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データ活用から生まれたPaaS “PARCO as a Service”というDXの考え方——updataNOW 20 イベントレポート

         

毎年恒例のウイングアーク1st主催カンファレンス「ウイングアークフォーラム」。2020年は名称を「updataNOW 20」に刷新し、オンラインイベントとして開催しました。今年は10月12日の前夜祭を皮切りに16日までの会期中、65超のセッションでお送りしました。

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スマートフォンの普及が急速に広がり始めた2010年代初頭から、PARCOはショッピングセンターにおけるさまざまなデジタルテクノロジーの活用に取り組んできました。とりわけ近年はオムニチャネル化が進む中で、リアルとデジタルを巧みに融合させ、あるいはリアルの店舗空間に積極的にテクノロジーを取り入れることで、新たな顧客体験と価値を提供し続けています。今回のセッションでは、同社の取り組みと今後の展望を、ショッピングセンターのDXという視点からシェアいただきました。

ショッピングセンターはお客様と商品の出会いの場所

ショッピングセンターのブランドリーダーとして、長年にわたり業界をリードしてきた「PARCO」。北海道から九州まで全国に店舗を展開し、2020年11月20日には大阪・心斎橋に新店舗をオープンしました。パルコグループにおける事業のオムニチャネル化や、ICTを活用したビジネスマネジメント改革の責任者でもある、株式会社パルコ 執行役員 CRM推進部 兼 デジタル推進部担当/株式会社パルコデジタルマーケティング 取締役 林 直孝 氏は、ショッピングセンターという場所を特徴づけるキーワードとして「セレンディピティ(serendipity)」を挙げます。

株式会社パルコ 執行役員CRM推進部 兼 デジタル推進部担当  株式会社パルコデジタルマーケティング 取締役 林 直孝氏

株式会社パルコ 執行役員CRM推進部 兼 デジタル推進部担当 
株式会社パルコデジタルマーケティング 取締役 林 直孝氏

「直訳すると、『偶然の出会いによる幸福感』ということです。ショッピングセンターを訪れるお客様は、何が欲しいか決まっていない方が多い。『何かいいものがないかな』という気分で来店され、安心できる店員から勧められて納得のできるものを買うのです。その意味でショッピングセンターとは、お客様がさまざまな商品やサービスと偶然出会い、楽しさや幸せな気分を体験していただく場所だと考えています」

ショッピングセンターには多くのテナントショップが軒を連ね、さまざまな商品を提供しています。こうした複数かつ多様なブランドへの認知や体験を組み合わせて相乗効果を生み出すことで、個々のブランドとの絆がそれぞれの顧客の中で強化されていきます。これも単独店舗にはない、ショッピングセンターならではの特徴です。

パルコのようなショッピングセンターは、自らが商品を販売する「小売業」ではありません。商業ビルを建ててさまざまなブランドショップに出店してもらい、それらのショップとお客様がより良い関係を長く続けられる環境を提供すること。そのためにさまざまな顧客体験を提供して、ブランドとお客様の絆を強固にしていく取り組みが求められていることを、林氏は強調します。

「一言で表せば、『ショップや商品・サービスとのすてきな出会いをいかに増やせるか?』。これが、私たちショッピングセンターの非常に大事な役割だと考えています」

一方で、顧客のショッピング体験を取り巻く環境は、本格的なインターネットの広がりを背景に大きく変わってきています。インターネットの常時接続が当たり前となった現代は、言い換えれば「アフターデジタル=オフラインのない時代」。ここでは顧客のショッピング体験も、以前とはまったく違ったものになると林氏は指摘します。

「デジタル以前の時代は、お客様の来店時に商品や接客で価値提供をしていました。それがデジタル時代になって、来店時だけでなく、来店前から来店中、そして来店後の接点づくりまで、一連のプロセスを通じて継続的に価値を提供できるように変わってきています」

こうした現状を見据えた上で、これからのショッピングセンターはあらゆるポイントで顧客への接触機会を創出し、なおかつ各ポイントでの顧客体験の質を向上させる取り組みが不可欠だと林氏は語ります。

スマホアプリを軸にオムニチャネル化の試みを推進

そうしたデジタル時代の顧客体験の創造に向けて、パルコでは2013年から取り組みを開始。具体的なツールとなったのは、スマートフォンです。当時、日本全国ですでに5,600万人のスマホユーザーが日本全国におり、そこを接点に顧客とのさまざまなタッチポイントを確立し、顧客を拡大していく計画を立てました。

