About us データのじかんとは?
ベストプラクティスを見つけて、労働生産性を最大化したい……!
そう志してデータ活用に取り組むことを目指す経営層の方々や、ミッションとするビジネスパーソンの方々は少なくないはずです。
しかし、コロナ禍など予期せぬ事態やVUCA時代に加速した時代の変化に対応するだけでは、それだけでは不十分。そこで注目を集めているのが「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」です。
本記事ではダイナミック・ケイパビリティの本質や獲得方法について基本的なポイントをまとめてご紹介します!
ダイナミック・ケイパビリティとは“企業が時代や市場の変化に合わせて自社の経営戦略を変革する能力”を意味します。ケイパビリティは、以下のような企業内の経営資源を通して競争優位を獲得する企業の能力のことです。
・ヒト
・モノ
・カネ
・データ
・時間
・IP(知的財産権)
・文化
これまで企業のケイパビリティといえば、上記の経営資源活用のベストプラクティスを探る「オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)」が一般的でした。しかし、1997年、カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールの経営学者デイヴィッド・J・ティースにより、ダイナミック・ケイパビリティ論が展開され、注目が集まることとなりました。
経営戦略を考える起点は主に、「業界内でいかに有利なポジションを得るか」「自社の資源をいかにうまく活用するか」の2つの立場にわかれます。後者の常套手段はオーディナリー・ケイパビリティを高め、他社と比較して優れた能力──コア・コンピタンス──を洗練することでした。しかし、研究が進むにしたがって分かってきたのがオーディナリー・ケイパビリティのみに注力し過ぎると、現状への過剰最適となり、競争力を維持できなくなるという現象(コア・リジリティ)でした。
この問題を解決する概念として考案されたのがダイナミック・ケイパビリティなのです。
ティース教授は「オーディナリー・ケイパビリティはものごとを正しく行う能力、ダイナミック・ケイパビリティは正しいことを行う能力」という説明をよく好んで用いました。
そして、ダイナミック・ケイパビリティの構成要素として以下の3つを掲げています。
(1)感知(センシング):周囲の環境の変化に気づく能力
(2)捕捉(シージング):感知した変化に合わせて既存のケイパビリティを再構成する能力
(3)変容(トランスフォーミング):新たなケイパビリティを企業全体に波及させ、組織全体を変革させる能力
これだけではわかりづらいため、ダイナミック・ケイパビリティが発揮された企業の事例を一つ見てみましょう。
1990年代、デジタルカメラの普及が急速に進み、従来の写真フイルムメーカーは大きな打撃を受けました。そこでダイナミック・ケイパビリティを発揮したのが富士フイルムです。写真フィルム技術を利用した保護フィルムの開発、写真の乾燥を防ぐためのコラーゲン関連技術を応用した化粧品業界への進出、医薬品・再生医療業界へ参入……。このように、写真業界に起きた破壊的イノベーションという環境変化を感知し、自社のケイパビリティを生かせる分野を見つけ、ときにM&Aなどでケイパビリティを増強しながら時代に合った企業へと変化していくこと、これこそが、ダイナミック・ケイパビリティの神髄と言えます。
他にも、以下のような企業もダイナミック・ケイパビリティを有していたといわれています。
・神戸製鋼(2000年の電気事業法の改正を感知し、製鉄の家庭で生じるガスを利用した売電事業を展開)
・Netflix(通信環境・デバイスの普及を感知し、DVD宅配サービスから動画配信サービスへ事業転換)
・ユニクロとビックカメラ(インバウンド需要の拡大を感知し、新宿に家電と衣料を一気に変える「ビックロ」を設立)
2つ以上のバラバラの経営資源を掛け算することで相乗効果や相互補完の効果を発生させるという考え方を「共特化の原理」といいます。先の事例を見ればわかる通り、ダイナミック・ケイパビリティはイノベーションや法改正といった変化に、既存の技術やノウハウを適応することで進められることが少なくありません。
すなわち、まずは社内外の変化に目を向けることが「感知」の能力を高めるためには重要だといえます。データが現代のビジネスにおいて金銭以上に価値あるものとされる理由の一つがここにあります。
現状を数値として表し、推移を経年で捉えることではじめて見えてくる変化があるからです。
また、『ものづくり白書2020年版(経済産業省)』において、ダイナミック・ケイパビリティが高い企業には以下のような傾向があるという考察がデータとともに紹介されています。
・創業年数が長い
・組織構造が柔軟(職務権限があいまいで人員入れ替え・転換も多い)
・経営者のリーダーシップが強い(オーナー企業>非オーナー企業)
・不測の事態に対する柔軟性や俊敏性を重視している
組織構造に置いてダイナミック・ケイパビリティが高い組織は柔軟に、オーディナリー・ケイパビリティが高い企業は堅固になりやすいというトレードオフの関係があるようです。とはいえ「ダイナミック・ケイパビリティを重視する企業はオーディナリー・ケイパビリティも重視している」という関係性もあるため、まずダイナミック・ケイパビリティに目を向けて組織のあり方を考えることをおすすめします。
ダイナミック・ケイパビリティと近しい言葉に「ビジネスアジリティ」があります。「アジリティ」とは俊敏さの事。時代や環境に合わせ、臨機応変に経営戦略を変化させる能力がビジネスアジリティです。
このように変革や俊敏さがテーマになる現代。その背景にあるのはやはりデジタル化でしょう。情報伝達速度が早まるに従って、企業は一時の成功体験に安住することを許されなくなっているのです。
目が回ってしまいそうな現実ですが、企業が生き残るためには無視できません。DXを進め、データを見逃さず、ダイナミック・ケイパビリティを獲得していきましょう!
【参考資料】 ・2020年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)┃経済産業省 ・黄 雅雯『ダイナミック・ケイパビリティ論の課題と可能性』商学研究科紀要 ・特別講演会抄録 成功する日本企業には「共通の本質」がある─組織の不条理とダイナミック・ケイパビリティ─┃経営センサー2020.4
(宮田文机)
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