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「VUCAの時代」といわれる現代、新型コロナウイルスのまん延により、世界の経済状況はさらに不確実性の高まりを見せている。そんな中、ビッグデータを用いて地域経済を分析する「V-RESAS」というサイトが公開された。「V-RESAS」はコロナ禍の経済活動をどのように読み取っているのか。このプロジェクトに携わるTakram田川欣哉氏と、自社のデータドリブン経営を指揮する「鈴与」の代表、鈴木健一郎氏が、「V-RESAS」がもたらす社会へのインパクトや企業のデータ活用の可能性について議論した。

コロナ禍における多様なデータを毎週更新する「V-RESAS」

田川:鈴与グループの「SCORE」開発のきっかけにもなった「RESAS」に加え、2020年6月には、内閣府と帝国データバンク(TDB)とともに、コロナ禍の日本経済の影響についてビッグデータを用いて可視化する地域経済分析サイト「V-RESAS」を公開しました。この「V-RESAS」のプロジェクトには、画期的な要素がいくつかあります。大きな特長はデータの更新頻度です。「V-RESAS」では、人流・飲食・消費・宿泊などの多様なデータが毎週更新のペースで提供されます。健康診断に例えれば、もともとの「RESAS」は人間ドックのように、年に1回、精密検査を行うような位置づけのものです。それに対して「V-RESAS」は、脈拍、体温、血圧、呼吸などを途切れなく刻々と見るための検査機器のようなものです。このようなデータはVital Signs(バイタルサイン)と呼ばれ、医師が体の状態把握をするために欠かせない重要な情報です。「V-RESAS」はまさに、経済のバイタルサインを可視化するものです。

刻々と状況が変化するコロナ禍においては、年に一度のデータ更新頻度では限界があります。鮮度の高いデータで状況を的確かつ迅速に把握できるサイトとして、「V-RESAS」は生まれました。

鈴木:確かに「RESAS」や「SCORE」が年1回のデータ更新に対して、V-RESASは週次の更新型サイトで、より鮮度の高いデータで判断、意思決定できるという意味でも価値が高いですね。

「V-RESAS」により地域ごとの課題も可視化できる

田川:「V-RESAS」は、人流・飲食・消費・宿泊・雇用など、地域産業にとっての重要データが毎週更新のペースで提供されるのが大きな特長です。

例えば「人流」では、位置情報とビッグデータを融合させたサービスを提供しているソフトバンクグループの株式会社Agoopの流動人口データ(スマートフォンのユーザの同意の上で取得したGPSデータを、昼夜間人口をベースに人口統計化したデータ)を基に、全国の移動人口の動向を推計し、前年同週比で表しています。

地域ブロックごとの推移も見ることができ、例えば、緊急事態宣言が発令された直後、関東では「人流」が前年同週比でマイナス65%までになりました。これまで経験したことのない移動抑制だと思います。その後は徐々に戻ってきていますが、前年並みとはいかず、現在もまだマイナス10〜20%程度で推移しています。

「V-RESAS」では、地域ブロックごとの、「イベント」「興味・関心」「雇用」などのデータも表しています。「イベント」では、イベントチケット販売数のデータを、開催日ベースの前年同月比で表しています。全国どのブロックも、マイナス70%以上の落ち込みになっているのが見て取れます。

鈴木:Jリーグは一時、無観客試合になりました。今も観戦者数の制限が続いています。経営という観点では、非常に厳しいと感じています。

田川:そうですよね。データと現場の肌感覚が近いということかなと思います。「V-RESAS」を見て興味深いのは、どの分野もマイナスではあるものの、その程度については、かなりばらつきがあるということです。

例えば「宿泊」を見ると、四国ブロックは2020年9月第3週には前年同月比でプラス90%と、大幅に伸びているのです。「人流」も「飲食」も、四国は他のブロックに比べてパフォーマンスがよい状況です。

「V-RESAS」は都道府県ごとの動向を見ることもできます。例えば静岡県を見ると、市区町村の中や県内の移動は戻っているものの、県をまたいだ移動はまだ少ない。すなわち、観光などで外からお客様を呼んでくることがなかなかできていないといったことも分かります。

データだけは意味がない。見た人のアクションまでいかに接続するか

田川:世界を見ても、コロナと経済を巡って、「V-RESAS」ほどデータがそろっているものはありません。この点では日本は今、先頭グループを走っています。「RESAS」が始まった5年前には、このようなことを政府がやること自体に抵抗があったと思いますが、大きな変化を感じます。

鈴木さんも鈴与グループの経営に携わる中で、データに基づいた計画を立て、実行すると宣言されていますね。

株式会社Takram 代表取締役 田川 欣哉氏

鈴木:さまざまなデータが整理され、適切な解像度でビジュアライズされることは、とても社会的意味があると思います。ただし、データだけでは意味がありません。大切なのは、それを具体的なアクションにつなげていくことです。

データを見た人が経営者なのか一般従業員なのか、民間企業の人なのか、自治体の人なのか、人によって解釈や次のアクションへの仮説が変わってくると思います。自分たちの持っているデータと掛け合わせ、どういう解釈をし、どういうアクションにつなげるか。データを基に組み上げた仮設を持って行動する人が増えれば、データの活用がもっと広がっていくのではないかと思います。

