
兵庫県尼崎市は兵庫県の東端に位置し、神崎川を渡ると大阪市に入る。大阪市の他に、大阪府豊中市、兵庫県伊丹市と西宮市に隣接している。人口は約45万人だ。
戦後、尼崎市は阪神工業地帯を支える工業都市として存在感を発揮した。一方、「治安が悪い」「環境が悪い」というイメージがあったことは否定できない。ここでは単なるイメージではなく、データに基づいて、現状の尼崎市の治安状況を確認する。
2024 年中に尼崎市で発生した刑法犯総数は 4,657 件であった。人口1,000人あたりに直すと10.3件となる。2025 年中の尼崎市における主な刑法犯認知状況を見ると、自転車盗難が 1,462 件と圧倒的に多い。一方、特殊詐欺は5%以下である。近隣地域では自転車盗難の次に特殊詐欺のところもある。自転車盗難が圧倒的に多く、特殊詐欺が少ないのが尼崎市の治安状況の特徴といえる。
兵庫県内の近隣市町村の人口1,000人あたりの刑法犯総数を見ると、西宮市6.8件、芦屋市5.3件、伊丹市7.9件、神戸市8.3件となる。このように比較すると、確かに尼崎市の刑法犯総数は多く、治安は「良くない」という印象を抱いてしまう。ただし、極端に刑法犯総数が多いわけではなく、神戸市兵庫区は14.1件、長田区は10.5件であり、尼崎市と同レベルとなる。
一方、尼崎市の治安は確実に改善されている。2012年の刑法犯総数は10,184件だった。先述したように2024年は4,657件なので、実に半分以上も減っているのだ。
次に尼崎市民が持つ尼崎市に対する印象を見ていく。ここでは尼崎市が発表した「令和6年度実施まちづくりに関する意識調査集計」を参考にする。それによると、「安全で安心して暮らせるまち」だと感じている市民の割合は75.6%(2024年度)だった。2021年度は61.8%だったため、確実に好感度が上がっていることがわかる。ちなみに、市が定めた目標値は76.3%(2027年度)である。
治安改善のため、尼崎市はさまざまな取り組みを行ってきた。ミクロの部分では防犯カメラの設置に対する補助や地域の防犯パトロールの支援を行っている。マクロでは、住宅地に存在した風俗街、通称「かんなみ新地」の撤去が挙げられる。長年、「かんなみ新地」は性風俗店の営業違法地域で営業を行う「違法風俗」だったが、2021年11月に尼崎市と警察の協力により、閉業に追い込まれた。この「かんなみ新地」の撤去は阪神間で話題となり、尼崎市のイメージアップに大きく貢献した出来事だった。尼崎市と警察は新地以外にも、暴力団排除も進めている。
筆者撮影「整備されたバス停『戸ノ内』」
治安の良し悪しはデータだけでなく、体感でもなんとなくわかるものだ。そこで、私は尼崎市戸ノ内町を訪れることにした。戸ノ内町は尼崎市東部にあり、旧猪名川・猪名川・神崎川に囲まれた中洲のような場所だ。橋を渡ると、尼崎市内の他地域のほか、大阪市淀川区、豊中市にも抜けられる。
戸ノ内町は独特の歴史を持ったところだ。かつては、「神崎新地」があり、1958年の売春防止法施行後も営業していた。一説によると、1995年の阪神淡路大震災により壊滅的な被害を受け、そのまま消滅した。また、町内には指定暴力団の事務所も存在した。
私は仕事の関係で、2012~2013年にかけて戸ノ内町の町工場に出入りしていた。戸ノ内町の犯罪発生件数はわからないが、バス停「戸ノ内」を降りた瞬間に、独特の雰囲気を感じたのは事実である。当時は駐車場に「シンナーを吸うな」と書かれた看板があった。町内は道が細く、所々に空き地がある虫食いのような土地が多数存在した。また、新地時代を思わせる老朽化した家屋が目立ち、公園は草が生い茂っていた。言葉を選ばずに書くと、時代に取り残された感があり、お世辞にも「安全で安心」とはいえない状態だった。
13年ぶりに阪急園田駅から阪神バスに乗り、戸ノ内町を訪れた。阪急園田から戸ノ内までは10分強の道のりで、運賃は250円である。
筆者撮影「新築住宅が想像以上に目立った」
バス停「戸ノ内」を降り、驚いたことは車道沿いに新築住宅が目立っていたことだ。路地も新築住宅が目立ち、何よりも道が新しくなり、虫食いの土地がなくなっていた。
筆者撮影「旧暴力団事務所は空き地になり、高い塀に囲われていた」
少し歩くと、指定暴力団が有していた建物は壊され、空き地の状態に。暴力団員からの妨害を防ぐためか、高い壁に覆われていた。この土地・建物は長年、暴力団事務所として使用されてきたが、住民からの要望を受け、2018年に神戸地裁が建物の使用を禁じる仮処分を決定。使用できない状態が続き、2021年に民間事業者に売却された経緯を持つ。戸ノ内の住民にとっては、念願の「暴力団追放」が実現したのだ。
筆者撮影「住宅地の中にある戸の内公園」
また、公園も美しく整備されている。バス停「戸ノ内」に隣接するもすりん橋公園、住宅地にある戸の内公園は施設も新しく、子どもたちの元気な声が聞かれた。
今回の戸ノ内町の訪問では、10年以上前に抱いた印象は大きく変わった。「安全で安心」といえるような雰囲気であり、犯罪を誘発するようなところではなかった。
これは、偶然に生み出されたものではない。尼崎市は平成の時代に戸ノ内地区の整備事業を進め、2018年度に終了した。現在は「戸ノ内町北地区町づくりルール」が定められ、建物の大きさや色彩だけでなく、道沿いへの木々の設置の推奨など、細かい内容となっている。町づくりリールのリーフレットには治安に関する言及はないが、環境整備から治安改善を作り上げる心意気を感じた。
尼崎市では刑法犯認知件数が減り、体感的に治安がよくなり、市も努力していることを確認した。その結果として、尼崎市では人口の社会増につながっている。2025年1月付けの尼崎市の発表によると、2022年から3年連続で社会増となり、2,400人の転入超過となった。社会動態による転入超過数は1967年以降、57年ぶりに最も高い数字を達成した。2019年~2024年のうち、5年間は転入超過となっている。
確かに、尼崎市では社会増となっているが、これは阪神間の共通した現象かもしれない。2019年~2024年における社会増減を比較した。西宮市は4年間が増、2年間が減。芦屋市(2019年~2022年)は4年連続増。神戸市東灘区は2年間が増、4年間が減。神戸市灘区は5年間が増、1年間が減となっている。このように阪神間だからといって、社会増になっているわけではない。神戸市東灘区は社会減が目立つ。
興味深いのは神戸市から尼崎市へ転出した人数だ。2012年~2016年は各年1,400人台~1,500人台で推移している。2017年から増え始め、2024年には2,000人を突破した。先述した戸ノ内町の改良や暴力団事務所の使用停止措置、新地の解体と重なるのだ。尼崎市への転出人口が増えた要因はさまざまだが、一つには尼崎市の治安改善やイメージ改善は大きいだろう。
(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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