1801年創業、グループ企業140社の鈴与
代表
鈴木健一郎氏が取り組むデータ活用とは?

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1801年に廻船(かいせん)問屋として創業し、220年近い歴史を持つ静岡県静岡市の「鈴与」グループ。中核企業「鈴与」の社長、鈴木健一郎氏が指揮するのは、データドリブン経営だ。データ活用によって企業の意志決定はどう変わるのか、さらに次のアクションにつながるデータとはどのようなものなのか。気鋭のデザインエンジニア、Takram代表の田川欣哉氏と意見を交換し合った。

鈴与グループにおけるコロナ禍への影響や対応

田川:鈴木さんは鈴与グループの中核企業である鈴与株式会社の代表を務めていますが、このコロナ禍で、鈴与グループはどのような影響を受けたのでしょうか。

株式会社Takram 代表取締役 田川 欣哉氏
株式会社Takram 代表取締役 田川 欣哉氏

鈴木:鈴与グループは、鈴与、鈴与商事、鈴与建設、鈴与自動車運送など約140社で構成されており、グループの従業員数は約1万6,000人です。

事業は、物流から、エネルギー・環境対応商材、建設・ビルメンテナンス・警備、食品、情報、航空、地域開発と、幅広く展開しています。静岡空港と県営名古屋空港を拠点とする航空会社のフジドリームエアラインズもグループの一員であり、サッカーJリーグに加盟する清水エスパルスの経営責任も担っています。

今回これらの事業領域の中で、最も影響を受けたのが航空事業です。人の動きがぴたりと止まってしまいましたから。政府の観光支援事業「GoTo トラベル」で一部戻りつつありますが、前年比ではかなりの減少になっています。

一方で、その他の事業については、比較的堅調です。われわれは8月決算で、9月が新しい期のスタートです。今期の計画を立てている時はコロナの影響も踏まえてかなり保守的な計画をつくったのですが、ふたを開けてみると、全体としては思ったより速いスピードでビジネスが戻ってきている実感があります。物流に限っていえば、すでに前年に近いところまできていて、このままのペースで行けば、前年を上回ると見込んでいます。こういったことからも、航空事業のマイナスをグループ全体でしっかりと支えられていると考えています。

田川:多くの企業が依然として苦戦している中、鈴与グループでは早期に業績を回復しているわけですね。何か打ち手を講じたのでしょうか。

鈴木:コロナ禍においても、積極的に新規のお客様の獲得に取り組んだのが最大の要因でしょう。もう一つは、固定費の削減が大きく寄与しています。具体的には、旅費交通費の減少が挙げられます。私たちは静岡県の清水(旧・清水市。現・静岡市清水区)に本社があるので、国内では東京や名古屋、さらには海外にも出張する機会が多くありました。しかし、ここ数カ月はコロナの影響で出張ができなくなり、結果的に固定費が大幅に削減でき、それが利益の減少を補うことになりました。

新たな気付きもありました。それは、テレビ会議のコミュニケーションでも、ビジネスにまったく問題がないということです。以前であればお客様を訪問するのが当たり前だったのが、今ではむしろテレビ会議の方が当たり前になっている。これは以前の状態に戻ることはないでしょう。これからは、オンラインを前提に、できるだけ動かないで、いかに収益を上げることができるかが、企業の競争優位性につながってくると考えています。当社グループでもここには注力したいと考えています。

鈴与株式会社 代表取締役社長 鈴木 健一郎氏
鈴与株式会社 代表取締役社長 鈴木 健一郎氏

田川:以前からオンラインの活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する意義などは、さまざまな場所で指摘されてきましたが、顧客など相手があることもあって、取り組みは限定的でした。それがこのコロナ禍で、一気に進み、まるで日本を挙げての社会実験の様相を呈しています。

鈴木:DXの実現には、確かに社会的な意義の大きさを感じます。当社も数年前からテレビ会議システムを導入しているのですが、使っていたのは私ぐらいで、グループの中でも活用が広がっていませんでした(笑)。ところが、コロナ禍で使わざるを得ない状況になって使ってみると、職種や年齢に関係なく、多くの従業員が「意外に便利だ」と実感することになりました。もちろん、商談のプロセスの中では、リアルでお会いした方が良い局面もありますが、オンラインでできることは圧倒的に多いですね。これからはリアルとオンラインのベストミックスが主流になってくるでしょう。特に海外出張などはかなり費用が掛かりますから、わざわざ行くなら、それによって得られる成果をよりしっかりと見極めるがあります。

