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東北地方におけるDXの課題と可能性は? 「人が減っても豊かで幸せな未来を創る」をミッションに掲げる DX NEXT TOHOKUを取材

データのじかんでは、全国47都道府県の各地域のDXやテクノロジー活用のロールモデルや越境者を取材し発信している。「LocalDX」は地域に根ざし、その土地ならではの「身の丈にあったDX」のあり方を探るシリーズだ。 その第5弾となる本稿では、「人が減っても豊かで幸せな未来を創る」をミッションとして掲げ、東北におけるDXを推進する一般社団法人DX NEXT TOHOKUの理事・事務局長を務める株式会社コー・ワークス/株式会社アイオーティドットラン代表取締役の淡路義和さんを取材した。

         

昨今、官民を問わず一大テーマとなっているDX。少子高齢化や過疎化が叫ばれる中で、地方におけるDXにも注目が集まっています。しかし、人材や環境が首都圏とは異なる地方ではどんなDXが求められているのでしょうか。また、地方DXのリアルは今、どのようになっているのでしょうか。

一般社団法人DX NEXT TOHOKUは「人が減っても豊かで幸せな未来を創る」をミッションに掲げ、セミナーや無料相談、事業再構築補助金サポートなどさまざまな形で東北のDXを推進しています。その理事・事務局長を務める、株式会社コー・ワークス/株式会社アイオーティドットラン代表取締役の淡路義和さんに東北地方のDXにかける思いや現在の取り組み、その中で得た気付きについて伺いました。

QOLの高さが「変わらない」意識を生んでいる!? DX NEXT TOHOKU設立の背景にある思いとは?

――淡路さんがDX NEXT TOHOKUの設立を考えはじめたきっかけを、まずはお伺いできますか?

2009年に株式会社コー・ワークスを起業し、ITを軸としたモノ・コトづくりに取り組んできました。2015年ごろにIoTというキーワードが広まり始めて、その分野に力を入れ始めるようになります。その時期に“経営者としての社会性”のようなものが生まれてきました。

当時6~7歳だった息子を見て、「この子が生きる社会をいいものにしたい」と純粋に考えるようになり、社会に貢献することを意識するようになりました。

その息子が「仙台結構好きだよ」「(実家のある)秋田も好きだよ」と言ってくれたのを聞いて考えてみると、自分がお世話になった人、大事な人のほとんどが東北にいる、ということに気がつきました。そういった人々の顔を思い浮かべて「会いたいな」「元気かな」と考えるうちに“東北に貢献したい”という思いが湧き上がってきました。そこで自分ができるのはIoT、DXのナレッジ提供やデジタル化のお手伝いだなと思い、その分野で活動することを決めました。

――2021年3月30日に行われたDX NEXT TOHOKUの設立発表会では、ひとつのきっかけとして少子高齢化が取り上げられていました。

東北は少子高齢化に関しては最先端の地域です。私の故郷、秋田は2014年の調査で25市町村中、大潟村を除く24自治体が消滅可能性都市(※)として指摘されています。東北は宮城県以外、ほとんどそんな状態だと感じています。

※2010年から2040年にかけて、20~39歳の若年女性人口が50%以上減少する市区町村。少子化や人口流出により、消滅する可能性が指摘されている。

出典:DX NEXT TOHOKU 設立発表会┃一般社団法人DX NEXT TOHOKU YouTubeチャンネル

それでも東北はQOLが高いため、そこで暮らす人たちはあまり危機感を感じていません。秋田は食料もエネルギーも全国トップクラスの自給率で、外から資源が入ってこなくなっても暮らしていける底力があります。そういう背景があるからこそ、「変わらなくてもいい」という意識が生まれてしまっているのではないでしょうか。

しかし、若い人たちの多くは昔と変わらない生活がしたいわけではないので、優秀な人材は首都圏に出て行ってしまいます。それもひとつの選択肢ですが、彼らが地元で活躍できる環境も必要です。DXは選択肢を増やすための鍵となると私は考えていて、色々な人にそんな話をするうちに「じゃあ一緒にやりましょうか」という成り行きでDX NEXT TOHOKUが形作られていきました。

――淡路さんはそもそもなぜ東北でIT企業を起業されたのですか?

