JR東日本は12月15日に2024年3月に実施されるダイヤ改正の概要を発表した。その中で沿線住民や鉄道ファンを驚愕させたのが京葉線(東京~蘇我)の改正だ。通勤快速の廃止や快速の大幅削減はインパクトが強烈すぎたのか、SNSでも大いに話題となっている。今回の決定に至った理由はいろいろ考えられるが、ここでは沿線環境やデータから原因を探っていきたい。
来春に実施される京葉線のダイヤ改正の内容を確認したい。メスが入る時間帯は日中時間帯(10時~15時台)以外の時間帯である。
日中時間帯以外の時間帯に運行する大半の快速系統が、外房線・内房線も含めて普通に変更される。2023年3月ダイヤ改正において、19時台以降の上り(東京方面行き)の快速はすべて普通に変更されたが、朝ラッシュ時間帯にも拡大される格好だ。
蘇我~新木場間ノンストップの通勤快速も全廃する。通勤快速は平日朝に上り2本、平日夕方・夜間に下り(蘇我方面)2本が設定されている。
一連の改正により、快速通過駅では乗車可能回数が大幅に増加。一方、通勤快速から普通に変更されることから、蘇我~東京間の所要時間は約40分から約60分と最大20分ほど延びることに。千葉県内の自治体の首長や沿線住民からは疑問の声が上がっている。
その結果、JR東日本は1月16日に平日・土休日において、朝ラッシュ時に快速・君津発東京行き1本、快速・上総一ノ宮発東京行き1本の快速計2本を設定することを発表した。一方、通勤快速の廃止には変りはなく、沿線自治体からの不安の声は消えていない。
12月15日付の千葉日報によると、JR東日本は京葉線に関してコロナ禍からの回復の遅れを指摘している。
千葉県が公表している「鉄道輸送の現状(乗車人員・混雑率)」に基づいて、京葉線と総武線(快速)の最混雑1時間における通過人員・混雑率を比較する。
京葉線の最混雑区間は葛西臨海公園→新木場である。2018年度の通過人員は53740人、混雑率は166%だった。2022年度は通過人員が30460人、混雑率は102%。2018年度と比較すると通過人員は40%超減、混雑率は60%超減となる。2013年度と比較すると混雑率は約70%減だ。
総武線(快速)の最混雑区間は新小岩→錦糸町である。2018年度の通過人員は64150人、混雑率は181%だった。2022年度は通過人員は43800人、混雑率は131%。2018年度と比較すると通過人員は30%超減、混雑率は50%減となる。2013年度と比較すると混雑率は約50%減だ。このように単純比較すると、京葉線の回復が遅いことに気づく。
また、総武線(快速)も混雑率は減少しているため、総武線(快速)が京葉線の遠距離利用者を抱えられるという読みがあってもおかしくない。
京葉線は千葉県から東京都への通勤・通学路線として機能しているが、意外にも千葉県から東京都への通勤・通学はそれほど多くはないのだ。
2015年国勢調査に基づいて作成された千葉県の資料によると、千葉県から東京都への通勤・通学者比率は2割程度にとどまる。しかも、1995年は30%近くもあったが、比率はコロナ禍前であっても減少傾向であった。コロナ禍後の社会情勢を見ると、少なくとも比率が跳ね上がることはないだろう。
同じく2015年国勢調査に基づいで作成された千葉市の資料によると、勤務先別割合は千葉市内が58%、千葉県内他市町村が19%、東京都が21%となる。首都圏にある政令市において勤務先が東京都の占める割合はさいたま市が31%、川崎市が43%、横浜市が26%となる。また、上記の4市の中で、都心から最も遠いのは千葉市である。
一方、夜間人口と昼間市内にいる人の割合を示す昼夜間人口比率では千葉市は98%という高数値をたたき出している。参考までにさいたま市は93%、横浜市は92%、川崎市は88%だ。
今度は2018年に行われた第6回東京都市圏パーソントリップ調査に基づく千葉市の資料を見ていこう。それによると、京葉線が走る千葉市美浜区では東京都への通勤が39%を占め、しかも代表交通手段では鉄道が最も多い。
一方、千葉みなと駅・蘇我駅がある中央区では東京都への通勤は21%にとどまる。
千葉市内での通勤・通学での動きでは美浜区への動きが多い。美浜区には京葉線の稲毛海岸駅、検見川浜駅、海浜幕張駅、幕張豊砂駅がある。快速は稲毛海岸駅、検見川浜駅、海浜幕張駅に停車する。
このように見ていくと、千葉県から東京都への通勤・通学はそれほど多くないが、幕張新都心がある千葉市美浜区は東京都への通勤が多いことがわかる。当然、浦安市も美浜区と同じ傾向だといえる。
一方、美浜区への通勤・通学も多く、京葉線においても短区間の利用は多いことだろう。
京葉線が全通したのは1990年のことであり、JRの路線では「若い路線」だ。先述した観光施設だけでなく、高層マンションも車内から見られ、一見すると京葉線沿線は順風満帆のように見える。将来的な人口動態はどうなのだろうか。
千葉市が発表した2015年から2040年までの人口増減数を見ると、京葉線が通る美浜区では人口30%減少のエリアが目立つのだ。特に稲毛海岸駅周辺での人口減少が目立つ。
また、2016年に浦安市が発表した「浦安市人口ビジョン」では2060年までの地域別総人口推移・推計を発表している。それによると、京葉線沿線にあたる中町地域が市内で最も人口が減少するエリアだ。一方、2000年から2010年にかけて急速に人口が増加した新町地域は2032年までは人口増加が続くが、同年以降は減少するとしている。最も人口減少が緩やかな地域は東京メトロ東西線沿線の元町地域である。
京葉線は新興路線ということもあり、古くからの路線と比較すると駅前の賑わいが乏しい。また、沿線はニュータウンが多く、高齢化の問題をよりダイレクトに浴びることになる。舞浜駅や海浜幕張駅での賑わいを見るとウソのように思えるかもしれないが、少なくとも千葉県内における京葉線の未来は意外とシビアなのかもしれない。
最後に現行の平日朝ラッシュ時間帯のダイヤを確認しよう。蘇我駅上り6時台~8時台の時刻表を見ると通勤快速が計2本、快速が計3本と、通勤快速・快速の運行本数が意外と少ないことに気づく。
快速は全18駅中11駅にも停車し、通過駅はわずかに7駅だ。蘇我駅6時51分発の快速は東京駅に7時36分に到着する。所要時間は45分だ。一方、蘇我駅6時55分発の普通は東京駅に7時47分に到着し、所要時間は52分となる。快速との所要時間は7分だ。
京葉線では快速に乗客が集中するという現象が起こりがちだ。鉄道会社からすると優等列車と普通列車との間で混雑率のバランスが悪いことは好ましくない。快速が到着駅で乗降扱いに時間を要し、遅延につながるからだ。
普通と快速との差がさほどないことから、快速を削減し、普通の通過待ちをなくす。あくまでも一般論として、普通のスピードアップと混雑の平準化の達成はひとつの狙いとしてアリだ。
一方、京葉線の通勤快速の利用者にとっては所要時間が15分も延びるのは痛手だ。JR東としては総武線(快速)の利用をすすめるのだろう。
試しに外房線・大網駅発7時10分→東京駅着を検索すると、京葉線経由は「通勤快速」利用で68分、総武線(快速)経由で78分であった。
いずれにせよ、沿線住民への丁寧な説明は必要になることだろう。どのようなロジックを用いて、ラッシュ時の通勤快速・快速廃止に至ったのか、注目したいところだ。
著者:新田浩之
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。
(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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