「そこで取り組んだのが、お客様のスマホにアプリをインストールしていただき、各社がそのアプリを介してポイントを提供するというサービスでした。ここをきっかけにデジタル接点をつくり、来店前から来店時にわたるコミュニケーションを深めること。そこから潜在客を探し出し、最終的にパルコのWebメンバーやハウスカードの会員といったロイヤルティーの高いお客様になっていただくのを目的に、取り組みを続けていきました」

こうした取り組みに当たって作成したのが、下記のコンセプト図です。2013年ごろから、日本でもオムニチャネルという言葉が小売業会のキーワードになってきており、それを踏まえて考え出されたのが、「24時間 PARCO」というコンセプトです。これはリアルの店舗とデジタルのチャネルを掛け合わせることで顧客とのさまざまな接点を創出し、いつでも、どこからでも満足度の高いショッピングを体験してもらえる仕組みを創り出そうという試みでした。

「図の左側は、従来からのパルコのようなショッピングセンターが提供していた価値=店頭での接客です。そこに右側のWebを通じた接客のプラットフォームを整備して、いろいろなアプリやSNSやWebベースのサービスをどんどん搭載していく。この両者を掛け合わせることで、24時間いつでもパルコのサービスが受けられる環境を整えていきました」。

2014年10月には、スマートフォンアプリ「POCKET PARCO」のサービスを開始。翌2015年3月には全国展開が始まりました。このアプリを来店前、来店中、来店後のそれぞれのタイミングで利用してもらうことで、顧客行動の分析データが取得できるようになりました。さらに2018年には「ウォーキングコイン」という、パルコのビル内を来店客が歩いた歩数に応じてコインを提供するサービスも導入しています。

「このサービスでは、新たにAIでお勧めのショップをレコメンドする機能を取り入れました。そのお客様の過去の履歴=店舗でのお買い物履歴などを分析してパーソナライズされた結果に基づき、スマホのアプリの歩数カウント画面上部にお勧めのショップを表示するようにしたのです」

従来は来店客がご自分でパルコの建物内を歩き回ってショップを選択していたのを、デジタルの力を使ってお勧め店舗や商品をレコメンドする機能を実現したのです。この結果、レコメンドした場合の方が買い回るショップも増えるし、購買頻度や客単価も上昇するという効果が確認されていると林氏は明かします。

DXの実験場ともいうべき渋谷PARCOの新装オープン

2013年から始まったパルコのオムニチャネル化と、それを支えるDXの取り組みが大きく前進したのは、2019年の秋、新しい渋谷 PARCOの誕生でした。長年にわたって渋谷公園通りの顔として親しまれてきた先代のビルが、およそ半世紀ぶりに建て替えられ、ショッピングビルのさまざまな要素に最新のデジタルテクノロジーを取り込むことで、「世界に発信する唯一無二の次世代型商業施設」として新たに生まれ変わったのです。

地下1階から10階までの各フロアには、さまざまなコンセプトを盛り込んだ「次世代型」のショップや施設が設けられています。その一つが、AIショールーム「BOOSTER STUDIO by CAMPFIRE」です。これは国内の大手クラウドファンディング事業者である株式会社CAMPFIREとパルコがタッグを組んでオープンした店舗で、「IoT×AI」というコンセプトに基づいています。

「この店は販売を行わず、商品の体験に特化したショールームとして設けられています。店内には各種のセンサー類が数多く設置されていて、お客様がどういう商品の前に立ち止まるか、またどんな属性の人が何人関心を持っているのかといったデータを取得できます。それらのデータは、店内に出品されている各製品のメーカーにもフィードバックされます」

もう一つの例は、商品・在庫データの連携を実現した「PARCO CUBE」。この特徴はリアルとデジタルが融合した、小型のオムニチャネル型ショップの集合体です。店内のスペースが従来型のショップより小さいため、店内に置くのは戦略アイテムや限定商品だけに絞っています。そこを補完する意味で、各テナントショップの自社eコマースサイトと連携して、来店客が店頭からサイト内の情報を閲覧したり、そこで見た情報をもとにお客様の好きなタイミングで、パルコのオンラインストアで商品を購入できるようになっています。まさに、リアルとデジタルが補い合いながら、従来のショップ以上のポテンシャルを発揮できる、次世代型のオムニチャネルショップゾーンです。

