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「いわき地域ものづくり中小企業等DX研究会」オープンセミナー第二回を取材:DX成功への鍵を握るのは「取り組み手順」と「ノーコード」!

         

福島県いわき市におけるDX化推進プロジェクト「いわき地域ものづくり中小企業等DX研究会」によるオープンセミナーの第一回目のレポート記事を前回はお届けしました。この研究会は、いわき地域でものづくりに携わっている中小企業を対象とし、デジタル技術を活用した効率化、業務モデル・ビジネスモデルの変革を行い、それぞれの事業の強化、そして新規事業の創出を目指しています。データのじかん編集部では、初回のセミナーに引き続き、2022年11月4日にいわき産業創造館 企画展示ホールAで開催された第二回目のオープンセミナーの様子を取材しました。

今回のセミナーは二部構成となっており、前半はデジタル化アドバイザー小柏美津夫(おがしわみつお)氏による「中小企業の効果的なDXの取り組み手順」~DXを事業戦略に活用する先進事例から学ぶ~と題された講演、後半はエバンジェリスト松浦真弓氏による「IT部門でなくても使える!簡単DXツールのご紹介」と題された講演が行われました。それぞれに非常に内容の濃い登壇だったため、その全てを網羅することは到底叶いませんが、そのエッセンスだけでも本稿ではお伝えしていきたいと思います。

講演1:「中小企業の効果的なDXの取り組み手順」~DXを事業戦略に活用する先進事例から学ぶ~

デジタル化アドバイザー 小柏美津夫氏

岩手県や福島県の製造業などへDX化を含めた企業支援を行なっているデジタル化アドバイザー小柏氏の講演はDXについて正しい理解をした上でいかにDXに取り掛かるか、という内容でした。

DX、つまりデジタルトランスフォーメーションという言葉は実は一つの概念ではなく、「デジタル」と「トランスフォーメーション」という二つの部分から構成されていて、デジタルという技術を活用して、なんらかの変革をもたらすところまでを含めてのDXである、という話を皮切りに、今世界がSociety5.0やSDGsに移行しつつあるという話、第一次産業革命以降のヒトモノカネを基調としたビジネスやそれを取り巻く社会が遂げてきた進化、今後の通信インフラが大幅に変化することにより社会がどう変わっていくのかなどDXにいたるまでの背景の説明がありました。

続いて、「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」の根本的な違いについても説明がありました。デジタイゼーションはデジタル化のツールを使い、自動化などを促し、コスト削減を実現することを目的とし、これはそれぞれの職場、あるいは社内レベルで起こることです。対してデジタライゼーションはデジタル化された情報を使って業務効率化を図ることや新しい価値などを創出することを目指し、その時の対象は市場と顧客になります。その上にDXがあり、ここでは会社の事業ドメインを再定義し、ビジネスのあり方そのものを変えていくことを目的としています。その対象は社会や世の中、というより大きなものになっていきます。

製造業においてのDX

それらを踏まえた上で、製造業においてはDXをどのように活用できるのか、というトピックに展開していきました。小柏氏によると、製造業におけるDX活用は、製品開発にかかわる「技術の高度化」、「生産のスマート化」、ロジスティックスを含めた「取引のスマート化」の三つのジャンルに分類されます。成功事例を分析してみるとそれらが実行される順序はある程度パターン化しており、「受注から入金までに扱う情報の見える化」、「情報のデジタル化と情報共有」、「全体プロセス最適化に向けたシステム連携」、「センシング、AI分析や情報活用」のような順に進むことが一般的だそうです。

そして、これらを実現させていくに当たって不可欠なのが「経営戦略の棚卸」です。自社の問題や課題を洗い出し、そこから自分の会社の商品やサービスを向上させることを目指す、あるいは顧客、自社の課題解決を目指す、原価の削減を目指す、経営環境の問題に対する方向性を決めるなど企業の全体戦略は極めて重要です。全体戦略の構築にはデータに基づいた客観的な判断が必要である点を強調しつつも、DXが成功するかどうかの鍵を握るのは小さな成功体験を数多く経験したDX人材が社内に育っていくことであり、自ら考えて改善を行えるようになる社員が増えてくればそれはデジタルトランスフォーメーションと呼んで差し支えない、と小柏氏は講演を締めくくりました。

講演2:「IT部門でなくても使える!簡単DXツールのご紹介」

アステリア株式会社 松浦真弓氏

続いての登壇者はアステリア株式会社の松浦真弓氏。松浦氏は地域創生や事業開発を軸に全国各地を回り、新しい技術やDXやモバイルデバイスの活用などを紹介する活動をしているエバンジェリストで、今回は「ノーコード」と「現場のDX」という二つのキーワードについてのお話しを聞くことができました。

日本はITエンジニア不足という問題に直面しています。今後それはさらに加速し、経済産業省の調査によると2030年には約59万人のITエンジニア不足が発生する、と予測されています。

