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人間にとって簡単なことほど機械がやるのは難しい!?AIの発展に貢献した「モラベックのパラドックス」とは?

         

人工知能は高度な計算が得意だ、というイメージを持っている人も多いかと思います。複雑な計算が得意であれば、単純な動作はより簡単にできてしまうだろう、と思ってしまいそうですが、そうではないんです。

実は、将棋や囲碁やチェスなど複雑な計算などをこなすよりも、1歳児でもできるような感覚運動スキルを実現させる方が多くの計算を必要としているそうです。これはモラベックのパラドックス(Moravec’s paradox)と呼ばれ、カーネギーメロン大学のハンス・モラベック教授らによって1980年代に提唱されました。これはAIやロボット工学における技術の発展に大いに貢献したと言われています。

この記事では、モラベックのパラドックスとは何なのかを簡単に説明していきたいと思います。

モラベックのパラドックスとは

モラベックのパラドックスとは、人工知能(AI)やロボット工学の研究所が発見したパラドックスで、「高度な推論よりも感覚運動スキルの方が多くの計算資源を要する」ことを言います。パラドックスとは、前提となる仮説から正しいように見える結論を導き出すが、その結論が実は間違っている、という直感に反した状態を指します。

このモラベックのパラドックスは

1980年代に

  • ハンス・モラベック
  • ロドニー・ブルックス
  • マービン・ミンスキー

の三者が明確化させたと言われています。

モラベックは

「コンピュータに知能テストを受けさせたりチェッカーをプレイさせたりするよりも1歳児レベルの知覚と運動のスキルを与える方が遥かに難しいか、あるいは不可能である」

と記しており

言語学者であり認知心理学者のスティーブン・ピンカーはこれがAI研究者らの最大の発見として彼は著書「言語を生み出す本能」の中で次のように記しています。

35年に及ぶAI研究で判明したのは、難しい問題が容易で容易な問題が難しいということである。我々が当然なものとみなしている4歳児の心的能力、すなわち顔を識別したり、鉛筆を持ち上げたり、部屋を歩き回ったり、質問に答えたりといったこと(をAIで実現すること)は、かつてないほど難しい工学上の問題を解決することになる。…新世代の知的機械が登場したとき、職を失う危険があるのは証券アナリストや石油化学技師や仮釈放決定委員会のメンバーなどになるだろう。庭師や受付係や料理人といった職業は当分の間安泰である。

引用:言語を生み出す本能/スティーブン・ピンカー

また、マービン・ミンスキーは最も解明が難しい人間のスキルは無意識であると強調しています。

モラベックのパラドックスについて考えるには人間のスキルの生物学的基盤というものを理解する必要があります。

人間のスキルの生物学的基盤

人間のスキルは厳しい環境の中で生き抜くなかで改善され改良されてきたと言われています。

厳しい環境の中で生き抜くことで人間のスキルは改良と最適化を高めることとなったと考えると、スキルの起源が古いほどに、改良が何度も行われることになります。

モラベックの主張としては、

動物にも共通するような人間のスキルは長期間発展してきたため、我々はそれらをリバースエンジニアリングすることは困難であることを知っておいたほうがよいといいます。

最古の人間のスキルは無意識で働らき人間にとっては簡単なことです。したがって一見簡単であるスキルは無意識下で行われるためにリバースエンジニアリングは難しく、努力が必要なスキルのほうがリバースエンジニアリングが簡単となります。

つまり、当たり前のようにしていることではなく、努力で身につけた行動のほうが分析しやすく、再現もしやすいということです。

スキルの分類


無意識下で行っている古来から改良され続けたスキルには

  • 顔面の認識
  • 空間内の移動
  • 人々の動機づけの判断
  • ボールをキャッチする
  • 声を識別すること
  • 適当な目標を設定する
  • 興味深い事物に注意を払う
  • 知覚、注意力、視覚化、運動などのスキルに関わるあらゆること
  • 社会的スキル

などがあるそうです。

たしかにこれらは論理的に推論として考えるというよりかは無意識で判断をして行動しているといえます。

最近のスキル


ここ最近になって発展したスキルには

  • 数学
  • 工学
  • ゲーム
  • 論理
  • 科学全般

があると言えます。

これらは人間の活動では処理しきれないので、スキルとして編み出されて、歴史的に言えば最近発明されたと言えます。

モラベックのパラドックスが及んだ影響

モラベックのパラドックスのおかげで人工知能とロボット工学は発展したと言われています。

それは、初期の人工知能開発段階では数年以内に思考ができるAIをつくりだすことが可能と言われていたそうです。

知性=難しい処理だったために、数学的な論理を解くことができた人工知能は簡単に人間が行える思考もできると思われていました。

ですが、実際には簡単と思われるスキルの再現のほうが難しかったために、必要なのは知能ではなく感覚と行動であるという考えが生まれ今の人工知能、ロボット工学に大きく影響をしたと言われています。

ビックデータを開発者がプログラムしたとおりに分けるのではなく、機械が分別をする深層学習といわれる考えもモラベックのパラドックスが影響しています。

終わりに

この記事では、人間にとって簡単であればあるほど、機械で再現するのは難しい、というモラベックのパラドックスについてざっくりと説明してみました。

深層学習のような感覚と行動でデータを蓄積することで人間ができる簡単な認識ができるものも今後次々に生まれてくるでしょう。人間にとって当たり前にできることを機械が行っている時に、膨大な量のデータの分析と天文学的な量の計算が行われている、ということを思い出してみると、その当たり前のようなことがもう少しありがたいことに思えるかもしれません!

(桑折和宗)

 

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