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DXと働き方改革で、平成生まれ・女性が大活躍。年間1800社が見学に訪れるテルミックは製造業が抱える人材の課題をどのように解決したか–Manufacturing Japan Summit 2024 イベントリポート

2020年2月13日、14日の両日、ホテル椿山荘東京において、Manufacturing Japan Summit 2024が開催された。初日では、株式会社テルミック代表取締役の田中秀範氏が講演を行った。愛知県で金属部品加工を手がける同社には、年間で1800社を超える企業が見学に訪れているという。目的は、同社のDXと働き方改革における目覚ましい成功の要因を知ることだ。社員164人(2024年1月現在、海外子会社含む)の約7割が女性。さらに平成生まれが110人以上という。日本の製造業には珍しいダイバーシティ経営と若さを可能にした、同社の企業改革の取り組みとは、いったいどのようなものなのか。

         

外回り営業を廃止して完全に内勤営業化。その結果、効率も業績も向上

テルミックは「ものづくりのエンターテイナー」をキーワードに、金属部品加工における見積もりから納品までを、一貫生産方式で担う生産スタイルで成長を続けている企業だ。愛知県・豊田市に近い刈谷市に拠点を置く同社は、大手自動車/航空機部品関連メーカーを主要な顧客として、多彩な顧客のニーズに合わせた金属加工製品を提供してきた。同社の田中秀範代表取締役は、35年前の創業当時をこう振り返る。

「営業活動は、朝8時から夕方5時まで顧客先のロビーで粘って担当者と会話し、ゴルフの話などもしては親密な関係をつくり。その後、自社に帰って仕事の手配をするのが普通の毎日でした」(田中氏)

株式会社テルミック 代表取締役の田中秀範氏

こうした長時間労働が当たり前の労働環境は、働き方改革の進む現在も依然あちこちに残っている。特に製造業では、3K(きつい・汚い・危険)職場と称される過酷な職場も少なくない。男性中心で高齢化が進み、「人材不足で将来が不安」という経営者の嘆きを聞くこともしばしばだ。

創業当時のテルミックでもそうした事情は変わらず、以下のような悩みを抱えていたと田中氏は明かす。

  • 3Kのイメージが強く、女性が少ない→女性従業員を増やしたいが、人が集まらず、定着率が低い
  • 図面や資料が紙ベースで管理されていて、必要情報を探すのに時間がかかる→作業効率が悪く、残業時間が増える
  • 加工工程や一連の業務を覚えるのは大変で、入社後の教育に時間がかかる→人件費の効率が悪い
  • 担当者が管理した情報が属人化し、情報共有がうまくいかない→休暇がとりにくい。引き継ぎもうまくいかない
  • 日中は外回り営業のため、事務処理が十分にできない→顧客対応が遅くなり、失注してしまう
  • 社内加工能力に限度があり、新しい仕事を受けられない→顧客要望に対応できず、失注してしまう

 

こうした状況を一変させるきっかけは、2008年のリーマンショックだった。これを機に、田中氏は思い切って外回り営業を廃止し、現在も続く内勤営業に完全にシフトしたという。この結果、見積もり依頼から回答までが最短45分、平均で24時間以内に行えるようになり、一方では、外出に費やしていた分の時間と、移動に係るコストを削減することができた。

対応のスピード化によって受注率が大きく向上。それらの案件情報を基幹システムで管理・共有して、社内のどこからでも確認できる仕組みを構築した結果、作業効率も飛躍的に向上した。営業スタイルの大幅な変更という経営判断を、IT活用によって実りあるものにしていった結果だといえる。

社内のカメラ&モニターを使った「見える化→見せる化」の取り組み

ここからは、効率化やコスト削減を実現するために行ってきた、具体的な取り組みを見ていこう。田中氏は、まず各拠点至る所に設置されたカメラとモニターを紹介する。これらのモニターには拠点内の作業状況が映し出され、問題があればすぐに発見できるし、人員の在席状況も一目で分かる。また基幹システムから、当日の出荷状況をモニターに表示して共有するのも可能だ。

一方、社内各所に設置された200インチの大型ディスプレーには、1日中売り上げの推移が表示され、7秒に1回最新の情報に更新される。営業活動の結果が「カジノのジャックポットのようにお金が積み上がっていくイメージ」(田中氏)で、実績をリアルタイムで把握・体感できるのだ。

