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“完璧に無意味で、不必要で、有害な仕事”
──話題の新書「ブルシット・ジョブ」を日本のデータとともに読む

         

生きていくために本当には価値のない仕事を続けている。

自分はそうではないとあなたは断言できるでしょうか?

今年の7月末に邦訳版が発売された『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』は、その条件に該当する人が、富裕国の37~40%にも及ぶかもしれないというセンセーショナルな指摘でたちまちベストセラーとなりました。

この記事では『ブルシット・ジョブ』の鋭い指摘を、データに現れる日本国内の状況とともに読み込みながらご紹介します!

ブルシット・ジョブ=完璧に無意味で、不必要で、有害でもある仕事

『ブルシット・ジョブ』の著者であるアメリカの文化人類学者デヴィッド・グレーバー(David Graeber)氏は、ブルシット・ジョブを以下のように定義します。

ブルシット・ジョブとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わねばならないように感じている。

引用元:デヴィッド・グレーバー著、酒井隆史・芳賀達彦・森田和樹訳 『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』岩波書店、2020、p27-28

あなたはこのような仕事に現在・過去を問わず従事した記憶があるでしょうか?

筆者(私)にはあります

以前バイトとして勤めていた出版社で、最初の3カ月間、新人の私に与えられた仕事は本棚整理でした。その企業の出版物、過去に編集長が手がけた雑誌、なぜか園芸関係の本……乱雑に書籍が詰め込まれた本棚をなんとなく出版社・50音順に並べ替えるのが週5日、10時-18時の私の仕事だったのです。最初はおそらくその出版社の雑務をいろいろと手伝うアシスタント要員として雇われたのでしょうが、バイトにさせられることが思いのほか少なかったのでしょう。

「うちの出版物の理解を深めるため」と編集長には言われましたが、ざっと一日で総覧すればそのくらいのことはわかります。また整理された本棚が活用される機会が増えたようにも私には見受けられませんでした。とはいえ、もっと意味のある仕事を与えてくれということもできず、私は20代前半の数十時間を雑多に並べられた本を並べ替えることに費やしました。

要するに、思い付きで雇ったものの“仕事をあてがう暇がなく、かといってクビにする手間も惜しまれた”のでしょう。あるいはこの仕事は編集長を偉そうに見せるためにあてがわれたブルシット・ジョブの主要五類型でいう取り巻き(flunkies)の仕事だったのかもしれません。ほかにもブルシット・ジョブには脅し屋(goons)尻ぬぐい(duct tapers)書類穴埋め人(box tickers)タスクマスター(taskmasters)などの類型があるとされています(「第2章 どんな種類のブルシットジョブがあるのか?」より)。

書籍では、自立した部下への仕事の配分と監視が業務の大半を締める中間管理職の業務がブルシット・ジョブの典型として紹介されています。

要するに、立場や収入の高低によらず、ある仕事はブルシット・ジョブとなりえるということです。むしろ肩書ばかりの管理者業務が増えるにつれてブルシット・ジョブも増加することが示唆されています。

日本はブルシット・ジョブ大国?

冒頭の37~40%という数字は、世論調査代行会社YouGovがイギリスで実施した世論調査に由来します。

2015年の調査で「世の中に意味のある貢献をしていますか?」と尋ねられたイギリス人の働く大人のうち実に37%が「していない」と回答したのです。オランダにおける同様の調査では40%が自分の仕事は有意義でない、と答えました。

データ引用元:Will Dahlgreen「37% of British workers think their jobs are meaningless」┃YouGov

翻って、日本はどうでしょうか?

Indeedが2015年に実施した仕事の幸福度調査において日本はなんと35カ国中最下位でした。ワースト10の国家は以下の通り。

仕事の満足度ワースト10

1日本
2ドイツ
3南アフリカ共和国
4フランス
5ポーランド
6マレーシア
7オーストラリア
8シンガポール
9インド
10中国

データ引用元:The Indeed Job Happiness Index 2016: Ranking the World for Employee Satisfaction┃indeed
一方仕事の満足度トップの国家はコロンビア。そのあとにメキシコ、ロシアと続きます。

仕事の満足度トップ10

1コロンビア
2メキシコ
3ロシア
4アイルランド
5ブラジル
6ノルウェー
7チリ
8ニュージーランド
9スペイン
10ベネズエラ

データ引用元:The Indeed Job Happiness Index 2016: Ranking the World for Employee Satisfaction┃indeed

同年のコロンビアのGDPは世界銀行の調査によると37位。ほかの国々の並びを見ても、経済力と仕事の満足度は比例していないことがわかります。indeedの分析によると、日本やドイツの仕事満足度の低さにはその平均年齢の高さが影響しているようです。仕事の責任が重くなり、ワークライフバランスは保ちづらくなり、と出世による激務化が分析では理由として挙げられていますが、そこには“ブルシット・ジョブ化”も多分に含まれるのではないでしょうか。

要するに、“完璧に無意味で、不必要で、むしろ有害であると考えられるにも関わらず、そうでないように取り繕わなければならない仕事”の増加が、日本の労働者の幸福度を下げているのではないかと考えられるのです。

 
産業別就業者数に見るブルシット・ジョブの増殖

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