新卒で大手IT企業に就職して、東京でも何年か生活したのですが、「もう無理だ」と感じていました。東京での生活は東北で生まれ育った私が自然の豊かさとか澄んだ空気がないと生きていけない、ということを教えてくれました。それと同時に「誰もやってないことをやってやろう」という反骨心もありました。

それで設立したのが、ITを軸に「強みを生かして弱みを補完する社会」を目指すコー・ワークスです。2019年には、IoT事業に特化したアイオーティドットランも生まれました。前者はIoTセンシングによるダムの水門管理、後者はPoC自在なIoTデバイス「Tibbo-Pi」、吉野家の牛丼の「うまい・やすい・はやい」を見える化する「肉鍋全力センシング」など、さまざまなソリューションを展開しています。

DX NEXT TOHOKUの5カ年計画──ゴールは“解散すること”

――DX NEXT TOHOKU設立から1年間どのような活動をされてきたのですか?

DX NEXT TOHOKUは5年間のロードマップに従って活動しています。そこから逆算して、1年目である2021~2022年は地域課題を解決したり、企業のDXを促進したりするための実証実験に費やしました。

例えば、昨年夏から秋にかけて行ったのが、仙台市、東北学院大学、仙台高専や地場企業を巻き込んだアイデアソン&ハッカソンです。そこで高専の生徒から出たのが、通学に使っている電車が頻繁に止まって困るという課題でした。その原因を調べると、鳥獣被害であることが判明しました。それをITの力でどうにかするというのは、非常に面白い課題でした。

ちょうどそのとき、弊社はドコモと協力して、ICTスマート捕獲システムを開発していたので、それを大量に張り巡らせばいいのでは? そのための資金はもしかしたら鉄道会社から調達できるかもしれない。

こんな風に自分の身の回りの課題に気づいて、それをITで解決しようと試みる場があれば、それはDXにつながっていくのです。

――確かに、多くの偉大なる発明は身の回りのちょっとした不満から生まれています。2年目からはどのような計画をされていますか?

2年目は1年目に出たアイディアを全て仙台市で実装していくフェーズに入ります。20代~30代の若者中心のチームを作って、多くの自治体や企業も巻き込みながら地域課題の解決を実行していく予定です。住民ドリブンで自分たちの地域は自分たちでよくするという、課題解決のエコシステムをつくっていく段階ですね。

3年目は仙台市で作り上げたそのエコシステムを東北の他地域にインストールしていきます。地域ごとに課題は違っても、解決するためのスキームや体制、課題発見方法などは抽象化すれば応用できるはず。そうして、4年目は6県全部にそのエコシステムを構築して、5年目にはDX NEXT TOHOKUは解散することを目指しています

――「解散」が、DX NEXT TOHOKUのゴールなのですね!

ゴールを達成したら、もう必要ないじゃないですか。全てのものは、役割を終えたらなくなるのが当たり前です。それが物事のライフサイクルだと思います。目的を果たした組織が放置されるから利権問題なども生まれるのではないでしょうか。

5年後にはDXなんてもう古くて「当たり前でしょ」といわれるような状況にすることを目指しています。

DXは組織の活動の全てにつながる 主役はデジタルネイティブ世代

――活動を通して東北地方のDXにおける課題もみつかりましたか?

私も今年で46歳ですが、DXは40代以上のデジタルネイティブでない世代が主導権を握ると急激に鈍化します。30代まではデジタルネイティブですから、「DXは当然のこと」という感覚があるはずですが、それ以上の世代にその感覚はありません。例えば、ある若者からは、地方の金融機関を「非効率すぎて我慢できない」という理由で退職したと聞きました。「そんなの今時ある?」と驚いたのですが、いまだに何桁もの顧客コードを暗記するように求められる企業もあるそうです。

デジタルネイティブなZ世代は古臭い考えを嫌うし、無駄が多すぎる職場環境が自分の人生にとって本当にマイナスだと感じます。だから、今は彼らが活躍できる場所を東北にちゃんとつくることを目指しています。上の世代は若手を阻害せず、むしろメンターになってくださいと伝えたいですね。

――DXは効率化や利便性だけでなく若手の定着など全ての方面に効いてくるということですね。

デジタル化したからといって、それで終わりではありません。むしろそこからが本番で、ビジネスモデル同士を連携させて新たな価値を生むのが真のDXです。それは企業同士の協業だけでなく、副業も同様です。東北出身で地元に貢献したいと考えている優秀な人は都市圏にたくさんいらっしゃいます。でも、デジタル化できていない企業は彼らを活用できません。「うちは紙でしかやり取りしていません」といわれて、副業人材が集まってくれるでしょうか。

福島に磐梯町という街があるのですが、町長の佐藤さんは副業人材の活動に向けて自治体のDXに本気で取り組んでいます。彼曰く、副業人材が働ける環境さえできればもし自分がいなくなっても、優秀な彼らが街のために頑張ってくれるはずだと。ただのIT化ではなく、採用、事業創造など自治体、企業の存続にかかわる最重要事項としてDXに取り組むべき状況をもっと多くの人に伝えたいですね。

――ほかにデータ活用に関して淡路さんが注目する東北地方の取り組みはありますか?