また大型案件の受注時には、「○○さん、○○○円受注しました」といったメッセージやキャラクターのアニメーションなどがモニターに表示され、ディスプレー前で居合わせた人たちからは「○○さん、おめでとう」といった声や拍手も起きるという。

田中氏は、「小さな規模からでもよいので、今すぐ取り組むことをお勧めします。自分が見られるのを嫌がる人もいますが、実践すれば、情報を共有する価値を感じてもらえるはずです」と示唆する。

多数のカメラとモニター、大型ディスプレーを活用した「見える化/見せる化」

若手女性が活躍できる環境と、業務データ活用の体制づくりを積極的に推進

冒頭でも触れたように、テルミックでは従業員の7割近くが平成生まれの女性だ。この背景には、「女性が活躍しやすい環境の会社は栄える」という田中氏の考えがあった。そこで同社では、女性専用トイレの増設や、最新設備を備えた化粧室など、環境面の対応を進めていった。さらに、同時にこれまでの業務を見直し、若手でも活躍できるよう、新しい仕事の仕方も整備していった。

「材料購入から多様な加工工程を覚えていくのに、だいたい5~10年かかります。
ここを属人化せず、標準作業にするため、基幹システムを導入し、誰でも業務ができるようにしていきました。」(田中氏)

例えば、発注された品物のサイズなどを入力すると、システムがその属性条件に合った過去の見積、受注の案件を自動的に抽出してくれる。人はその中から、もっとも仕様が近いものを選べば、情報に紐付けられた工程情報をもとに工程設計も同時にできてしまうのだ。こうした仕組みを用いれば、入社2週間目くらいの若手でも、経験10年の人とほぼ同等の仕事ができると田中氏は語る。

もちろん、時にはこれまで受注したことがなく、使える過去データが存在しない仕事も来るが、全体の1~2割程度に過ぎない。8~9割はリピートや類似品の受注なので、経験の少ない若い方でも過去履歴を利用して工程を組み立て、効率良く仕事がこなせるという。

「このやり方で、現在の年間売上は約60億円です。担当者たちは、こうして机の上でデータを操作するだけで1500~2000万円、時には4000万円近くも売り上げています。経験の少ない若手だけでは難しい場合、あるいは新しい仕事をつくる場合は、そこをベテラン技術者が補完する。1人で9人くらいの若手をサポートできるので、この先、新人が増えても十分に対応可能です」(田中氏)

若手の感性にあったオフィスづくりやインセンティブの設定などを推進

2018年頃からは、福利厚生の充実とオフィス環境の改善も強化。産休・育休制度、時短勤務など制度改善はもちろん、チームによる業務連携で個人が休暇を取りやすくした。また若手を意識して、コーヒーショップなどの雰囲気を模したオフィスをつくり、食堂もおしゃれで開放的な空間に一新。さらに、若手の女性を役職者に登用する人事も進めた。

オフィスはおしゃれで開放的な雰囲気に

モチベーション向上には、インセンティブも大切だ。Office365のViva Engage(社内SNS)を利用して、定時に退勤した従業員が社内の食事会に参加すると一人1500円の補助がつく制度もつくった。そのお金を使って、従業員同士で飲み会や女子会を開き、Viva Engageに写真をアップするといった、「楽しさ」の共有も推奨している。

さらに、利益を社員に還元する試みとして、2015年からは社員旅行をハワイと沖縄で開催している。「ハワイの空港で、参加者全員に3万円ずつ『お小遣い』を配った時は歓声が挙がりました。このように、『たくさん儲けて、自分たちで使おう』という考え方を前向きに捉えています」と田中氏。

一連の環境改善の取り組みは、外部からも評価が高く、「あいち女性輝きカンパニー 常時雇用300人以下の部優良企業」(2020年)として愛知県より表彰を受けたり、刈谷市の「かりや健康づくりチャレンジ宣言優秀賞」(2022年)をはじめ、数々の表彰を受けてきた。2022年には、愛知県の中小企業で初のDX認定事業者にも認定され、刈谷商工会議所から「刈谷SDGsアワード最優秀賞」(2023年)を獲得している。

