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IDCと現場のフロントランナーたちが示す、 「DXへの挑戦」から「持続可能なデジタルビジネス確立」へ、 製造業/流通業に求められる取り組み –IDC DX Industry Vision Japan 2023リポート

IDC Japan株式会社は2023年1月17日、製造業/流通業のDXをテーマとしたオンラインセミナー「IDC DX Industry Vision Japan 2023」を開催。ウイングアーク1stもパートナー企業としてセミナーに参加した。IT調査・分析およびアドバイザリーサービスを提供するIDC Japanが考える「製造業/流通業に求められる取り組み」を振り返っていこう。

         

なぜ日本のDXは世界に遅れをとるのか

講演「デジタルファースト時代における持続可能なデジタルビジネス確立に向けて製造/流通業に求められる姿勢」では、IDC Japan株式会社の敷田康氏が日本企業によるDXの現況と課題を取りまとめた。

IDC Japan株式会社
リサーチマネージャー Verticals & Cross Technologies
敷田 康氏

IDC Japanは本セミナーに先駆け、参加企業(製造業・流通業)に対するDX取り組み状況のアンケート調査を行っている。それによると「一部のビジネス・業務の中に組み込まれている」とする企業が半数を占めるなど、全社に範囲がわたるDXの推進はまだ限定的のようだ。

「DXの取り組み状況」(ウェブセミナーの共有スライドより)

IMD「世界デジタル競争力ランキング2023」で日本は63カ国中29位。項目ごとに見ても日本の遅れは明らかとなっている。

「Digital/Technological skills」「Business agility」はほぼ最下位の62位。Business agilityの項目をさらに細かく見ても、国産ロボットの世界展開(World Robot Distribution、2位)は優秀なのにも関わらず、企業の俊敏性(Agility of companies)、ビッグデータやデータ分析(Use of big data and analytics)ではいよいよ最下位となっている。知見伝承(Knowledge Transfer)、失敗への恐れ(Entrepreneurial fear of failure)も最下位ではないとはいえ芳しくない。(ウェブセミナーの共有スライドより)

敷田氏は、産業セクター別DX支出額規模の相対的ポジションの日米比較から、「DX投資規模について、顧客サービス指向の産業は、現場オペレーション指向の産業と比較して、アメリカは大きく日本は小さい」ことも指摘。この傾向は、日本の労働市場における人材流動性の低さが影響しているかもしれないと、関連づけた。

「産業セクター別DX支出額規模の相対的ポジション」(ウェブセミナーの共有スライドより)

これらを踏まえ、敷田氏は2つの問いと仮説を投げかける。

問い①:なぜ日本のDXは、世界に遅れていると言われるのか
仮説①:仕事上の変化・チャレンジ自体を尊ぶことがない日本的なシステム・通念の関係があるのではないか。また合理主義的な仕事の進め方に対する懐疑心も(DX推進を)邪魔しているのではないか。

問い②:なぜコロナウイルス感染症の流行は、日本においてもDXの推進要因になったのか
仮説②:コロナウイルス感染症への合理的な対応が、必然的に仕事上の変化・チャレンジとなったのではないか。また根拠の有無にかかわらず、プロセスやエクスペリエンスを変革せざるを得なかったのではないか。

敷田氏は、上記の問いと仮説を挙げた後、「ただしこの仮説が正しいとすれば、危機的な状況(コロナ禍、ロシア問題など)が収束するたび、日本企業のDXが停滞するということになってしまいます。それではいけません」と強調した。

DXは方法論にあらず。やることが大前提の「デジタルファースト」時代へ

IDCは2022年から2023年を「DX時代からデジタルビジネス時代への移行期」だと捉えている。

「コロナ禍前(DX 1.0)は『実証実験をやったけれどそこで止まっている』というような、投資対効果のギャップに悩んでいる企業が多かったです。しかしコロナ禍以降(DX 2.0)は財務的に厳しい一部企業がデジタル投資を控えた一方、多くの企業がコロナ禍の問題解決にデジタルを活用しました。投資対効果のギャップを埋め、実績を実感している企業も出てきています。2023年以降ではそうした企業がさらに増え、デジタルビジネスの収益で競い合うようになると考えられます。方法論としてDXを推進するか、しないかを判断する時代は終わりです。DXで会社の収益を生むことが前提の『デジタルファースト』の世界が到来するでしょう」(敷田氏)

2023年以降、DXは「方法論」ではなく、収益を生むための「前提」となる。(ウェブセミナーの共有スライドより)

もう1つデータを見てみる。IDCが行った調査では、日本と世界で「企業インテリジェンス関連スキルにおける課題」に顕著な違いがあった。日本企業で上位を占める「ベストプラクティス共有ツールの不在」「従業員教育の予算不足」などは、海外で課題として認識されていない。

