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特集「CIOの履歴書」 社会課題への貢献を軸にしたキャリア形成(中編) 参天製薬株式会社 原実氏

当協議会では「CIOの履歴書」と題し、CIOとして活躍されている方々の「CIOに至るまでのキャリア」、「CIOの後のキャリア」について迫りCIOのキャリアについて考察するとともに、読者の皆様に「CIOの魅力」をお伝えできればと考えています。 第9弾となる今回は、数々の国際機関を経て参天製薬株式会社CIOに就任された原さんのお話をご紹介します。 キャリアの軸にグローバルな社会課題への貢献を置かれている原さんのこれまでのキャリアやCIOに至った経緯、また、CIOというポジションの魅力についてお話しいただいています。

         

現職のCIOに至った経緯

── 民間企業に移られたのはどのようなお考えだったのでしょうか?

原氏: 国際貢献の夢を諦めたのかと思われる方もいますがそんなことはありません。

持続可能な開発目標(SDGs)には17個のゴールがあり、その17番目のゴールはグローバルパートナーシップの強化となっています。SDGsのコンセプトの前身はミレニアム開発目標(MDGs)というフレームワークがあったのですが、その頃は、国際機関あるいはJICAのようなODA機関等の国際開発に取り組む機関自身が、なるべく自分たちでリソースを確保して、プログラムを実装する形の活動が多かったようです。

そのときの反省点は、そのやり方ではスケールしないし持続可能ではないということでした。民間企業を含めありとあらゆるプレイヤーを活用して国際的な課題を解決していかないと、とても追い付かないということでSDGsのゴールの17個目に“パートナーシップ“が組み込まれました。国際機関が全て自分でやるのではなくて、プレイヤーを巻き込んで取り組んでいくということです。

SDGsには健康に関するテーマがあります。ユニバースヘルスを確実に進歩させることがゴールの1つで、その取り組みには、例えば製薬企業や、研究機関、あるいは実際に医薬のフィールドで活動をする公的機関など様々なプレイヤーが関わっています。このSDGsの中で自分が活躍するための継続性が保てる範囲で意味のある仕事ができるところであれば国際機関以外でもいいと考えて、出会ったのが今の会社です。

── 参天製薬に入社を決めてからCIO に着任されるまでの期間はどのような取り組みをされていたのでしょうか?

原氏: 私が参天製薬に入社したタイミングは、ちょうど参天製薬自身が2020年までの10年間の長期ビジョン「Vision 2020」の締めくくりをしており、次の10年のための長期ビジョン「Santen 2030」の準備をこれから開始するところでした。当時、製薬業界やヘルスケアのトレンド、会社の置かれている状況や外部環境など、全部洗い出して、会社として目指す方向を見定めて長期ビジョンを作る時期でした。

CIOに就任する前に、幹部陣と共に「Santen 2030」の土台を作る全社プロジェクトにIT部門の代表として参画することができました。

土台作りに取り組みながら、並行してCIOになる準備をしていました。CIOになったときには、自身も準備に関わった会社の長期ビジョンとビジネス戦略への深い理解のもとで、会社の目指す方向に対して私の担当するデジタル&IT本部がどう貢献度を拡大していくべきかを決めることが、参天製薬でのCIOとしての最初の課題でした。

── 参天製薬に入社を決める時点では、どこまでビジョン検討に参画できる見込みだったのか、Santen 2030というビジョンがどういうものになるのかはご存じだったのでしょうか?

もちろん入社時点でははっきりしたことは分かりません。ただ、入る前に何人かの幹部と話す機会があり、どういう変革が起こりそうかは分かった上で「これならば」と納得して入りました。

現職での取り組みについて

── CIOとしてどのような取り組みをされているか教えてください。

1つ前の長期ビジョン「Vision 2020」では“医薬品メーカーとしてグローバルマーケットでのプレゼンスを高めていく”という、これまでの強みの幅を広げることを掲げた長期ビジョンでしたが、新しい長期ビジョンではより視点を広げ、医薬品を開発して世の中に届けるという製薬企業としてのコアのビジネスだけではなくて、“世界中の一人ひとりが「見る」に関する最善の体験を通じて、それぞれの最も幸福な人生を実現する世界を創る”ということが謳われています。参天製薬が持つ基本理念を軸にどういう形で社会に貢献するのかをちょっと広い視点で謳った長期ビジョンになっています。

参天製薬の基本理念/World Vision

そして、全社のテーマに対してIT、デジタルを使ってどのような貢献ができるかを組み立てたのが私の部門の中期戦略であるSantenデジタル戦略フレームワークです。

Santenデジタル戦略フレームワークは、「社会への価値創出に対するデジタル」、「オペレーショナルエクセレンスを追求するためのデジタル」、さらにそれを支えるための「組織のケイパビリティを支えるためのデジタル」という3階建ての構造にしています。この戦略の中で必要なテーマとして、6つのフォーカスエリアを設定しています。

Santenデジタル戦略フレームワーク

3階部分の1つ目は「グローバル展開」です。これは会社が世界中の患者さんに対していろいろなリージョンでソリューションを提供する価値提供の活動を進化させる取り組みに対して、デジタルやITがどう貢献するかというテーマ、戦略です。

2つ目の「デジタルヘルスサービス」は、今までの医薬品を開発してそれを治療薬として届けるというコアの部分だけでなく、その周辺においてデジタルサービスとしてどういう価値提供ができるかを追求するテーマです。この2つが社会への価値創出に対する貢献になります。

