データサイエンスを活用したプロジェクトは、基本的には以下の流れをたどります。
上記の通り、データ分析以外にも課題の定義や報告資料作成までが求められます。言われた通りのデータを単に分析した結果報告は「意思決定をサポートするための情報」とは言えません。「経営課題に照らして何をどう分析し、どのような方向に繋げていくのが望ましいか」を判断して提案する力が必要です。
経営者・マネジメント層にとっては、データサイエンスを活用して課題解決に取り組むことが、最終的な企業価値向上(重要な経営課題の解決)に結びつくことを期待しています。具体的には、社員の採用・能力開発、財務状況の改善(在庫削減・運転資金の削減など)、商品力の強化(新たな付加価値の創造)、顧客生涯価値の向上、社員の離職率の低減などが挙げられます。
企業の業績に直結する重要な経営課題の解決が目的となるため、データサイエンスを用いたプロジェクトにおいては、そのための意思決定の明確な根拠を提示することが成果として求められます。ビジネス的な思考力をもとにプロジェクトに取り組むことで、この成果を確実に創りだすことが可能になります。
次に、どんな業界や分野でも活用できる、基本的なビジネス思考力をご紹介します。
ビジネス的思考力をマスターすると「問題解決力」が格段にUPします。具体的には、経営課題の解決に向けた問題の本質の見極めや、解決までのアクションプランを計画する際に正しく効率的にデータを活用することができるようになり、結果的に経営者・マネジメント層にとって説得力のある最終報告につながります。
今回は特に、業界や業種を選ばず活用できる「メタ認知思考」「論点思考」「仮説思考」「KGI・KPI設定」の4つのキーワードをご紹介します。この4つを意識してプロジェクトを推進することで、経営者・マネジメント層と目的意識や現状認識を明確に共有でき、プロジェクトを効率的に進められます。これにより、最終的な提案の説得力が格段に向上していきます。
「メタ認知思考」「論点思考」「仮説思考」「KGI・KPI設定」それぞれのキーワードの関係性は以下の通りです。
図:「メタ認知」「論点思考」「仮説思考」「KGI/KPIの設置」の関係(筆者作成)
それでは次に、前述したビジネス力を高める勉強方法についてお話します。
図:メタ認知思考のイメージ(筆者作成)
メタ認知とは「認知していることを認知すること」、つまり「今自分はこんなことを考えている(認知している)なぁ」と自分自身や物事を第三者のように客観的に見る視点です。もともとは心理学の用語ですが、ビジネスの場面においても使われるようになりました。
目の前に起きている問題をメタ認知の視点で見ることで、部署全体や会社全体など、より大きな単位の連携体制や目的意識に照らして問題を捉えることができます。物事の全体を俯瞰できるため、思い込みや目の前の状況に左右されず、適切に状況をコントロールできるようになります。
我々が目にする問題は、さまざまな要因が作用しあった結果としてごく一部だけが表象化しいることがほとんどです。目に見えている問題だけに間に合せで対処したところで根本的な解決には至らず、ほどなくしてまた別の問題が発生してしまう、ということはよくあることです。
メタ認知思考は、このような現場レベルの状況や表象化した出来事をもとに、根本的な問題解決へと繋がる全体を俯瞰した視座へと思考を押し上げてくれるトレーニング法です。このメタ認知思考をマスターすることで、問題の抜本的な改善や組織全体として向かうべき方向に向かう転機とすることができます。
メタ認知思考は、日頃から思考をトレーニングすることで簡単に取得することができます。具体的には、常に「それはなぜなのか?」を問いながら本質に迫る「Why型思考」と、物事を抽象化することで解決策を見出す「アナロジー思考」を実践するのがおすすめです。
基本的なメタ認知思考入門書としては下記がおすすめです。思考法も紹介されています。
・メタ思考トレーニング 発想力が飛躍的にアップする34問(PHP研究所/細谷 功 著)
図:論点思考の基本4ステップ(筆者作成)
論点思考は「状況の中から本当に解決すべき課題を見極める」思考法で、プロジェクトの核となる経営課題を定義するときに役立ちます。
「論点」とは解くべき問題、つまり「課題」のことを意味しています。適切な課題設定はプロジェクトを進めていく上で重要な柱になり、プロジェクトの関係者全員が初めに同意すべき事項です。この課題設定がズレてしまったり、途中で曖昧になってしまうと、その後でどんなに分析に力をいれても、今ひとつ成果がでない結果となってしまいます。
事業運営の場面では日常的にさまざまな問題が発生しますが、その中から「今、真に解決すべき問題は何か?」の見極めがプロジェクトの価値を左右します。
論点思考は4つのステップから成り立ちます。このプロセスをマスターすることで、実行可能かつリターンが高い、事業全体に照らして最も解決する価値のある課題を見出すことができます。そして、限られたリソースを最も有効に問題解決に活用できるのです。