データを貯め、そしてアクションへとつなげる独自のシテムを開発

田川:今、成果というキーワードも出てきました。今日の対談のテーマでもあるのですが、鈴木さんはかねてから「データ」を活用した企業経営やビジネス展開を推進されようとしています。

私も、鈴木さんからご依頼をいただいて、2019年に設立された株式会社TUMIX(ツミックス)のお手伝いもさせていただきました。「TUMIX」は物流業における配車板、ドライバー管理、求貨求車といった、従来は表計算ソフトや紙で行っていた業務を、パソコンとスマートフォンのアプリで簡単に行える新しいサービスです。鈴木さんは当時、「今までデータを吐き出していなかったビジネスを、吐き出せるようなビジネスへ転換していくことで、そこから先の展開の質に差をつけていきたい」と話していました。

鈴木:TUMIXのコンセプトやプラットフォームには自信は持っていますが、TUMIXが提供するデータの価値からいかにお客様の行動変容につなげ、実利につなげていただくかという点では、さらに検討を重ねているところです。データを取れるだけの仕組みでは意味がありませんし、アナログをデジタル化するだけというのも意味がありません。ビジネスでデータを活用するには、生産性を上げるといった明確な成果を設定し、それが実現できるものでなくてはなりません。

鈴与グループでは、TUMIX以外にもデータ活用を進めています。例えば、内閣府の「RESAS(リーサス:地域経済分析システム)」のように、お金の流れを可視化し物流を推測する、鈴与版RESAS「SCORE(スコア:Suzuyo COmpany REsearch)」は、社内での活用が進んでいます。

田川:「RESAS」は、国が地域経済に関わるさまざまなビッグデータ(企業間取引、人の流れ、人口動態など)を収集し、ビジュアルを使って分かりやすく可視化するシステムです。帝国データバンク(TDB)が主幹企業を務め、企業間取引などのデータを提供しています。内閣府ではさらに2020年6月、コロナ禍の日本経済の影響についてビッグデータを用いて可視化する地域経済分析サイト「V-RESAS」を公開しました。Takramもこのプロジェクトに参加しています。


RESASでは、棒グラフ・円グラフ・折れ線グラフだけではなく、地図上での3D表示や、時間軸の設定などを実装し、抽象的な全体のイメージからシームレスに、具体的かつ詳細データを把握することができる。(上記動画は、RESASのデータビジュアライズのプロトタイピング)

鈴木:「RESAS」では「カネ」の流れがビジュアライズされて表現されていました。これを「モノ」として捉えて物流に応用できないかと考え、TDBにアプローチして「SCORE」を開発したのです。具体的には、TDBが企業間取引のデータをたくさん持っているので、そのお金の流れのデータから物流を推測するのです。そこに距離のデータを掛け合わせれば、どの企業がどのような物流課題を持っているのかという仮説を立てることができます。

例えば、ある企業が小ロットの商品を関東から九州に多頻度に運んでいるとすると、そこには改善の余地がある可能性が高くなります。それをあらかじめ「SCORE」で把握した上で、その課題を解決する提案を最初からすれば、成約の確率が上がりますし、クロージングまでの時間も短くなります。「SCORE」を開発して3年ほどになりますが、着実に成果につながっています。データを基にした仮説を起点に営業活動を行うことで、無駄打ちの少ない営業活動が行えるようになり、取り組みの価値を感じています。コロナ禍において、さらに予測のできない世の中になった今、Takramさんが参加している「V-RESAS」のプロジェクトについても、今後の企業活動においてどのように活用していけるのか注目しています。

鈴与株式会社 代表取締役社長 鈴木 健一郎氏

写真左|鈴与株式会社 代表取締役社長 鈴木 健一郎氏

2000年日本郵船入社。2009年より鈴与取締役。2011年からは常務取締役としてグループ食品事業担当やロジスティクス事業本部長委嘱を務め、専務取締役を経たのち、2015年代表取締役社長に就任。創業以来200年以上にわたり、培ってきた物流事業に加え、今後の重点領域として鈴与株式会社におけるオープンイノベーションやプラットフォームビジネスを手がけるとともに、「聖域なきデジタル化」を掲げ業務改革を推進中。

写真右|株式会社Takram 代表取締役 田川 欣哉氏

テクノロジーとデザインの幅広い分野に精通するデザインエンジニア。主なプロジェクトに、トヨタ自動車「e-Palette Concept」のプレゼンテーション設計、メルカリのデザインアドバイザーなどがある。東京大学工学部卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了。経済産業省 産業構造審議会 知的財産分科会委員。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート名誉フェロー。

(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣/下原  PHOTO:落合直哉  編集:野島光太郎)

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