惑いを感じていた私に認知症を真剣に考えるようきっかけを与えてくれた1本の映画がありました。

それは、アンソニー・ホプキンスが認知症の父親を演じた「ファーザー」。この映画は記憶と時間が混迷している父親の視点から描かれているため、観る側は何が「現実」で、何が「妄想」なのかがだんだんと分からなくなっていきます。しかし、確かなことは認知症の父親にとってはすべて「リアル」だということ。この映画を通じて、私は「物を盗られた」と声を上げる祖母の頭の中をわずかながら垣間見れたような気がしました。

認知症の専門医でのちに自らも認知症になった長谷川和夫氏は、自らの病状について公表した理由について次のように述べています。

それはやはり、認知症についての正確な知識をみなさんにもっていただきたかったから。認知症の人は、悲しく、苦しく、もどかしい思いを抱えて毎日生きているわけですから、認知症の人への接し方を皆さんに知ってほしかったのです。
(『ボクはやっと認知症のことがわかった(KADOKAWA、2019年)29ページ』)

認知症とは?

認知症の代表的な定義として、WHO(世界保健機関)が出している国際疾病分類第10版(ICD-10)があります。それによると、認知症とは「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断等多数の高次脳機能の障害からなる症候群」を指します。

また、介護保険法では「脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能及びその他の認知機能が低下した状態をいう」とあります。

以上の定義から分かるのは認知症が「症候群」「状態」を指すということ。前出の長谷川氏は長年の臨床経験から認知症の本質は、「いままでの暮らしができなくなること」だとしています。

代表的な認知症には以下の3つがあります。

アルツハイマー型認知症

・脳細胞が減少し、脳が委縮することで引き起こされる

・世界でもっとも多い認知症で、80歳以上では20%以上を占める

・記憶障害のほかに理解力・判断力の衰えによって、これまでできていたことが難しく感じられる
血管性認知症

・脳梗塞や脳出血など、脳の血管がつまったり破れたりすることで引き起こされる

・記憶障害、意欲低下、無関心などの症状を示す
レビー小体型認知症

・大脳皮質の神経細胞内にレビー小体という特殊な変化が表れることで引き起こされる

・幻視が初期症状として現われ、歩きにくい、身体が硬いなどの症状を伴う

また、認知機能が低下しているものの、日常生活に支障がでるほどではない状態は「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれます。MCIの時期にはもの忘れや理解力の低下があるものの、滞りなく日常生活を送れるため、進行の様子をきちんと見届けることが重要だとされます。

日本の認知症患者数の現状と推移

厚生労働省によると、2022年時点の日本の認知症患者数は約443.2万人で、高齢者における有病率は12.3%でした。つまり、高齢者の8~9人に1人が認知症患者ということです。

冒頭で紹介したように2050年には認知症の高齢者は586.6万人になることが推計されており、高齢者における認知症有病率は15.1%になり、2060年には17.7%にまで上昇します。

また、2022年時点の年齢・男女別の認知症有病率は以下の通りです。

年齢男性女性
65~69歳1.1%1.0%
70~74歳2.8%3.1%
75~79歳6.0%7.4%
80~84歳15.9%16.9%
85~89歳25.2%37.2%
90歳以上36.6%55.1%

軽度認知障害(MCI)については以下の通り。

年齢男性女性
65~69歳10.0%4.6%
70~74歳12.1%5.9%
75~79歳18.7%13.8%
80~84歳22.9%21.7%
85~89歳34.2%23.2%
90歳以上32.5%17.0%

こうしたデータから「人生100年時代」といわれるものの、90歳以上ではほぼ半数が認知症を患っており、MCIを含めると男女とも7割以上が何らかの認知症の低下を経験していることが分かります。つまり、誰もが加齢とともに認知症になることを前提にして人生設計をしておくべきなのです。また、家族に認知症を患った人がいても、特別視したり、過度に悲観的になったりすることなく、正しい知識を持って寄り添う「仕方」について知っておく必要もあるでしょう。

まとめ:認知症と「共生」する社会

シリーズ第1回では認知症とはそもそもどんな症状なのか、また日本社会における現状について概観しました。

データから見えてくるのは今後ますます社会の中で認知症が「当たり前」になるということです。25年後には認知症1200万人時代を迎える今から、認知症と「共生」する社会を構築していく必要があります。

次回はデータから認知症患者増加が引き起こす「介護崩壊」のシナリオを検証します。

書き手:河合良成
2008年より中国に渡航、10年にわたり大学などで教鞭を取り、中国文化や市況への造詣が深い。その後、アフリカのガーナに1年半滞在し、地元の言語トゥイ語をマスターすべく奮闘。現在は福岡在住、主に翻訳者、ライターとして活動中。
 

(TEXT:河合良成、編集:藤冨啓之)

 

参照元

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