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モノプソニーが発生する理由としては以下のようなものが考えられます。
・労働組合の力が弱い
・文化として人材の流動性が低い
・労働者のメタスキル(企業を問わず役立つスキル)が不足している
・転職・再雇用についての情報が不足している
・そもそも被雇用者は雇用者よりも立場が弱い
人材の流動性の低さや労働者のメタスキル不足の一因として、日本において長年メンバーシップ型雇用が主流であったことが挙げられるでしょう。そうであるならば現在ジョブ型雇用を取り入れようとしている企業が増えている(日立製作所や資生堂、富士通などが導入を進めていることが報じられている)ことは、モノプソニーの解決にプラスに働くかもしれません。
モノプソニーの解決方法として『日本企業の勝算』で強く主張されているのは“最低賃金の引き上げ”です。交渉力の弱い労働者の代わりに国がルールを定めて労働力のダンピングを防いであげる──というだけの簡単な政策ではありません。
最低賃金を引き上げれば、経営者はその金額ラインを念頭において商品の付加価値と単価を決めることになります。すなわち、付加価値を高めるための投資(設備投資、人材への投資など)が促進されます。また、生産性の低い企業の淘汰が進み、安易な起業は抑制されることになります。
「そうなれば、雇用が減ってみんな失業しちゃうんじゃないの?」と懸念を覚える人が多いでしょう。しかし、アトキンソン氏は現状労働者は採算の釣り合うライン未満の金額で雇用されているため、最低賃金の引き上げにより失業する労働者はほとんど生じないと主張しています。実際、2015年にドイツに最低賃金が導入された際、失業率が高まることはありませんでした。賃金の中央値に対してかなり高めの金額が設定されたにもかかわらずです。
引用元:Unemployment rate┃IMF ※グラフは筆者作成
労働者が本来よりも安い賃金で働くことが当たり前になっていると、経済全体にも大きな悪影響を及ぼします。「企業努力」という名の元に続けられる価格競争が激化することで、物の値段が下がり、賃金は上がらず、結果として日本は国際的な競争力を失ってしまうことになります。
我々にとって最も重要といっても過言ではない賃金にまつわるOECDのデータと、日本の労働市場に巣くう病理──モノプソニーという概念を本稿ではご紹介しましたが、最終的にはお金を得るために仕事をしているわけですから、いくらもらえるかで仕事を選ぶのもある程度までは当然のことのように感じます。日本にはお金の話をすることをなんとなく良しとしない風潮がありますが、もう少しはっきりとお金について主張する習慣を持つ人が増えても良い時代になってきているのではないでしょうか。
【参考資料】 デービッド・アトキンソン『日本企業の勝算―人材確保×生産性×企業成長 Kindle版』東洋経済新報社、2020 加谷珪一,ITmedia「“いま”が分かるビジネス塾:日本が圧倒的に「低賃金の暮らしにくい国」に堕ちた真相 訪れる“最悪の未来”とは」┃#SHIFT Average wages┃OECD 最低賃金引き上げは生産性向上をもたらすのか┃独立行政法人経済産業研究所 デジタル化とドイツ労働市場の発展┃独立行政法人労働政策研究・研修機構 Unemployment rate┃IMF
(宮田文机)
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