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自治体によるオープンデータの先進事例! NYC Open Dataとは?

         

8月の特集は「ニューヨーク×データ」ということで、ニューヨークとデータにまつわるコンテンツをお送りして参ります。

今回はオープンデータの先進事例として非常に興味深い「NYC Open Data」についてです。オープンデータに着目し、すでに活用している、というのはさすがニューヨークですね。この記事では、ニューヨーク市が行なっている「NYC Open Data」についてご紹介します。

NYC Open Dataとは

NYC Open Dataとは、ニューヨーク市が保有する1000種類以上の情報のオープンデータです。

オープンデータとは、「機械判読に適したデータ形式で、二次利用が可能な利用ルールで公開されたデータ」であり「人手を多くかけずにデータの二次利用を可能とするもの」を指します(参考記事)。

機械判読に適したデータとは、

  1. 「コンピュータが識別できないデータ(JPEGファイルやPDFファイルなどのようにテキスト情報などを認識できないもの)」を含まないもの
  2. ExcelファイルやWordファイルなど特定の企業のソフトを必要としないもの(自由に加工ができるプログラミング言語で提供されているデータのこと)

です。

二次利用が可能なので、誰もが自由にデータを利用、加工、再配布することができます。ニューヨークでは2011年にブルームバーグ市長(当時)主導のもと、NYC Open Dataポータルサイトの運営が開始されました。現在では、ニューヨークだけではなくワシントンD.C.やシアトルなどでも同様にオープンデータの開放が行われています。

オープンデータによって市民からのチェック機能が働くだけではなく、政府・自治体が持つ情報資源を開放することにより、革新的アイデアやイノベーションが生まれるきっかけを生み出すことができます。IT業界の企業にとっては、オープンデータの情報を利用することで新たな商機を得ることが可能ですし、行政にとってはあらかじめ情報公開を行うことで行政に対する問い合わせが減少し、業務効率化につながります。こうした取り組みが世界中に広まれば、世界規模での問題解決もできると期待されているのです。

ニューヨーク市のOpen Dataの目的

ニューヨーク市が自ら持っている情報を公開する目的は、「自治体へのアクセスの利便性向上」「市政の透明性向上」「自治体の説明責任の改善」であるとしています。

誰もが自由に利用・再利用・再分配が可能なデータを公開することで、市政へのより良い理解と市のサービス改善を行うことが目標です。また、データを利用した革新的なアプリケーションやシステムの開発など、イノベーションが起こる土壌をつくるということも、公開している理由になります。

NYC Open Dataで公開されているデータの一例

NYC Open Dataで公開されているのは以下のデータです。


・一般開放Wi-Fi接続サービスの所在地
・311サービスリクエスト一覧(非緊急の総合行政相談(苦情)電話サービスである311に寄せられた相談の日時・場所・内容分類・市の関係部局名等々のデータ)
・市内公園の名称・位置等の一覧
・地下鉄入口の場所・名称情報の一覧
・市内大学(私学を含む)の名称、位置等の一覧
・郵便番号区域別の電力消費量
など

NYC Open Data ~オープンデータが生活の質向上に貢献~ | CLAIR メールマガジン


ニューヨーク市はこうしたデータを公開することで、先述のOpen Dataの目的を実現しようと考えています。

NYC Open Dataの経緯

2011年にOpen Dataのポータルサイトの運営が開始されました。当初は350セットが提供されています(2016年4月には12000セット超のデータが公開(参考記事))。余談ですが、運営を開始したのはニューヨーク市長室及び情報技術通信局(Department of Information Technology and Telecommunication:DoITT)です。

2012年、ニューヨーク市はオープンデータ条例(Local Law11 of 2012)を制定し、市民によるデータ活用を促進するとともに、同条例に基づいてより詳しい目標などを示したオープンデータ・マニュアル(Open Data Policy and Technical Standards Manual)を作成しました。このマニュアルでは、2018年までに、同市のすべての当局が公表可能なデータを全部、NYC Open Data上で公開することが義務付けられました。加えて、各部局にNYC Open Dataの担当者を1名任命し、全庁一丸となってオープンデータを推進していくことが決定されています。