一方、世界では「新入社員の必要なスキル不足」「従業員の知識や専門能力の取り組み」が、上位課題として挙がった。(ウェブセミナーの共有スライドより)

最後に敷田氏はこう話す。

「1980年代の日本企業の躍進支えた大きな差別化要因の一つは、現場で獲得された“暗黙知”(経験的に体得されたため繰り返し使えるが言語化が容易ではない知識)でした。そうした暗黙知の多くは経験を通じて獲得されます。例えば、囲碁・将棋の世界では、先人が実践の中で獲得した暗黙知が、戦法として形式化され共有されます。しかしそうして形式知化され、長年かけて積み上げられてきた暗黙知も、今ではAIが凌駕してしまいます。同様にデジタルビジネス時代においても、属人化された暗黙知に依存する企業は、デジタルファースト戦略を実践する企業に対抗できません。

完全にそうだとは言い切れない側面があるため“ニアリーイコール”の関係式になりますが、『デジタル≒“感覚”ではなく、“根拠”にもとづいて意思決定する仕組みをつくるためのテクノロジー』、そして『デジタルビジネス≒根拠にもとづいて意思決定する仕組みにより創造された製品・サービス・体験の提供によって成立する事業』と捉えるべきではないでしょうか。成功のために、日本企業が持っている現場の知識・知見にもとづく優位性を、デジタルを活用してアップデートすることに注力していただきたいと思います」(敷田氏)

日本企業がデジタルビジネスを成功させるための処方箋。(ウェブセミナーの共有スライドより)

ユーザー分析調査にみる「リーダーシップと組織」「顧客とエコシステム」の動向

講演「製造/流通業のデジタルビジネスの現状と展望」では、IDC Japanの阿部勢氏が同社で行うユーザー分析調査からデジタルビジネスの動向を探るとともに、製造業・流通業にフォーカスしたデジタルファースト戦略の行く末を予測した。

IDC Japan株式会社
シニアマーケットアナリスト Verticals & Cross Technologies
阿部 勢氏

コロナ禍でデジタル活用に成功した企業は「デジタルレジリエンシー」(=企業・組織がBusinessの破壊的変化にデジタル技術を活用して迅速に対応し、業務オペレーションを回復させるだけでなく、変化した環境を新たな成長の糧とすることができる力)を持ち合わせていた、と考えられる。阿部氏はそうしたデジタルレジリエンシーのフレームワークの中でも「リーダーシップと組織」「顧客とエコシステム」を重要視した。

デジタルレジリエンシーフレームワーク:6つの組織的要素。(ウェブセミナーの共有スライドより)

「リーダーシップと組織」「顧客とエコシステム」の観点からユーザー分析調査を見ていくと、製造業・流通業において次のような傾向が表れているという。

傾向①:「リーダーシップと組織」の傾向
ユーザー分析調査の設問「イノベーション実現するためのアプローチ」において、製造業は全産業比で「社内の研究所・R&Dを軸に規定の要件管理に基づき実施する」、流通業は(全産業比)「多面的あるいは限定的に外部と活動する」傾向がある。しかし、例えばソニーグループと本田技研工業がソニー・ホンダモビリティを設立したことからも見てとれるように、自社完結で実現しようとする考え方は(製造業においても)後退しつつある。

リーダーシップと組織:イノベーション実現するためのアプローチ。(ウェブセミナーの共有スライドより)

傾向②:「顧客とエコシステム」の傾向
ユーザー分析調査の設問「顧客ニーズ理解のためのデータ・アナリティクス活用状況」で、製造業は「特に消費財・飲食料・医薬部外品、化粧品、家庭用品などがデータ活用に積極的」であり、流通業は「大手小売業で顧客ニーズ理解へのデータ活用が進んでいる」。

顧客とエコシステム:顧客ニーズ理解のためのデータ/アナリティクス活用。(ウェブセミナーの共有スライドより)

ユーザー分析調査を踏まえ、阿部氏は2022年12月発行の市場予測レポートの中で、ITサプライヤーに対し「ユーザー企業のデータドリブン経営をサポートするためには、幅広い産業でのデータ利活用を前提とした共創プラットフォームの構築を推進し、領域横断的なデータの利活用の可能性を広げていくことが重要」だと投げかけた。

「デジタル技術活用を前提として事業を行う企業は、データ利活用に向けたIT投資を積極的に行っています。具体的にはデータを蓄積するための業務システム構築し、自社に蓄積したデータの分析・可視化・意思決定へ反映するような取り組みを行っており、それらはデータドリブン経営とも呼ばれています。データ利活用が常態化した企業ではさまざまなデータに目を向けており、中には自社保有のデータだけにとどまらず、第三者が収集したデータ活用、企業間・産業間を超える連携プラットフォームへ参加しているところもあります。今後は製造業・流通業においても、ソフトウエアプラットフォーム上での顧客・外部企業との共創、あるいはエコシステム形成・拡大の選択肢がスタンダードになっていくでしょう」(阿部氏)

製造業×流通業」共創プラットフォームの鍵を握るのは「卸売」?

