2020年7月31日、アメリカのトランプ大統領は動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の国内での使用を禁止すると発言し、それからわずか1週間後の8月6日には「安全保障上の脅威」という名目で、TikTokの運営会社である「北京字節跳動科技(ByteDance)」との取引を禁止するという大統領令に署名しました。
9月15日までにByteDanceのアメリカでの事業を売却しなければ、国内での同社との取引を停止するという内容が盛り込まれたこの大統領令、対象はByteDanceだけでなく、中国の主要なSNSである「微信(WeChat)」を運営する騰訊(テンセント)の名前も上がっています。
この発表はアメリカや中国国内のみならず、日本にも大きな衝撃を与えました。実際日本国内では地方自治体や行政機関も広報活動の一環としてTikTokを利用していましたが大統領令を受け、埼玉県、大阪府、神戸市など一部の地域ではTikTokでの広報を停止しています。また、TikTokのタイムラインを眺めていても、TikToker(TikTokで人気の高い動画配信者)が軒並みインスタグラムのアカウントへの誘導を強めており、若者を中心に不安が広がっている様子が見てとれます。
ユーザーたちが創意工夫を凝らした短い動画を投稿するTikTokがなぜ安全保障上の脅威とされたのか?今回はアメリカで加速する中国の大手ITサービス規制の動きの背景を探っていきます。
アメリカと中国大手ITとの軋轢、という文脈で真っ先に名前が上がるのが中国の大手通信機器メーカーの「華為技術有限公司(Huawei Technologies)」です。
Huaweiとアメリカの確執は2000年代に遡ります。当時、国際連合の経済制裁の対象とされていたイラクのフセイン政権や、アフガニスタンのタリバーン政権にHuaweiが通信機器を支援しているという疑惑が生じました。その後、2016年にはイラン、シリア、北朝鮮など反アメリカ国家への輸出規制への違反が発覚、2018年には、副会長兼CFOの孟晩舟がアメリカの要請を受けカナダ、バンクーバーでイランへの支援のため金融機関に虚偽の申告をした容疑で逮捕されます。
また、Huaweiの機器には通信データを人民解放軍に送る「バックドア」が仕掛けられているのではないか?という噂もあり、たびたびスパイ行為やサイバー攻撃の疑惑がかけられていました。
そうした中で2020年6月30日、アメリカ連邦通信委員会(FCC)はHuaweiと同様の疑惑のあった「中興通訊(ZTE)」を「安全保障上の脅威」と正式に認定し、アメリカの通信事業者が2社の製品を購入する際にはネットワーク整備のための補助金の打ち切りの処分にするという発表をしました。
アメリカにおいて安全保障上の懸念となりうる事件がたびたび起こっていた中国の大手通信機器メーカー2社に対し、今回名前の上がったTikTokやWeChatなどは個人間のやりとりを中心としているサービスにもかかわらず、「安全保障上の脅威」として利用停止宣言がなされました。このきっかけとしてある一つの事件が挙げられています。
それがTikTokユーザーによるトランプ大統領の選挙集会のボイコットです。
トランプ陣営は次期大統領選挙を控えた重要な選挙集会の開催日の直前、100万人近くが集会への参加を登録したと発表しました。19000人を収容できる会場に人が入りきらないことを予想し、入場できなかった参加者を対象とした会場外での演説の準備なども行われていました。
しかし当日、フタを開けてみると参加者は収容人数の約1/3程度の6200人に留まりました。
集会に参加するためには名前と電話番号メールアドレスを使った予約が必要とされていました。そうした中でTikTokをはじめとしたSNSで拡大していた反トランプ運動の参加者たちが集会への予約を次々と行い、当日参加しないという手法でボイコットが行われていたのです。
この事件から約2週間後、マイク・ポンペオ国務長官がはじめて、TikTokの利用禁止の可能性について公に語り、巷ではこのボイコットを受けたトランプ大統領の報復なのではないか、と噂されています。
大統領令発令後、TikTokについて「アンドロイド」を搭載したモバイル端末の識別番号を利用者に無断で収集するなどのGoogleの規約違反への疑惑などが報じられる一方で、TikTok側もさまざまな対策を講じています。
8月初旬にはアイルランドにデータセンターを設置。さらにアメリカオフィスでは、現地時間の8月17日には企業発信のために新しいTwitterアカウントと新たなウェブサイトを開設し、データ管理の透明性についてのレポートや大統領令への反論などを発信しています。
新型コロナウイルス感染症の拡大で各国で国外への渡航が規制される中、これまで以上に「国家」の「内」と「外」が意識されるようになりました。
そうした状況で、中国やアメリカをはじめ、さまざまな国でナショナリズムに向かうような動きが高まっています。
アメリカにおける中国ITの締め出しにもそのような動きが大きく影響しているのではないでしょうか?
しかし、世界中でパンデミックが発生する中で、国境を超えて連携し合うことが非常に重要になります。そんな中での今回のような国際的な対立構造についてより多くの人が考えていく必要があるのかもしれません。
【参考引用サイト】 ・ファーウェイ(HUAWEI)問題【2020年最新版】 ・日本の生活に溶け込む「TikTok」 - Yahoo!ニュース ・中興通訊(ZTE) - Wikipedia ・ファーウェイ - Wikipedia ・米国がファーウェイを恐れる本当の理由は、ネットワークの「裏口」の威力を認識しているからだった? ・TikTok、無断で情報収集 グーグル規約に違反か ・TikTok、アイルランドに欧州初のデータセンター設置へ ・新型コロナで 先鋭化するナショナリズム ... - MIT Tech Review ・神経とがらせる米国 データ流出懸念、中国IT締め出し加速 ・トランプTikTok禁止令とTikTokの正体 | ワールド
(大藤ヨシヲ)
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