皆さんはタイと聞いて何を思い浮かべますか? 微笑みの国、青い海のビーチ、美味しいタイ料理? 全体的に「ツーリストの楽園」というイメージが強いのでは。
筆者の印象は少し違います。2015年、筆者が半年ほどタイのチェンマイに住んでいたころ、チェンマイは「東南アジアのデジタルノマド・ハブ」と呼ばれていました。続々オープンするコワーキング・スペースやカフェで、様々な国籍のスタートアップやフリーランサーが仕事をしている、そんな環境です。
ただしこのムーブメントは、物価が安い割に高速インターネットなどのインフラが整っているチェンマイに、大勢のデジタルノマドが観光ビザで滞在していたというのが実情。海外からIT人材を迎え入れIT産業を活性化させる国の施策ではありませんでした。
しかし、タイ政府が2017年に発表したタイランド4.0では、「先進国入りを目指すタイ」路線が押し出され、国を挙げてハイテク産業を推進しようという意図が見られます。
こうした動きはタイ経済にどのような影響を与えるのでしょうか? いくつかの要素に沿って見ていきましょう。
タイでは2006年の軍事クーデター以降、政情不安の煽りを受けて、金融・インフラ投資が落ち込む一方でした。そのためタイの経済成長率は近年、ASEAN内で最も低い水準に甘んじてきました。
現在のプラユット政権はこの状況に危機感を募らせ、2017年にタイ経済の底上げを計る「20カ年国家戦略」を打ち出しました。この戦略を代表するビジョンとして掲げられたのが、ドイツのインダストリー4.0をモデルとしたタイランド4.0です。
タイの経済社会発展は4段階で表されており、
この第4段階目がタイランド4.0に当たります。戦略目標としては、高成長路線へと舵を切り、2026年までに高所得国(一人当たりGNI=1万2735ドル)の仲間入りを果たすことです。
プラユット政権以前にも、経済成長を促すための開発計画が存在しました。例えば2011年に発表された開発ビジョン「創造経済」は、タイ固有の文化や滞在力(タイネス Thai-ness)を活かした産業を育成し、経済的付加価値を創造するべきだと提唱。ツーリズム、メディア、ファッションなどのソフト産業の他、バイオ・エネルギー分野でも熱帯植物のエネルギー利用といった「タイらしい」コンテンツが重視されていました。
一方、タイランド4.0のコンテンツは「創造経済」を踏襲しつつも、育成するべき「未来産業」として、ロボット産業、航空・ロジスティック、医療ハブ計画などのハイテク産業を挙げています。
タイ政府としては、現在ノウハウがある自動車産業や医療ツーリズムなどの既存産業を強化し、その延長として未来産業を育成していきたい構え。それには汎用IoTの推進など、社会全体のデジタル化が欠かせません。
とは言っても実際、タイ社会のデジタル化はどれほど進んでいるのでしょうか?
まずはデジタル化の大きな目安、スマートフォンの普及率から見てみましょう。タイ全国でのスマートフォンの普及率は、2016年時点で50%以上。2012年時点の8%から爆発的に急伸しました。
2016年時点の日本のスマホ普及率は56.8%なので、結構いい勝負ですね。(総務省調べ)デジタル技術の開発面ではまだまだ先進国がリードしていますが、実はデジタル技術利用の地域格差は縮小してきているのです。
スマホが普及するにつれ、タイでは銀行口座を必要としない電子決済「プロムペイ」が急成長。タイ政府と銀行が推進しているシステムで、2018年8月時点での登録数は4360万件とされています。
スマホ所持率の向上=インターネット普及率の向上でもあります。今やどんなビジネスにもインターネットが欠かせないのは周知の事実。タイではEC市場の伸びが凄まじく、2019年現在は3兆バーツ(約10兆円)市場へと成長しています。
加速度をつけてデジタル化しているタイ社会。とはいえ、経済のハイテク産業への移行には、まだまだ外国企業の知識や投資が欠かせません。デジタル技術利用に対して貪欲でありながら開発能力を伴わない市場には、多くの日本企業にとって絶好のビジネスチャンスが転がっているはず。
何かと華僑資本の力が強いタイ経済ですが、日本企業だからこそ提供できる技術やサービスで、タイランド4.0とWin-Winの関係を築いてほしいものです。
参考リンク: タイランド4.0とは何か(前編)
(佐藤ちひろ)
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