世界中では毎日様々な調査、研究がおこなわれています。最近では新型コロナウイルスに対するワクチンの研究などが注目を集めている研究ではないでしょうか。
しかし、全ての研究が私たちの生活にすぐに役に立つわけではありません。むしろ、「なぜそんなことを?」と首をかしげたくなるような研究のほうが多いかもしれません。しかし、一見実用性がなさそうな研究ほど、深く考えさせられたり、笑わされたり、想像力を掻き立てられたりすることがあります。今回は、いくつかの「なぜそんなことを?」と思わせ、かつ考えさせてくれるような研究をご紹介したいと思います。
「ほとんどすべての哺乳類が、約21秒(±13秒)以内にオシッコを済ます」という研究結果を発表したのは、米ジョージア工科大学のチーム。
この研究によると、ゾウもヒトもライオンも、オシッコするのにかかる時間は平均21秒であるとのこと。BBCニュースの記事によれば、チームはこの研究のためにハイスピードカメラを用意し、それで動物園の牛やヤギのオシッコの様子を撮影したそうです。そこで、流体力学的にオシッコがどのように排泄されるのかを調査したとのことなのですが、どんな気持ちで牛たちはオシッコの様子を撮影されていたのでしょうか。
この研究結果が発表されたからと言って、何か重大な謎が解き明かされるわけでも、劇的に世の中がよくなるわけでもありません。しかし、一度立ち止まって考えてみてください。様々なテクノロジーに囲まれた私たちと、広大な大地に群れを成して歩む巨大なゾウ達との間に、この研究のおかげで「21秒」という共通点が生まれたわけです。これ、なんとなく素敵ではないでしょうか。これから毎回トイレで用を足すたびに、大自然とつながる不思議な感覚を味わることができるようになったわけです。そしてこれは、インプットがあってアウトプットがあるというそもそもの生物としての基本構造がゾウも我々もさほど変わりはしないという一つの証でもあります。この実験により、排尿にかかる時間は体の大きさに比例しない、という一つの客観的事実も浮き彫りになりました。そして、約21秒に補足として書いてある±13秒の幅の広さも十分なツッコミどころを残してくれていて、味わい深い研究内容となっているかと思います。
この類の研究はもちろんジョージア工科大学の研究だけではありません。
1992年に中公新書から発行された、生物学者・本川達雄氏のベストセラー『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学』でも、似たような例が挙げられています(本川氏のサイトはこちら)。
当著書によれば、どの哺乳類も一生のうちに動かす心臓の回数は約20億回で、約5億回呼吸をするのだといいます。ヒトもネズミも、ゾウも心臓を20億回動かして死んでいく。しかし、心拍のスピードは動物によって異なります。私たちの心臓は一回動くのに1秒ほどかかりますが、ネズミは0.1秒に1回心臓が動きます。対して、ゾウは3秒ほどかかります。体の小さい動物ほど、心拍速度は速くなるというわけです。これを生物学的に言えば、「アロメトリー」といい、本川氏の研究対象でもあります。
本川氏は当著書の中で、心拍数のデータから思考を巡らせ、「時間とは何か」という問いに対して独自の視点を提示しています。
ネズミの寿命はおよそ1年から3年です。これは、80年生きる私たちの時間の感覚からみると短いように感じますが、果たしてネズミたちは私たちと同じように1年や3年を「短い」と感じているのでしょうか。そうではなく、彼らには彼らなりの時間のとらえ方があり、私たちの持っている時間の感覚とは明らかに異なる指標を持っているはずです。つまり、物理学的な時間は絶対的な指標ではなく、生物によって時間をどのようにとらえるのかが違ってくるというわけです。ネズミはもしかしたら私たちの1秒を1時間ととらえていると考えることもできるわけです。これが、タイトルにもなっている「ネズミの時間」です。様々な外見、様々な異なる環境下で生きてはいますが、哺乳類というくくりだけでも意外に多くの共通項があるようです。
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