【書評】『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』—私たちが捉える世界の姿は、一部が切り取られ拡大解釈されたものかもしれない | データで越境者に寄り添うメディア データのじかん
会員ページへmember
カテゴリー
キーワード

【書評】『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』—私たちが捉える世界の姿は、一部が切り取られ拡大解釈されたものかもしれない

         

ニュースを眺めていて、最近、高齢者が加害者となる交通事故が増えているなぁ、と感じます。

しかし、この感覚、本当に正しいのでしょうか?

この何気ない問いの重要性を教えてくれるのが、公共衛生学者であるハンス・ロスリング(Hans Rosling)氏が息子夫婦と共に書き上げた著作『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』です。

今作では、私たちのほとんどが勘違いしているであろう世界に対する多くの思い込みを、実際のデータと照らし合わせながら覆していきます。

世界を正確に捉えることは、ビジネスモデルやマーケティング対象を選定する上で非常に重要です。また、作中でロスリング氏はこう述べています。

ほかの本と違い、この本にあるデータはあなたを癒してくれる。この本から学べることは、あなたの心を穏やかにしてくれる。世界はあなたが思うほどドラマチックではないからだ。健康な食生活や定期的な運動を生活に取り入れるように、この本で紹介する「ファクトフルネス」という習慣を毎日の生活に取り入れてほしい。

ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』

では、世界に対し悲観的な見方をする人々を癒し、心を穏やかにしてくれる「データ」とはどんなものなのでしょうか?

科学者より、チンパンジーの方が正答率が高い?世界を見直す13のクイズ

世界について、人間よりチンパンジーに聞いた方が正しく答えられるかもしれない。そんな奇妙な可能性が本書の冒頭に描かれています。

というのも、ロスリング氏が考案した経済、人口、保健、環境に関する13問の3択問題について、14カ国、述べ1万2000人が回答したところ、正答率が最も高かったグローバルな気候変動の問題(正答率86%)を除いた12問について、その正答数は平均でわずか2問だったのです。

それは例えば、こんな問題。

現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?
A20% B40% C60%

ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』

この問題の正解や他の問題について、本書の中だけでなく、共訳者の1人である上杉周作氏が翻訳した本書のウェブ脚注でも見ることができますので、興味があれば、ぜひ、全問答えてみてください。

このように、ロスリング氏が投げかけた一連の問いに対し、もしチンパンジーが無作為に回答を選んだとすると、正答率は平均で1/3、つまり12問中4問は正解すると考えられるので、「人間よりチンパンジーの方が世界について正しく答えられる」という可能性が浮き彫りになったのです。

実際には、世界について「何も知らない」チンパンジーより人間の方が正答率が低い、という事実は多くの人が世界について「誤った認識を持っている」ということだと、作中でロスリング氏は語ります。

人間の直感と真実のギャップを生み出す10の本能

では、なぜ私たちは世界を誤って捉えてしまうのか。本書では、その原因として、人間がもつ以下の10種類の本能(認知バイアス)をあげています。

  1. 分断本能
  2. ネガティブ本能
  3. 直線本能
  4. 恐怖本能
  5. 過大視本能
  6. パターン化本能
  7. 宿命本能
  8. 単純化本能
  9. 犯人探し本能
  10. 焦り本能

本文中では、このそれぞれの本能について、ロスリング氏の体験を例に挙げながら、優しく、わかりやすく解説してあります。

そして、ロスリング氏が語る各種の「本能」を乗り越える方法は一貫しています。

それは、喫緊の問題であっても、直感的な判断に身を任せず、きちんとその核心を追求し、データや経験に基づいたスジの通った判断を行う、ということです。

そしてそうした態度こそが「ファクトフルネス」である、と本書では述べられています。

また、ファクトフルネスに必要なのは、データをたくさん記憶することや、統計学を理解することではなく、真実を歪めず、勇気を持って、正しい答えを主張することだ、とも語られています。