では今後「製造業×流通業」の共創が起こり得るのだろうか。阿部氏は「SPA(製造小売)やBtoCのようなビジネスモデルが出てきたことで競合同士になるケースもあるため、まだ明確な共創は起こっていないと感じる」とした上で、こう続けた。

「製造・流通の間で顕著な違いは、DX投資の方向性・考え方にあります。製造業はいまだ『業務効率や生産性向上』を重視します。一方、流通業、特に小売業は、長引くコロナ禍によって消費者の価値観が大きく変化し、顧客満足度についてより深く考えるようになった結果、『売上・利益や顧客体験の向上』にシフトしています。DX投資で重視する方向性の傾向は2023年も変わらないことが、調査から分かっています。少なくとも2023年は、国内製造業と小売業でDX投資の方向性が一致しない可能性が高いです」(阿部氏)

両者のDXはこのまま平行線をたどるのか。阿部氏が注目するのは「卸売業」だ。

「IDCユーザー分析結果でも卸売業は、製造業と小売業の中間的な回答になりました。卸売業が製造・小売両方のメリット・デメリットを熟知していることは、両者をつなぐ上での大きな武器となります。同時にSPAやBtoCの台頭で事業者数が減少している卸売業にとって新たなチャレンジにもなるはずです」(阿部氏)

国内製造業/流通業のポジションからの共創に向けた考察。(ウェブセミナーの共有スライドより)

DX時代に求められるのは経営サイドと現場サイドがデータでつながった世界

ウイングアーク1stは同セミナーにパートナー企業として参加。講演3「企業改革は現場データの活用から」では、小林大悟が事業・主要製品ラインアップを紹介した後、「DX人材およびデータ活用の実態調査」の内容を共有した。日本におけるデータ活用の課題としては、以下の3点が挙げられる。

ウイングアーク1st株式会社
Data Empowerment事業部 ビジネスディベロップメント室
エバンジェリスト
⼩林 ⼤悟
  • ・日本企業のデータ活用は「業務改善レベル」「企業変革レベル」「消極的」でバラつきあり
  • ・データ活用ができていない企業の半数で「データ担当者=社内の非専門家」
  • ・さらに「社内の非専門家」の半数で、データ活用が「属人的」な状態に

その上で小林は、データ活用で企業変革を起こす道のりを山登りに例えながら「レベル3、4、5のデータ活用ともなればボトムアップ型では限界があります。DX 時代に求められるのはレベル4〜5のデータ活用です。では、データ活用でDXを起こすには、どうすればよいでしょうか?」と、問いかけた。

データ活用で企業変革を起こす道のり。(ウェブセミナーの共有スライドより)

「一般的にデータ分析というと、下図のようなイメージです。販売管理システム・生産管理システム・会計システムなどがサイロ化しないようDWHに集約し、可視化・分析することになりました。ここまではよくあります。でも実はビッグデータとは別に、現場部門の向こう側に“スモール&ワイド”なデータというのが存在します」(小林)

例えば、個別に加工・管理されたExcelデータ、システムから転記された紙、画像・動画、図面・帳票などがそれらにあたる。大半は業務遂行のために生まれてきた“鮮度・解像度が高い”データであり、それらもシステム内のビッグなデータと合わせて活用する必要があるのだ。

現場データから始めることの強み。(ウェブセミナーの共有スライドより)

「本来、経営と現場はデータでつながっています。DX時代に求められるのは経営サイドと現場サイドがデータでつながった世界。例えば『品質管理の現場で扱う品質の指標も、少しかけ算をすれば、原価のデータとなり経営者のための収益性の指標につながる』といったことを積み上げた先に、DX時代に求められるデータ活用が出来上がっていきます」(小林)

現場と経営のデータは表裏一体。(ウェブセミナーの共有スライドより)

ハイレベルなデータ活用の優良事例として、ヤンマー建機株式会社の事例も取り上げ、最後に小林はこう話した。

「データ活用では、システムのみならず、さまざまな知見・ノウハウを必要とします。当社が目指すのは山登りのシェルパ(案内人)のような存在です。システム構築からノウハウの提供まで、データ活用を伴走します。皆さん、ぜひ一緒に山に登りましょう」(小林)


(TEXT・取材: MGT 編集:野島光太郎)

 

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