論点思考では上図の4つのプロセスを繰り返しながら、優先順位、実現可能性、リターンが最も高い価値ある「真の課題」を見つけ出します。最終的にロジックツリーなどで課題を構造化して論理的に説明することが可能になるため「なぜそれをするのか」「その価値は」という基本の認識を全体で明確に共有することができます。
論点思考を初めて学ぶ方には以下の書籍がオススメです。
図:仮説思考の基本4ステップ(筆者作成)
論点思考が「問題発見のプロセス」だとすれば、仮説思考は「問題解決のプロセス」だと言えます。
仮説思考ではまず手元にある情報から、答えに当たりをつけます。そして、その答えの証明に最低限必要な情報収集と分析作業を行うプロセスを経て、最終的な課題解決につながる提案の妥当性を実証していきます。
正しい結論を出すためには全ての情報を漏れなく分析し比較検討する必要がある、と思われるかもしれません。しかし、実際のビジネスの現場では時間も人手も限られており、全てもれなく分析をするやり方は現実的ではありません。このような、効率性が求められる場面で仮説思考力は役立ちます。
実は、誰でも普段から仮説思考を使っています。例えば「今日は曇っている」→「雨が降るかもしれない(仮説)」→「傘を持って行こう」など、無意識であれ目の前にある情報から仮説を立てて行動を選択することは誰でも行っているのです。
これを意識して行うのが仮説思考です。仮説思考のメリットは「迅速な意思決定ができること」「効率的な問題解決ができること」です。仮説に基づいた検証を行うことで的を絞った作業ができるので、格段に労力が少なくて済みます。もちろん、仮説が常に正しいとは限りませんが、仮に仮説が間違っていたとしても選択肢の一つが消えただけで、思い込みを覆すことにもなります。どちらにしてもプロセスの前進といえます。
データサイエンスを活用したプロジェクトの場面では、課題解決のための仮説を設定し、それをデータ分析によって検証します。手元のデータから仮説を立て、より深い分析と検証を行うプロセスは、取り組みの中核とも言えます。
先ほどの論点思考と対比して語られることの多い仮説思考ですが、どちらも使えることが大切ですし、実は論点思考のプロセスの中にも仮説思考は含まれています。論点思考(上流プロセス)→仮説思考(下流プロセス)と捉え、まずは論点思考で重要な問題の核を定義し、その具体的な解決策を検討する際に仮説思考をより活用してプロジェクトを推進するのが一般的です。
時間・コスト・人手等の限られたリソースで成果を高めるために、仮説思考は論点思考と併せてマスターする価値がある思考法です。
以下に紹介する一冊で、仮説思考の基礎が学べます。前述の「論点思考」を読んでなお、より実践的な仮説思考をマスターしたいという方にオススメです。
図:KGIとKPIの関係(筆者作成)
ビジネスの場面で実行力を高めるには、目標を数値で明確に定義しておくことが必要です。KPIとKGIは目標を数値化し、達成までのプロセスをより分かりやすくしてくれる評価指標です。これまでに紹介した論点思考や仮説思考で得た結果を、数値でより分かりやすく表現した指標とも言えます。
まずはKGIとKPI、それぞれの意味は以下の通りです。
データサイエンスを活用したプロジェクトの場面では、初期の課題設定の段階でKGI・KPIを設定して分析の指針としたり、最終的な検証結果を踏まえて新たに適切なKGI・KPIを設定し報告、提案します。
KGIとKPIを設定することで目標達成の方向が明確になり、達成度合いを可視化することができます。共通の目標数値をプロジェクトメンバーや組織内で共有することで、目標達成を効率的に進めることができます。
また数値で進捗を確認できるので、仮に軌道修正が必要な場合にも早めに気づくことができます。
「分析の目的」や「課題設定」、最終的な「経営目標」を経営者やマネジメント層と議論する際には、KGIやKPIを活用した数字で見えるコミュニケーションを取ることが、データサイエンスを活用したプロジェクト成功のコツです。
効果的なKGI・KPIの設定の方法を学びたい方には以下の書籍がオススメです。
・最高の結果を出すKPIマネジメント(中尾隆一郎 著)フォレスト出版
ビジネス的思考力を高めることで、データサイエンスを活用して、企業にとって優先度の高い経営課題を見出し、解決する(意思決定を支援する)ことが可能になります。今回挙げた4つのキーワードはどれもさほど難しい内容ではありませんが、頭の片隅に覚えておくだけで大きな違いを生み出します。
また、今回ご紹介した内容はデータサイエンスに関連したプロジェクトに限らず、全ビジネスパーソンが押さえておいて損はない基本的な素養とも言えます。「メタ認知思考」「論点思考」「仮説思考」「KGI・KPIの設定」をマスターして、ワンランク上のビジネススキルを手に入れましょう!
小島 智世(こじま・ともよ)氏
神奈川県横須賀市出身。現在は東京都内で企業の経営改善・再生支援を主に行う中小企業診断士。自身は過去に職場経験50社以上、クラブDJ歴20年、別事業でスピリチュアル能力開発サポートも行うちょっと風変わりな中小企業診断士です。
Twitter中小企業診断士、上級ウェブ解析士
データサイエンスの自学自習を支援するパラレルキャリア研究会主宰
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