田川:まさにその通りですね。鈴与グループにおけるデータ活用の手応えはいかがですか。また、どのようなデータをためて、生かしていこうとお考えでしょうか。

鈴与株式会社 代表取締役社長 鈴木 健一郎氏

鈴木:まだまだこれからです。ただし、5年前と比較すればかなりよくなっている実感はあります。鈴与グループのデータ活用は、次の5年が勝負になると思っています。現在、次の5年の中期経営計画をリリースしようとしているのですが、大きなテーマはデータをしっかりとためることです。ためた後の活かし方まで見えているデータもあれば、まだ使い道は分からないけれど、ひとまずためておくデータもあります。後者については、用途を定めることができないかもしれませんが、まずはデータをため始めておくことが大切です。必要性が明確になってからデータを集め始めていては、データが蓄積されるまでに時間がかかり後れを取ることになります。

これからは、データに基づいてできるだけ無駄がない形でアクションにつなげていくことが求められると考えています。そのためには、より多くのデータの蓄積とデータ解析・データ活用のレベルをさらに上げていく必要があります。

未来志向で、データ活用のあるべき姿を描き実現

田川:データをためる、データで行動するといったことを、中期経営計画にも入れていらっしゃると伺いました。データ活用について非常に明快に述べていらっしゃいますが、一方で、グループの皆さんにとって、データを見ながらビジネスをすることを当たり前にするためには、意識の変革も求められると思うのですがいかがですか。

鈴木:まずはトップが意志と覚悟を持つことがとても大事です。それがないと始まらないと思っています。グループの一人一人が、ビジョンやデータの重要性を共有できないと、なかなか物事が前に進みませんし、組織も動きません。ときには力ずくでやるしかないということもあります。先に組織をつくって、専任の人材を置くといったことも一つの方法です。目的達成に必要な人材を持ってきて、まずは少人数で組織化し、そこで少しずつ結果を出す。結果を出すと、意味があるということが少しずつ伝わっていきます。

そのあたりの有効性が、5年前と比較するとかなりグループ内で認知されつつあると感じます。データ活用が、利益など具体的な結果に結び付く実感を、社員が共有できれば、活用のスピードはぐっと上がると思っています。

田川:140社もの企業グループがあれば、データ基盤や仕組みがまちまちだったりしていると思います。データについても、一つの大きな組織で取り組めば、サイロ化している知識や知恵、思想やロジックのようなものを、データが突き破ってくれる可能性が出てきます。データが共通言語を提供してくれるわけです。私の専門分野であるデザインも、こうした機能があります。鈴与グループでは、データを共通基盤化して常識知のようなものをつくって、ガバナンス強化に役立てる狙いはありますか。

鈴木:各社がばらばらにデータ蓄積や活用をすると無駄も多くなります。よく言っているのですが、もしグループ各社共通のお客様がいたとして、グループ140社がそれぞれ同じお客様の社名を1回入力すれば、140回入力することになってしまうわけです。。これは大きなコストになります。

そこで今、会計の基幹システム刷新に取り組んでおり、来年の9月ごろにはリリースする予定です。それをまず中核会社の鈴与に導入し、その後、グループに水平展開していきます。データウェアハウスも付帯しており、そこに色々なオペレーションシステムからのデータを吸い上げる仕組みにしています。今はまだ、いろいろなところで、二重入力、三重入力をしていたり、アナログからデジタルへの転記をしていたりと、データをまとめたり、分析・活用する際の生産性上がってない部分がありますが、これが実装できれば、その生産性はかなり上がると考えています。

田川:お話を伺っていて、鈴木さんが未来志向で思考されていると感じました。未来の目標を想定し、そのために今何をすべきかを逆算的に考えて打ち手を講じていらっしゃる。データ活用については、現状維持的視点ではなかなか進みません。現在進行形で語るのか、未来完了形で語るのかによって、将来に大きな差が出ると思います。

鈴木:そうですね。やはり、未来を見据えて「今やる」ということが大事だと思います。私が課題と思っているのは、それを実現するスピードです。鈴与グループは200年の歴史があります。やると決めたことはしっかりやり遂げるのですが、そのスピードは決して速いとはいえません。私がこうしようといった話をしても、実現までに時間がかかり、私のイメージするスピード感には至っていません。

いくら気付くのが早くても、実現するのが遅いと、後から気付いた人に追い抜かれることもあります。もちろん、全て自前で解決することはできません。パートナーの力が不可欠です。これからもTDBや田川さんなどのお力を、ぜひお借りしたいと考えています。

田川:こちらこそよろしくお願いします。本日はありがとうございました。

写真左|鈴与株式会社 代表取締役社長 鈴木 健一郎氏

2000年日本郵船入社。2009年より鈴与取締役。2011年からは常務取締役としてグループ食品事業担当やロジスティクス事業本部長委嘱を務め、専務取締役を経たのち、2015年代表取締役社長に就任。創業以来200年以上にわたり、培ってきた物流事業に加え、今後の重点領域として鈴与株式会社におけるオープンイノベーションやプラットフォームビジネスを手がけるとともに、「聖域なきデジタル化」を掲げ業務改革を推進中。

写真右|株式会社Takram 代表取締役 田川 欣哉氏

テクノロジーとデザインの幅広い分野に精通するデザインエンジニア。主なプロジェクトに、トヨタ自動車「e-Palette Concept」のプレゼンテーション設計、メルカリのデザインアドバイザーなどがある。東京大学工学部卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了。経済産業省 産業構造審議会 知的財産分科会委員。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート名誉フェロー。

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/下原  PHOTO:落合直哉  編集:野島光太郎)

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