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その一方で、資本主義が決して招き入れることができないものがあります。それが育児や介護、家事、環境保全といった共同体を持続するために欠かせない「社会的再生産」です。
社会的再生産に携わる人は多くの場合、無償、あるいは、低賃金でこの「労働」に従事しています。
保育や介護、家事代行の現場の人々が低賃金であることについてたびたび議論に上がりますが、なかなか改善されないのが現状です。そしてこうした役割の多くを担っているのが女性なのです。
例えば、2020年12月に限っていっても、東京都品川区で20代女性が乳児遺棄容疑で逮捕されたり、大阪市で40代と60代の親子が餓死した状態で見つかったり、といった「女性の貧困」に基づいたセンセーショナルな事件が発生しています。
前者の女性は経済的に困窮しており、頼れる身内もなく、身分証も保険証もない状態で自宅で死産し、問い合わせた病院から保護目的のため警察に連絡がなされ、逮捕に至ったということです。このような極限状態で死産をしてしまった女性を逮捕したことについて、女性の対応にあたった慈恵病院の院長が会見で警察の対応を批判する事態に発展しました。
こうした問題の背景には、資本主義社会によって「社会的再生産」が貧困に結びつくことで性や生殖における健康を保つための権利であるリプロダクティブライツや老いる権利が軽視されるようになっている、ということがあげられます。
育児を、介護をすればするほど貧困になる社会において、それらを担いたいと考える人は当然、どんどんと減少していきます。資本家の資本は増大していく一方で、育児や介護、環境保全などが軽視される社会に残された未来はごくわずかであることは自明です。
社会を継続する一手として、社会的再生産も資本主義に巻き込んでしまう、という方法もあります。『99%のためのフェミニズム宣言』の中ではその一例として台湾人の母親、ルオ(姓以外非公表)氏の訴訟を挙げています。
2人の子どものシングルマザーだというルオ氏は、兄弟2人を歯学部に入学させ、手に職をつけさせた上で、その返礼として「自分の老後の面倒を見ること」を求めていました。しかし、兄弟の1人がこの要求を拒否。そこでルオ氏は2017年にその子どもに対し訴訟を起こしました。その結果、台湾の最高裁判所が下した判決は、その子どもに「養育費」としてアメリカドルで96万7千ドル(日本円に換算すると約1億4百万円)という莫大な損害賠償金を支払うよう求めるものでした。
この判決は1人の人間を生み、育てることにかかるコストを金銭に換算した場合、莫大な金額が必要になるということを明らかにしました。
しかし、個人間においてこのような金銭が当たり前になったとしたらどうでしょう?生まれるだけで負債を抱えるなんて、あまりにも苦しすぎないでしょうか?
『99%のためのフェミニズム宣言』は既存の資本主義社会の欠陥を指摘し、より良く生きるために必要な様々な問いを提示してくれる書籍です。
しかし、これはあくまでマニフェストでしかありません。この問を受け取った上で、社会を変えていくのは読者一人ひとりなのです。
キラキラ生きるために1%の資本家を目指すより、99%の労働者として、みんなが思うように生きられる社会を目指してみませんか?
【参考引用サイト】 ・ 乳児遺棄容疑で母逮捕 相談受けた慈恵病院、警察に苦言「女性保護すべきだ」 ・ 所持金13円、水道も止められ、冷蔵庫は空…母娘はなぜ餓死したのか ・ 【2020年最新版】日本の年収の中央値は240~456万円!
(大藤ヨシヲ)
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