
迷い続けた3ヵ月の末に、私たちが選んだのは「家から自転車で通える距離」にあり「自前のグラウンド」を持つ「育成に力を入れている」チームでした。
息子は身体も技術もまだ発展途上。すぐに試合に出て活躍するよりも、長期的に成長できる環境であるかを優先しました。体験を通じて、指導者の力量と人柄に信頼感を持てたことも大きな決め手です。
一方で、この判断は「完璧な条件を満たしていたから」ではなく、「親子で決めた決断の“軸”に最も近かったから」でした。データや数字だけでは測れない“感触”を頼りにせざるを得なかったのが正直なところです。
入団してから改めて実感したのは、「自前のグラウンド」の存在が大きな意味を持つということでした。まず、メリットは計り知れません。毎週の活動場所が確保されているというのは、選手にとっても保護者にとっても大きな安心材料です。チームによっては週末ごとに活動場所が変わり、直前まで練習予定が決まらず、遠方の公共グラウンドや他チームの施設に車で送迎しなければならないケースもあります。
自前のグラウンドがあれば、そうした不確定要素が大幅に減り、親子ともに予定が立てやすく、送迎や荷物の準備などの負担も軽減されます。グラウンド環境が整っていること自体が、選手の成長を支える大きな基盤になるのだと感じました。
一方で、入団してみて初めて分かったデメリットもあります。それは「管理」の手間です。グラウンド整備や外野の草刈りは基本的に保護者の役割で、特に夏場は草の伸びが早く、草刈り機を毎週稼働させなければ間に合わないほどです。グラウンドの水はけも地味ながら活動に影響するポイントでした。体験会に参加した冬場は降水量が少なく、そもそも水はけを意識することすらありませんでしたが、入団して雨の多い季節に練習が始まると、場所によっては雨が降った翌日の土曜日は水抜き作業に半日以上かかり、その間練習ができないこともあります。こうした現実は、外から見ているだけでは想像しにくく、入団して初めて「なるほど」と思わされました。
さらに、自前グラウンドには大会会場として指定されるという側面もあります。自チームがそのグラウンドで試合をする場合は問題ありませんが、トーナメント戦で早期に敗退した場合でも、その後の日程で他チームが使用する大会運営をサポートしなければならないことがあります。自チームの練習が削られることもあり、これが練習機会に影響することは、入団前にも聞いていたものの、実際に体験して改めて重みを感じました。
こうしてみると、「自前グラウンドがあるチーム=恵まれているチーム」という単純な図式では語れません。確かに活動基盤が安定していることは大きな強みですが、その裏側には保護者の協力や運営負担という現実が伴っています。外から見えるのは「場所がある」という事実だけで、草刈りや水抜き、大会運営など、運営のために不可欠な作業までは分かりません。
入団前の体験会や練習参加で、グラウンドや施設の広さや雰囲気を確認することはできても、その維持・管理にどれほどの人的エネルギーが注がれているかまでは把握できません。実際にその立場に立ってみて、「チームに所属する」とは、単に子どもが野球をする場を選ぶということにとどまらず、保護者自身がその運営の一端を担う覚悟を持つことでもあるのだ、と実感しました。
チーム運営に欠かせないのが、保護者の関わりです。とはいえ、その関わりはあくまで「善意」が前提であり、強制はできません。働き方が多様化した今、土日に仕事を持つ家庭も少なくなく、家庭ごとに事情は異なります。グラウンドに毎回のように顔を出す保護者もいれば、仕事の都合でなかなか来られない保護者もいます。この違い自体は当然のことですが、結果として「負担が公平でない」という感覚が生まれてしまうのも現実です。これはどのチームにも共通する“古くて新しいテーマ”だと感じています。
私たちが入団したチームでは親の役割は当番制でした。制度としては一応、公平に回っているものの、やはり負担感には個人差があります。我が家は「せっかく子どもが頑張っているのだから」と、自分のペースで楽しくお手伝いに参加していますが、仕事で来られない人にとっては心苦しい場面もあるでしょう。逆に近隣チームの中には、当番制をなくした結果、かえって親が自主的にグラウンドに顔を出すようになった、という話も聞きました。本当に当番をなくしたらどうなるかは分かりませんし、何が正解かも分かりません。制度一つとっても、チームごとの文化や雰囲気に左右される「変数」なのです。