すべてのニューヨーカーはオープンデータから利益を得ることができる

2013年には、オープンデータ計画(NYC Open Data Plan)が作成されました。これによって「1966年から現在までに市に届けられた不動産の情報」「建築局・健康保健局・公衆衛生局の許認可証記録」「違反取締部局の違反チケット発行記録」「監察医務院の月ごとの検死実施件数、変死体から検出された薬物件数」などが公表されています。

同年、市役所にCAO(Chief Analytics Officer)やデータアナリスト数名によって構成されるデータ解析室(Mayor’s Office of Data Analytics:MODA)が設置されました。シビックテック(「テクノロジーを活用しながら自分たちの身のまわりの課題を自分たちで解決していこう」という考え方やムーブメントを意味する言葉)やオープンガバメント(政府を、国民に開かれたものにしていく取り組みの総称)を志向する市民団体である「Beta NYC」や、シビックテックにコワーキング・スペースを提供する「Civic Hall」が、ニューヨーク市のパートナーとして、IoTやオープンデータを活用した市民参加型プロジェクトを支援しています。

2015年、MODAは「すべてのニューヨーカーはオープンデータから利益を得ることができること」「そのオープンなデータは、すべてのニューヨーカーから恩恵を受けることができること」という基本原則を記した戦略文書「Open Data For All」の更新版をリリースしています(参考資料)。

ちなみに、Open Dataの運営を主導的に行っているのは、DoITTのオープンデータ推進チームで、運営コストは2017年度予算で19万2688ドルとなっています。Open Dataのポータルサイト維持費は年間29万9950ドルです。

Open Dataを活用した事例

ニューヨークでは、市民が自由な発想でアプリを開発することを促すため、アプリコンテストを開催しています。2013年のコンテストでは、総額15万ドルの賞金が与えられるということで、総勢54個のアプリがエントリーされました。コンテストは「エネルギー」「環境」「労働」「経済活動」「健康」「生涯学習」のテーマの中から7個の優秀作品が選ばれ、さらにその中から最優秀作品が選出されます。

このコンテストの特色は、著作権が制作者に帰属する一方で、コンテストの期間中および終了後1年間は無償で提供することが必要なところです。「行政」と「市民」が協働するというのはオープンデータの活用事例として模範的な使い方と言えます。

自治体がイノベーションの主体となる時代

ニューヨークなどの先進都市・自治体では、NYC Open Dataのような取り組みを通じてイノベーションを生み出す場としての役割を確立しようとしています。しかしながら、従来の都市(特にアジア圏の都市)は、場所の提供や資金提供、制度面の改善(規制緩和など)をするのみに留まっていました。イノベーションの主体は企業や大学・研究機関だったのです。

対して、オープンデータを推進する都市では、むしろ都市の持つ膨大なデータがイノベーションを引き起こす貴重な資源となります。そのため、都市自らが企業や研究機関などと協働してイノベーションを起こそうとしているのです。イノベーションを主体的に起こしていくように変革するためには、NYC Open Dataのように、自治体の持つデータを積極的に開放していくことが求められます。

(参考記事)
 NYC Open Data ~オープンデータが生活の質向上に貢献~ | CLAIR メールマガジン
 NYC311 とオープンデータ活用の取組み | 一般財団法人自治体国際化協会ニューヨーク事務所
 解説 オープンデータとその利活用に関する最近動向 | 電子情報通信学会
 オープンデータのインパクト・ケーススタディ15_ 米国ニューヨーク市ビジネスアトラス _ オープンデータとオープンガバメントを推進する | Open Knowledge Japan
 オープンイノベーションのプラットフォームとしての都市 | 日本総研

(安齋慎平)

 

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