ファクトフルネスの実践方法

2019年、平成から令和への変わり目となった4月から5月にかけて、子どもが犠牲者となる痛ましい自動車事故が複数報道されました。

そして報道された事故の加害者となった人の多くが高齢者でした。

その結果、SNSなどで「最近、高齢者の運転による死亡事故が増えている」という意見や「子どもの犠牲者が多い」という意見を目にすることが増え、テレビ番組でも、「高齢者は今より頻繁に免許更新する必要があるのではないか」という議論がなされました。

しかし、データを見てみると、交通事故による死亡者数は年々減少しています。直近の10年を通してみても、9歳以下の子供の死亡数は全年代のなかで一貫して最も低いのです。

また、死亡事故において過失の重い第一当事者の割合を年代別に見ると、最も多い年代が16〜19歳で昨年度の免許保有者10万人当たり事故件数は、11.4件、ついで、80歳以上の10.6件となりました。

さらに、死亡事故の報道が多かった2019年4月5月(記事執筆時の5月23日時点)の交通事故による死亡者数(交通事故総合分析センター調べ)も、前年の同月、同期間に比べ、両月共に減少しています。

したがって、データに基づいた判断をすると、「高齢者ドライバーが加害者になる事故を含め、自動車による死亡事故は年々減っている」、「事故による犠牲者全体で見ると、9歳以下の子どもの割合は最も少ない」という、報道で見るより、はるかにポジティブな現実が見えてきます。

一方で、交通事故の加害者(第一当事者)のデータを見ると、70代以上のドライバーが加害者になる事故の件数は30〜60代のそれよりはるかに多いため、「70代以上のドライバーには事故を減らすための対策をしてもらう必要がある」と言えるのがわかります。

しかし、同時に、10〜20代のドライバーも70代以上と同程度に死亡事故を起こしやすいため、「10〜20代のドライバーには事故を減らすための対策をしてもらう必要がある」とも言えるのです。

つまり、自動車による死亡事故を減らすためには、「高齢者は今より頻繁に免許更新する必要がある」という議論も必要ですが、それと同じように「若手ドライバーによる事故を減らす対策」についても議論する必要があると言えるでしょう。

こうした身近な題材でも、印象だけではなかなか見えてこない真実がデータから見えてきます

ちなみに、このファクトフルネスの本はビル・ゲイツ氏が「これまで読んだ本の中で最も重要な本の一冊」と絶賛し、2018年に大学を卒業した人のうち、希望者全員にこの本をプレゼントした、といういわくつきの本です。ビル・ゲイツ氏自身も「タイム」誌によるインタビューの中で、「データを見ると世界は良くなっている」とファクトフルネスの内容と一致する発言をしています。

私たちがなんとなく思っている世界の姿は、ひょっとすると一部が切り取られ拡大解釈されたものかもしれません。

「現実はどんどん悪くなっている」、そう感じている人はぜひ、『FACTFULNESS』が教えてくれるデータに基づいたよりよい現実の見方に触れてみてください。

参考引用サイト
『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』ウェブ脚注
交通事故総合分析センター
平成30年交通安全白書

(大藤ヨシヲ)

 
×

メルマガ登録をしていただくと、記事やイベントなどの最新情報をお届けいたします。


データ活用 Data utilization テクノロジー technology 社会 society ビジネス business ライフ life 特集 Special feature

関連記事Related article

書評記事Book-review

データのじかん公式InstagramInstagram

データのじかん公式Instagram

30秒で理解!インフォグラフィックや動画で解説!フォローして『1日1記事』インプットしよう!

おすすめ記事Recommended articles

データのじかん会員なら、
全てのコンテンツが
見放題・ダウンロードし放題
 

 データのじかんメール会員でできること

  • 会員限定資料がすべてダウンロードできる
  • セミナー開催を優先告知
  • 厳選情報をメルマガで確認
 
データのじかん会員について詳しく知りたい方
close close