こうした保護者の関わり方だけでなく、同じチームでも子どもの「代」によって雰囲気が大きく異なることがあります。子どものレベルが高い代では競争が激しく、親も自然と関与が積極的になる傾向がありますし、逆に穏やかな代では保護者の雰囲気も落ち着いている。こうした違いは外から見ただけでは分かりませんし、入ってみないと実感できないものです。個人の努力だけで変えられるものでもありません。
競争が激しいというのは一見すると良いことのように思えますが、その裏側で子どもの競争心が強くなりすぎ、他者へのリスペクトを欠く言動が出てしまうこともあります。それが子ども同士の関係性やチームの統制に影響を及ぼすケースもあります。こうした「保護者の関与」と「子どもの代の雰囲気」という二つの“変数”は、どちらも公開情報や体験会では見えにくい部分でした。
最終的に重要なのは、正しい情報を集めきったかどうかよりも、“自分たちの判断軸”に沿って決断できたかどうかだと感じています。聞いていなかった事実や、入ってみて初めて知る現実は必ずありますが、それらすべてを事前に把握することは不可能です。だからこそ「100点のチーム選びは存在しない」という前提に立ち、「納得性」を重視することが大切だと思いました。
我が家では、チーム選びの初期段階から親子での対話を重ね、体験に行ったチームから候補を絞り込む際も、とにかく話し合いを大切にしてきました。決断に至るまでの過程を共有することで、「一緒に悩んで選んだ」という実感が生まれ、結果として後悔のない判断につながるのではないかと感じています。とはいえ、チームに入った瞬間に「答え合わせ」が終わるわけではありません。むしろ、入団してからが本当の「答え合わせ」の始まりだと思っています。
たとえば、練習メニューや起用方針が入団前に聞いていた内容と違うというケースはあるでしょう。親としてどう受け止めるかは悩ましいところですね。本人が「打てる内野手になりたい」と希望していても、チーム事情からつなぎ役を求められることもあるし、「育成重視」と説明されていたのに、勝てるメンバーが集まった途端に「大会優勝」が至上命題になってしまう──、そんなことはどんなチームであれ、日常的に起きることだと思います。こうした変化に直面したとき、親として何を軸に考えるかが問われます。
今回の経験を通じて、私自身が保護者として大事にしたいと感じたのは次の三つだということに気づきました。
まず「公平性」。平等でなくてもいいので、歩みが遅い子にもきちんと成長のチャンスを与えてくれるか。公平な競争であれば、望ましい結果でなくても受け入れ、次の糧にすることができると思います。
次に「成長の機会」。練習環境や指導者の数は選手の数に見合っているか、出場機会が十分にあるか、一部のレギュラー選手だけでなく預かった子ども全員に目を配ってくれているか。
最後に「多様性」です。文武両道など、次の進路に向かってそれぞれ異なる歩み方を、チームとして受け入れてくれるかどうか。
こうした基準は、入団前に完全に評価できるものではありませんし、入ってからも状況は変わっていきます。だからこそ、「答え合わせ」は一度で終わるものではなく、継続的に行っていくテーマだと考えています。そして、それが私たちにできる唯一の“納得のつくり方”ではないかと思います。
この連載は「こうすれば失敗しない」というマニュアルではありません。十分なデータがない中で、私自身がどう意思決定し、どう“納得”をつくってきたかを振り返るものです。我が家にとってのチーム選びは終わりましたが、「答え合わせ」はまだ続きます。これからも子どもの成長に合わせて評価軸を見直し、データだけでは見えない現実を丁寧に観察しながら、親としてこれからも子どもの成長に寄り添っていきたいと思います。
(TEXT:阿部欽一 、編集:藤冨啓之)
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