カメラなどの撮影機材のシェアができるサービス『Totte』を2018年8月末にリリース予定の、CREARC株式会社代表取締役の五十嵐典之氏。このアプリをリリースする社会的意義は、単に貸し手が持っている余ったカメラを有効活用できるようにすることだけではありません。世の中のすべてのクリエイターが、あるものから「解放」されるのです。それはいったいどういうことなのか? 前編に引き続き五十嵐氏にお伺いしました。
機材の需要が増加する時期は弊社でもある程度予測しています。
例えば東京ビックサイトや幕張メッセで大きなイベントがある時もそうですし、夏休み・冬休み期間もそうですね。特に海外旅行に行くときは思い出に残る美しい写真や映像を撮りたいじゃないですか。そういった時に大きく機材の貸し借りが動くのではないかと考えていますね。
その時期に合わせて、どういった商品が人気なのかを検討します。例えば夏休みなら、「防水」の機種を積極的にレコメンドするとか、360度型アクションカメラをオススメするとかですね。それはTotteのユーザーがどんな人とどんな機材を貸し借りしているのかという、弊社に蓄積されていくデータを有効活用していこうと思っています。少ないデータで解析しても、結果は良いものにならないので、これはある程度の情報の蓄積が必要になってくると思います。
どんなユーザーがどんな機材を貸し借りしているのかわかるようになると、最終的には個人が持っているカメラのスペックや価格帯が全部紐づくようになります。
そうなれば、どういった人たちが機材を欲しがっているのか、どんなレンズの需要があるのか、といった情報が把握できるようになるのです。このデータは、メーカー側が必ず欲しがるデータだろうと考えております。購買データとして、マーケティングデータとして、どういったユーザーがどういった商品を欲しているのか、そのようなデータがうちのプラットフォームで収集できますので。
もう一つのメリットは、誰がどのメーカーのどのような撮影機材や周辺機器を持っているかわかるので、ダイレクトに消費者にPRを打つこともできます。例えばある人が1998年製のレンズを持っているとすると、「そのレンズは20年前のものなので、新しいものに替えませんか? メーカー保証付きで、○○円で下取りします」のようなマーケティングも可能です。メーカー側も効率的に訴求できますし、ユーザーも思わず買っちゃいますよね。
ここからは、Totteがもたらすそのほかのメリットについて話していきます。
このサービスは、機材は手渡し。Face to Faceで会うことが前提ですが、これはネットが普及した今だからこそ、今一度オフラインで個人間のつながりをつくることに一役買うことができると思います。アプリを起動して現在位置周辺を眺めてみると、意外と近所に自分の好きなカメラメーカーを愛用している人がいるかもしれない。「おお、じゃあ会いに行ってみよう」となりますよね。
都内のほうが、クリエイターが集まりそうなイメージがありますが、地方だってカメラ好きはたくさんいます。むしろ地方のほうが機材について語り合いたいと思っている人が多いかもしれません。実際に会いに行って喫茶店でカメラについて語り合う。そんな場を提供できればと思っています。
Totteが役立つのは個人間のつながりのお手伝いだけではありません。
例えば結婚式の写真撮影をカメラマンに依頼する場合は、お祝いごとなので少し高くても「思い出になる」ということで、お金を多く出しても良いかなと思いますよね。実際、式場の写真撮影プランの価格はセット価格で提案されているなど、個人のカメラマンに依頼するよりもやや高めに設定されています。ただ、新郎新婦が写真や映像にこだわりがあったとしても、すでに決まっているパターンがあるなど希望に応えてくれるとは限りません。
しかし、Totteを経由して直接カメラマンにお願いすれば、自分が良いなと思う写真を撮っている方に撮影をお願いできるので、2人にとってのさらなる思い出になるかもしれない。人生に一生の想い出を写真や映像で残すことができて、本来払うはずだった金額よりも安価になるのであれば、ほかの結婚式費用に充てることができて一石二鳥じゃないですか。
実はこのサービスには、「中間マージンを無くしたい」という裏の想いがあります。これはまさに「クリエイターの価値を高め、搾取からの“解放”」につながると思うのですよ。とても意義のあることだと思っています。
クリエイターに直接仕事をお願いするという依頼の仕方が、当たり前の世の中になる。Totteのプラットフォームは、今の社会の仕組みを変えていく可能性を秘めているのです。
今、AdobeなどのAI技術はすごいことになっていて、例えば画像編集ソフトだと「背景の雲を消して」と言えば自動で消してくれることが近く可能になるそうです。実際にAdobe Max2017でそのデモを見ました。このような技術革新はあらゆる分野で起こっています。アプリの操作方法なんてわからなくても、画像や動画を編集できてしまう。それは誰でもクリエイターになれるという、いわば「一億総クリエイター時代」の到来を意味します。
そうなると、スマホやパソコンが使いこなせない、またはITに対する苦手意識が強い人でもできる仕事は今後ますます限られていきます。今ある仕事の半分くらいが機械によって行われるようになる、という論文も発表されています。ですから、いかにデジタルに追いついていくかというのが、これからのデザイナーやクリエイターが勝ち残るために必要な戦略なのだろうと思います。
(安齋慎平)
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