ベルリンに移住して3年半を数える筆者ですが、食に対する執着が年々薄れていくのを感じます。特に辛いのが、家の外で何か食べたい、でもレストランは避けたい気分のとき。この場合の選択肢はサンドイッチ、ケバブ、スライスピザ、運が良ければアジア系のテイクアウトの店が見つかるかも、といったお粗末ぶりです。
これはドイツだけでなく、ほとんどのヨーロッパの国で同じようなもの。この状況が苦痛すぎて、最近は外出時でもなるべく外食せずに済むようなスケジュールを組む始末です…。
その点、日本はレストランと自宅での食事の中間、いわゆる「中食」が圧倒的に充実しています。その代表格がお弁当。ひとつの箱に主食と主菜と副菜が収まった「Bento box」は、和食のひとつのジャンルとして海外で人気を博しています。例えば中国人がいま最も食べたい和食は「海苔弁当」なのだとか。
のり弁が一番食べたいだなんて、購買力の高い中国人観光客のイメージに反した質素なチョイスですが、その裏にはどんなストーリーがあるのでしょうか?
中国市場を対象としたマーケティングを手がける企業が、中国版Twitterと言われるSNS、Weiboの2019年7~8月の投稿から、日本で食べたものに関する投稿を抽出。61万件のサンプルをもとに、訪日中国人のあいだで話題になっている和食を調査しました。
すると去年の101位から急上昇を見せたのが「のり弁当」でした。ラーメンや刺身といったメジャーどころを抑えて16位という健闘ぶりには驚かされます。これには、
個人旅行で訪日する中国人が増えた→
長距離移動や手軽に食事を済ませたいときにお弁当を購入し→
その体験をWeiboに投稿した
という背景があるのでは、と分析されています。
テイクアウト文化は中華圏にも根強いていますが、単品料理ではなく多数のおかずを少しずつ詰めたお弁当は中国人にもかなり珍しく映るようです。
そう考えてみるとお弁当は、小さな面積に自然を表現した禅庭、坪庭、盆栽といった日本的な園芸の感覚に近いのかもしれません。
それにしてもなぜ幕の内弁当や駅弁ではなく、のり弁がブームなのでしょうか。
のり弁は中国語でも「海苔弁当」と表記されますが、これは白米の上に海苔を敷き詰めたお弁当だけを指すのではなく、日本風のお弁当全般を指すようです。
Weiboでは日本の一般家庭で作られたキャラ弁の写真がよくシェアされるそうです。海苔で文字や絵を描くキャラ弁が「のり弁」として広まり、やがて日本風のお弁当の代名詞となったのでは、という説が濃厚です。
見た目がきれいで美味しいとは言え、しょせんはお弁当。味だけで言えば高級なステーキやお寿司とは比べものになりません。それなのに中国人が大きな関心を抱く理由はどこにあるのでしょうか。
分析によると、SNSで話題になっている日本のお弁当を日本で実際に食し、その体験をSNSにアップするという「コト消費」的な楽しさがあるからとされています。
中国人のコト消費の例には他にも「とりあえずビール」があります。日本のサラリーマンが仕事終わりに大衆居酒屋に寄り、「とりあえずビールを注文する」シチュエーションを体験するというものです。
ここでのポイントは、小ぢんまりした赤提灯系の居酒屋で飲食すること。新宿の思い出横丁や、大阪の新世界といった赤提灯系の店が立ち並ぶスポットが人気だそうです。
中国人のあいだで、大型バスで観光名所やショッピング施設に乗り付けるタイプの旅行スタイルではなく、個人旅行がトレンドになりつつあることが伺えます。
海外旅行に出かける中国人は、2030年までに2.5億人に達すると予測されています。こうした中国人観光客が、Weiboのような巨大SNS(アクティブユーザー数4.6億人、2019年5月時点)で製品やサービスをシェアすることで、中国人のあいだで爆発的な人気を博す可能性があります。
ただし「のり弁」や「とりあえずビール」の例でも分かるように、予想の斜め上を行くアクティビティに人気が集まるのがインバウンド消費の難しいところ。これは中国人観光客に限った話ではありません。
SNS分析は、インバウンド消費という宝探しゲームを上手に攻略するために重要なツールと言えるのではないでしょうか。
参考リンク:中国人の間で日本の「のり弁」が話題沸騰 SNS分析でその「意外な真相」を追う中国人客は日本で「取りあえずビール」をやってみたい…… なぜ?
(佐藤ちひろ)
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