わたしたちの労働環境を取り巻く指標の中でも重要度の高い指標の一つが失業率です。日本の労働市場において、過去数十年にわたって様々な経済環境や社会的要因によって失業率は変動してきました。バブル経済崩壊、リーマンショック、さらには新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など、世界的な経済イベントや国内の産業構造の変化が、失業率に影響を与えてきたのです。そこで、今回の記事では、中長期的な視点から、日本の失業率の変遷を振り返ります!
2020年代の日本の労働市場は、新型コロナウイルス感染症の影響で大きな打撃を受けましたが、2021年以降、経済活動の回復とともに徐々に持ち直しています。リーマンショック以降、長期的に上昇傾向にあった有効求人倍率や新規求人倍率は、2020年に感染拡大に伴う経済停滞で一時的に減少しましたが、その後は回復基調にあります。
2020年の緊急事態宣言中、有効求人倍率は1.18倍に低下し、完全失業率は2.8%に上昇しましたが、2022年には求人倍率が2.26倍、完全失業率が2.6%まで改善しました。依然として感染拡大前の2019年の水準には戻っていないものの、景気回復に伴う雇用の増加が見られます。
2022年の日本の就業者数は約6,700万人で、就業率は約6割です。また、失業者は約200万人で、働く意欲があるものの求職活動を行っていない「就業希望者」は約240万人存在します。これらを合わせると、約440万人が労働市場からは除外されていますが、労働意欲のある人々の94%が実際に仕事に就いているという状況です。
就業者のうち、正規雇用労働者は約6割、非正規雇用労働者は約3割を占めています。特に女性や高齢者の労働参加が進展しており、女性の就業率は全体の54.2%に達していますが、非正規雇用の割合が依然として高いのが特徴です。
非正規労働者については、2020年以降の景気停滞により一時的に減少しましたが、2022年には再び増加に転じています。不本意に非正規雇用に就く人々の割合も減少しており、非正規労働者の中には家事や育児との両立を重視しているケースが増えています。
1990年代初頭、バブル経済が崩壊し、日本は長期的な経済停滞に突入しました。この時期の失業率は、バブル期の2%台から徐々に上昇し、4%台に達しました。この背景には、不動産価格の暴落や企業の倒産、さらには大規模なリストラがありました。多くの企業が経済環境の悪化に対応するため、労働者の削減や非正規雇用の増加を進めたため、雇用環境が悪化したのです。
2000年代に入ると、ITバブルやグローバル経済の好調に支えられて、日本経済は一時的に回復し、失業率も低下傾向を見せました。しかし、依然として企業の採用方針は保守的であり、特に新卒者の就職難が問題となりました。バブル崩壊後の2002年・2003年となりました。この間、「特に若い世代(15~24歳)の失業率が非常に高く、10.9%にまで上昇したのです。この時期のことを「就職氷河期」とも呼びます。
2008年に発生したリーマンショックは、世界経済に大きな打撃を与え、日本の失業率も再び上昇しました。リーマンショック後の2008年に5.5%となっています。特に輸出依存型の製造業が大きな打撃を受け、多くの企業が正規雇用の削減や生産縮小に踏み切りました。この時期に、非正規雇用の拡大が顕著となり、雇用の不安定化が深刻な問題となりました。
2012年末に誕生した安倍政権は、アベノミクスと呼ばれる経済政策を打ち出しました。金融緩和、財政出動、成長戦略という三本の矢を掲げ、国内経済の再生を目指しました。この政策の効果により、経済が徐々に回復し、失業率は低下を続けました。2018年には失業率が2.4%まで改善し、バブル崩壊以降で最も低い水準にまで戻りました。
アベノミクス期の雇用回復は、特にサービス業やIT関連産業での雇用創出に支えられました。また、女性や高齢者の労働参加率が増加し、労働力不足に対応する形で多くの人が就労の機会を得ました。しかし一方で、非正規雇用の比率が高止まりし、賃金の停滞や雇用の質の問題は依然として解決されないままでした。
日本の失業率は中長期的には改善傾向にあるものの、いくつかの課題が残されています。
労働力人口の減少は、日本の労働市場にとって深刻な課題です。特に地方では、若年層の流出と高齢化により、労働力の確保が難しくなっています。これに対する解決策として、女性や高齢者の就労促進、さらには外国人労働者の受け入れ拡大が検討されています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、ITスキルを持つ労働者の需要が急増しています。一方で、これに適応できない労働者との間でスキルギャップが拡大しており、再教育や職業訓練の充実が求められています。そうした中で、「人材開発支援助成金」など、リスキリングを強化する助成金も拡充されています。
非正規雇用の増加は、雇用の不安定化や賃金格差の要因となっています。これに対する改善策として、同一労働同一賃金の推進や雇用の安定性を確保するための法整備が進められていますが、さらに労働条件の改善が求められています。
日本の失業率は、中長期的に見ると経済の変動に伴って上下してきました。バブル崩壊、リーマンショック、コロナ禍といった経済危機を乗り越えるたびに、雇用環境は回復を見せましたが、依然として課題は残されています。少子高齢化やデジタル化に対応するためには、労働市場の柔軟性と、すべての労働者が安定した雇用を得られる環境の整備が急務です。今後の労働市場の動向にも注視が必要です。
(大藤ヨシヲ)
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