ですが、社会への価値創出のみを謳っていても実はなかなか効果が出せるようになりません。組織内部のプロセスの変革やデータの利活用が進化していかないと、社会貢献の実現には結びついていかないと考えます。そのために下2段階の戦略を設定しています。

2階にあたるオペレーショナルエクセレンスのためのデジタルの1つのテーマは、デジタルを活用した「バリューチェーンの変革」です。我々は製薬企業なので研究開発や製品供給、製造や品質保証の取り組みや患者さんに届けるまでバリューチェーンの機能を持ちますが、そのそれぞれを新しい形に進化させていくというトランスフォーメーションのテーマになります。

もう1つは全社を通じて「データ利活用」のレベルを上げることでオペレーショナルエクセレンスを高めていく取り組みをデジタル&IT本部のコアのビジネスとして取り組んでいきます。

さらに1階部分では、組織のケイパビリティを高めるためのDXをテーマとしています。組織のケイパビリティを高めるためには、単にリモートワークが実現するためのデジタルツール提供に留まらず、この環境によって社員のエンゲージメントを高めたり、あるいは今までにはできなかったようなコラボレーションの仕組みができるようになったり、あるいは「デジタルワークプレイス」に移行することで今までよりもスピーディに業務を回せるようにしたりと、様々な進化を実現していくためのテーマになっています。

こういったものを全部支えていくためには、様々なリスクがあります。事業領域が拡大したりデジタルサービスの利活用が進展することで、サイバーセキュリティのリスクが高まったり、あるいは様々な面から事業継続性のリスクが高まったりすることに、いかに対処していくかという「組織レジリエンス」のテーマを6つ目として設定しています。

6個の戦略の柱で、デジタル&IT本部とビジネス部門の連携を進化させ、参天製薬のデジタル、IT分野の価値、効果を最大化させていくことを今のCDIOのロールの中心に据えて取り組んでいます。

── 参天製薬のIT戦略は今までも3階建ての構造だったのでしょうか。

この3階建ての一番上のテーマをIT部門のゴールに埋め込むことは新しい試みです。

過去の情報システム本部の戦略は主に下の2階までの4つのテーマを含んでいました。一番上の2つのテーマは下の4つのテーマの延長線上にあったかたちでしたが、切り出して独立したフォーカスエリアにしているところが特徴で、そこが非常に難しいポイントでもあります。というのは、旧来のやりかたでは、何をもってうまくいっているかを測るのが難しいからです。ビジネス部門側のKPIと連携して数値目標に落とし込んだ上で、実際のデジタル&ITの戦略をマネージしていくことが、私の部門のガバナンスフレームワークの進化に繋がると信じており、日々私がリードして実行しています。

この活動には、実は国際機関時代にCIOやCIO代理をやっていた経験が役に立っています。国際機関というのは組織がグローバルな社会課題にどれだけ貢献できるかを常に思考して活動する中で、IT部門の活動もグローバルな社会課題への貢献に対してどれだけ根ざしているかを問われ続けていたことから、当時のIT戦略もできる限りグローバルな社会課題への貢献を取り入れた形の中期戦略を作ってリードしていました。当時の経験を民間企業である参天製薬で活かしたときにどんな形がいいのかを考え、中期計画や会社の置かれている新型コロナの流行や不確定な状況の中で最大限のアウトプットを出していくにはどうすればよいかと考え抜いたときに、このバランスだろうと思って作ったものがこの戦略です。

──後編へ続く


お話を伺ったCIO:原 実氏のプロフィール

原 実(はら みのり)氏
参天製薬株式会社 執行役員 チーフ デジタル&インフォメーション オフィサー(CDIO)

上智大学大学院工学修士(1994年)、イタリアSDAボッコーニ大学国際機関経営学エグゼクティブ修士号(2016年)。1994年よりNECにて製品開発や海外OEM展開を担当。1999年に国連職員に転身し、20年間で6か国の国連機関のIT職を歴任。国際電気通信連合(ITU)(インドおよびスイス)、国連本部(米国)、国連ボランティア計画(ドイツ)、国際原子力機関(IAEA)(オーストリア)の各機関にて、ITサービス、インフラ、セキュリティ戦略などを担当。2012年、国際労働機関(ILO)国際研修センター(イタリア)にて、CIOとして経営幹部会に参画。2017年、国連食糧農業機関(FAO)(イタリア)にてCIO代理としてIT・デジタル中期戦略を推進。2018年、参天製薬入社。2020年より執行役員 チーフ デジタル&インフォメーション オフィサーとして、グローバルデジタル&IT本部を統括。


聞き手:坂本俊輔
CIOシェアリング協議会 副代表理事、GPTech 代表取締役社長、元政府CIO補佐官

大手SIerでの業務従事ののち、ITコンサルティングファームの役員を経て、2010年にCIOアウトソーシングを提供する株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジーを設立。以降、一貫してユーザ企業のIT体制強化の活動に従事している。2017年からは政府CIO補佐官を兼業で務めた他、IT政策担当大臣補佐官や株式会社カーチスホールディングスのCIOなども務めた。

 
 

本記事は「一般社団法人CIOシェアリング協議会」に掲載された「CIOの履歴書」のコンテンツを許可を得て掲載しています。(インタビュー実施日 2021年5月7日)

 
 
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