10年以上前からアクセンチュアと共同でスマートシティ計画を進めてきた会津若松市のロールモデルは面白いですよ。特にすごいのが、市民が自分の街を便利にするために自分の意思で行うオプトインのデータ提供が実現されているということです。市民データは地域課題の解決にあたって非常に有益ですが、個人情報保護法により勝手にはアクセスできず活用されないままになりがちです。でも、会津若松では市民が自らデータを提供してくれる。それは、メリットがあることを知っているからです。そんなエコシステムがしっかりつくれたら、おそらくCode for Japanといったシビックテックの発想も加速するでしょう。

単にITシステムを導入するのではなく、データを自ら提供してもらうための仕組みづくりから徹底することがDXのキーとなるという話は会津若松ですごく丁寧にされていますし、僕たちもそれを踏襲したいと思っています。

ミッションでつながると人は強い 東北の取り組みを全国、世界へ

――DX NEXT TOHOKUの活動では、市民、自治体、企業などさまざまなレイヤーがしっかりとかみ合って次の道が築かれていますよね。

一人ひとりが自分ごとと考えられること、その前提としてミッションドリブンであることが機能したのかと思います。経済性や合理性はすごく大事ですが、それ以上に社会への貢献に目を向けて「この地域って持続性がない形で進んでいるとしたらまずくない?」という話は、丁寧にしてきました。やはり会社の経営と同じで、ミッションでつながると人は強いです。利害に関係なく、熱意が生まれてきますから。

――DX NEXT TOHOKUの取り組みはこれから東北全体に広がっていくのですね。

まずは仙台市のDXに本格的に乗り出す一年になるかと思います。他県にもどんどん活動の輪は広げていく予定ですが、まずはブランディングを含め、ある程度は仙台市に集中してやっていく必要があるかと。私は基本的にオブジェクト指向(※)で考えます。仙台の課題解決を通して、その仕組みを丁寧に抽象化・体系化すれば、全国、世界にインストールできるプロダクト・サービスになると考えています。

※システム全体を固有の機能を持つモノ(オブジェクト)の組み合わせとして捉える考え方。主にコンピュータプログラムの構築の現場で用いられる。

――ありがとうございました。

終わりに

DX NEXT TOHOKUのHPより

――東北地方について、みなさんはどのような印象をお持ちですか?

関西出身で、20代で東北に移り住んだ筆者には「地元愛が強い」という印象があります。東北楽天ゴールデンイーグルス、いぶりがっこ、中尊寺金色堂……、東北地方には素晴らしいもの・文化が数多く存在し、地元の人々はそれぞれに誇りを持っています。

もし、少子高齢化や人口流出によりそれらが失われてしまうとすれば、多くの人が阻止したいと考えるでしょう。そのために、いま最も有力な手段のひとつがDXなのです。

淡路さんの東北DXにかける思い、DX NEXT TOHOKUの取り組みの意義を本記事でみなさんにお伝えできていれば幸いです。自身の故郷、あるいは日本全体に「豊かな未来」を残すために、真のDX実現に取り組んでいきましょう!

淡路義和(あわじ・よしかず)氏
一般社団法人DX NEXT TOHOKU理事・事務局長/
株式会社コー・ワークス/株式会社アイオーティドットラン代表取締役

新卒で大手IT企業に就職し、本田技術研究所、気象庁などの案件でSE、プロマネとしての経験を積む。2006年独立し、クレープ屋やソフトハウスの経営に携わった後、2009年「ITを軸としたモノ・コトづくり企業」株式会社コー・ワークスを起業。2019年には、同社IoT事業をカーブアウトし、株式会社アイオーティドットランを興す。2021年3月、一般社団法人DX NEXT TOHOKU(略称 : DNT)を立ち上げ、東北地方のDXに深く携わり続けている。

 

(取材・TEXT:宮田文机 ・田川薫 PHOTO:山口晃 企画・編集:野島光太郎)

 

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