データを活用したスマート工場を建設、RPAによるワークの自動化も実現

コロナ禍では、一時的に売り上げが約4割も減少したものの、田中氏は、「コロナ禍もDXの追い風になった」と振り返る。デジタル化を先駆けていたおかげで、困難な状況下でも効率を下げることなく、スムーズに業務が進んだ。1年で売り上げはV字回復し、2024年1月期決算は過去最高を記録。その後も、期ごとに2割ずつ増加する見込みだという。

この業績には、DX以外の要素も貢献している。2020年に約15億円をかけて建設した新工場は、自動倉庫と生産管理システム、無人搬送用ロボットが活躍するスマート工場だ。物品の搬送・移動をロボット化し、ヒューマンエラーの減少や物流の最適化によって、大幅な生産性向上を実現した。

新設したロボットが活躍するスマート工場

ロボットといえば、RPAツールによる手作業の自動化(ソフトウェアロボット化)を進めているのも特徴だ。

「当社には、いわゆる事務員は、もういません。外注からの出荷情報を、RPAツールが取り込み、夜間に物流業者のWebサイトにアクセスして、到着予定などを確認します。人間の従業員は翌朝それらの結果をもとに、出荷などの作業をするだけ」と言う田中氏。同社ではわずか2アカウントのRPAツールで、多くのルーティン業務を自動化しているという。

「残業ゼロ」「紙ゼロ」「ルーティンゼロ」の3つのゼロアクション

同社ではDXのスローガンとして、「残業ゼロ」「紙ゼロ」「ルーティンゼロ」の3つのゼロアクションを掲げている。

残業ゼロへの取り組み

テルミックでは、「ノー残業デイの導入」「DX化による属人化作業の減少」「勤怠管理の徹底」の3つの取組みを実施した結果、2023年は時間外労働時間の30%が削減できた。時間数にして7343時間の残業減少であり、約2000万円のコスト削減に相当する。

ルーティンゼロへの取り組み

自動化とプロセスの最適化をコンセプトに、RPAによる自動化で生産性を高め、顧客満足度を向上。具体的にはバーコードやQRコード、OCRなどを使って注文番号を図面の中から探すといった、情報や文字の自動読み取りおよび読み取り情報の処理を自動化した。最近はChatGPTやクラウドサービスの導入も進め、効率化で生まれた時間で新たなDX課題にも取り組んでいる。

紙ゼロへの取り組み

紙の使用量を3年間で70%減少した。コスト削減だけでなく情報共有の効率向上を目指し、2020年度から基幹システムの改修や新システム導入、タブレットの導入を行い、FAXや帳票などを電子化してきた。

「製造業は図面や工程表、チェックリストなど、大量の紙をタブレットで置き換えられないか考えました。紙やプリントの費用は全部合わせても数百万円の節約ですが、付随する作業コストも入れればその数十倍のコスト削減になります。タブレットを紙代わりに利用することを徹底しました」(田中氏)

Webなどのチャネルを活用した情報発信で、新規顧客の獲得も推進

テルミックでは、コロナ禍直後からWebマーケティングも強化してきた。

「SNSを使った発信は、面白いものを出していれば、一定数の視聴者をコーポレートページに誘導できます。コーポレートページに来てくれれば、またそこからリンクを貼ってサービスサイトに誘導していきます」(田中氏)。

同社を知らない顧客にはリスティング広告、同社を知る顧客には、「テルミック」での検索(オーガニック検索)の他、SNSなどさまざまなチャネルからの流入を促進。その結果、サービスサイト経由の新規顧客数は、今年度179社に増加(前年度147社)。年間売上高見込み(LTV換算)は約1.8億円(前年度約1.5億円)となった。

現在、訪問営業を行わない同社にとっては、セミナーなどでの講演や工場見学、Webマーケティングが重要な新規顧客の獲得手法になっている。また同社では、自社のラジオブースを新設し、独自制作のラジオ番組を放送する試みも実施中だ。これらの取り組みにより、現在はおよそ月に40社ほどのペースで新規顧客が増えているという。

テルミックは様々な取組みを行いながら、同時に売上や利益を向上させている背景には、上のような多彩かつ大胆な取り組みがあることが分かる。中小企業ならではの軽快なフットワークを生かしたDX推進と、それに後押しされた働き方改革には、さまざまな企業で応用可能なヒントが隠れている。

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