それに加えて日本ではIT人材のおよそ7割がIT企業で働いている、という独特の事情があり(アメリカでは3割程度)、ITのことをまとめてベンダーに任せている「ベンダー頼り」と呼ばれる状況や、ITや情シス周りの業務が一人に集中する「ひとり情シス」という状況に陥りがちです。こうなると既存システムの運用保守が必然的に最優先業務になってしまうため、現在の中小企業でDXが進みにくい一つの要因となっています。

とは言え、新しいDX人材を雇用するのは難しく、人材育成には時間もお金もかかります。育った人材が他社に引き抜かれるリスクも当然あります。となるとDXを進めるのは無理なのでは、という話になってきてしまいますが、実際にDXを担うのは現場の人たちであり、一部の技術者ではなく現場の人たちがDXを進めていける仕組みづくりが必要になっています。これが「現場のDX」が重要な理由です。そして、現場のDXを進めていくために重要なのが「ノーコード」というもう一つのキーワードになります。ノーコードというのはNoCodeと書き、プログラミングなしでソフトウェアやモバイルアプリが作れる仕組みのことを指します。

「ノーコード」のメリット

IDCジャパンがノーコードについて行なった調査によると、2020年には8.5%だった導入率が2021年には37.7%まで急増しており、2023年に新規開発されるアプリケーションの実に6割がノーコードで作成されると予測されています。つまり、ノーコードというものは近い将来ごく当たり前の存在になってくるはずです。実際に日本で利用できるノーコードツールはすでに数多く存在します。

では、具体的にノーコードにはどんなメリットがあるのでしょうか?

一つは「アプリを自社で作れる」という点です。ベンダーに依頼するとコストも時間もかかりますが、自作することで、コストだけでなく、開発、テスト、修正などにかかる時間を全て大幅に削減することができます。

もう一つのメリットは「アプリを作る人=アプリを使う人」という点です。実際の業務を熟知した人が自分が使いやすいように考えて作るわけなので、これは極めて失敗しにくい状況だと言えます。

実際にノーコードを使ってDXを進める場合に必要な要素が三つあります。一つ目はノーコードツールを使ってアプリを作る「スキル」です。プラモデル感覚でアプリが作れるので、慣れると決して難しいものではないそうです。二つ目は「発想力」。これは現場にある課題をどうすればアプリで解決できるかを発想する力です。三つ目は失敗を恐れずに作って試す「実行力」です。ノーコード開発の環境では、もし最初に作ったアプリがうまく作動しなくても次の日の朝にはまた別バージョンを試してみることができるので、大失敗というのは諦めない限りまず起こり得ません。

Platioの紹介と実際の事例

モバイルアプリで解決しやすい問題の種類というのが大きく分けて三種類あります。一つは日報などの「業務報告」。さまざまな場面でアプリの手軽さが重宝されます。もう一つはチェックリストや点検などの「確認・管理業務」です。特にチェックリストとモバイルアプリは非常に相性が良いと言われています。三つ目はチーム内での「情報共有」。リアルタイムでの情報共有が可能となるので連携がとても楽になります。

その後、Platioを使ってモバイルアプリを作る手順の解説があり、検温記録を登録するアプリをその場で作るというデモが行われました。Chromeで開いたWebサイト上でテンプレートを選択し、ドラッグアンドドロップなどによる編集作業を行い、ユーザー登録などを行うだけでアプリが作成でき、すぐにダウンロードして使用することが可能という一連の流れのシンプルさとスピード感を実感することができました。

Platioは数多くの会社の現場ですでに導入されており、その一社である食品製造会社「おきなわ物産センター」の現場ではPlatioで作成した製造日報アプリが使用されています。かつては、紙に記入し、そこからExcelに転記して保存する、と言う作業をしていました。現在はアプリのみで全てが完結するため、作業が軽減されただけでなく、データを後で見直すことが容易になり、製造量の推移をグラフ化して確認することができるようになり、製造量の予測や人員配置の最適化が可能となったそうです。

まとめ:

前半の小柏氏のセッションはDXの目的、具体的な始め方およびゴール設定の考え方を短時間でまとめた情報量の多いもので、後半の松浦氏のセッションは現場のDXの重要性、そしてその起爆剤となるノーコードツールの紹介を中心に、これなら実際にできそう、と感じられる内容でした。全体を通じて、DXの実現には、業務を熟知している人たちがDX人材になれるかどうか、というところが鍵を握っており、一つずつの小さな成功体験を積み重ねていくのが重要であり一番の近道、ということが実感できるセミナーでした。質疑応答にも熱心かつ鋭い質問が数多く寄せらせており、このセミナーを聴きに集まった経営者たちのDXに関する関心の深さ、そして緊張感を物語っていました。

次回のいわき地域ものづくり中小企業等DX研究会は12月13日に開催されます。詳しくはこちらのページをご覧ください。いわき市近辺にお住まいの方は「いわき地域ものづくり中小企業等DX研究会」にぜひ参加してみてください!

(データのじかん編集部 田川)

 

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