この他、購買データ連携の試みとして、電子レシートサービスの提供も行っています(下図)。現在多くのリアル店舗では、キャシュレスで決済しても紙のレシートが渡されます。これが将来的にはデータとしてスマホに届くようになると考え、渋谷PARCO内の一部のショップに導入しました。電子化することで商品情報や購買履歴が分析に使えるようになり、商品のレコメンドや顧客の購買動向などを知ることができます。そうした各テナントショップに有益な施策を推進することで、これまでにないショッピング体験を推進していくプロジェクトを今後予定しています。

10年後も変わらない価値を顧客に提供するにはどうするか

今回のセッションのまとめとして林氏は、「世界はアフターデジタル時代のまっただ中にいる」と語ります。そして同時に「withコロナ時代のまっただ中にいる」ことでもあり、アフターデジタル時代への対応はwithコロナ時代の処方せんにも成り得ると示唆します。現在パルコでは、withコロナ時代の対応として、三つの具体的な施策を展開しています。

パルコオンラインストアの活用:渋谷 PARCOの多くのショップでオンラインでの購入が可能になっている。この結果、渋谷には来られない人でも買い物を楽しめるという状況が生まれ、海外の顧客の取り込みも進んでいる。

パルコオンライン商店街でのライブコマース:インターネット上に設けられた PARCOオンライン商店街にアクセスすることで、各テナントからの接客を自宅にいながらライブで受けられるという試みが、2020年秋にスタートした。

パルコ ミュージアムオンライン ギャラリー:現在パルコのギャラリースペースでは、3密を避けるために入場者数を限定して運用している。このオンラインギャラリーを利用すれば、自宅からでもスマホなどを使って3Dビューでアート作品を楽しむことができる。

林氏は、自分たちのビジネスにおけるDXを考えるときに、まず「そのテクノロジー活用の目的は何か」を明確にする必要があると語ります。そして目的が定まったら、「その実現に必要なものは何か」を検討してゆくプロセスが求められてきます。

「パルコの場合、テクノロジー活用の目的は、従来の人による接客を“拡張”し、さらに多くのセレンディピティを生むことにあります。そして、その実現に必要なのは、顧客理解のためのデータとそれを分析する人の能力です。最後に、そのデータを獲得するタッチポイントはオンラインだけでなくオフラインにもある。だからこそオムニチャネル化=オンラインとオフラインの融合が重要なのです」

最後に林氏は、「今日お話ししたDXについて考える時に、最近非常に大切に思っているのが、AmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏の言葉です」と明かします。彼は今後10年で何が変わるのかよりも「何が変わらないか」が重要だと語り、eコマース ビジネスでは、10年後にも消費者は安いもの、そして素早い配送や品数の豊富さを変わらず求めていくだろうと語っています。*

*出典:ZDNet Japan アマゾンのベゾスCEO--「何が変わるかではなく、変わらないか」を重視するべき
https://japan.zdnet.com/article/35138144/

「10年後のショッピングセンターのお客様も同じだと、私は考えています。多くのショップの中から納得のゆく商品やサービス、そして心地よい接客を求めるのは変わることがありません。今後もそうした価値をお客様に提供し続けるために、私たちはデジタルテクノロジーをどう活用して、何を生み出すのかを考えていく必要があります」。

それには顧客を理解するためのデータと、それを獲得するタッチポイントの確立、それらを分析するマンパワーの育成に前向きに取り組む努力が欠かせません。「with/afterコロナの時代に、10年後も変わらない自社の価値をいかにお客様に提供するか。常にその問いをもって、データ活用やDXに取り組んでいきましょう」と林氏は力強く呼び掛け、セッションを締めくくりました。

【無料配信中】updataNOW 20 Archive


ウイングアーク1stが毎年開催している国内最大級のビジネスイベント「ウイングアークフォーラム」。今年は「updataNOW 20」と名前を変え、10/12~10/16にオンラインで開催しました。 登録数15,000名以上、セッションの総視聴数は40,000を迎えました。 データ活用とDXを基軸に、ネクストノーマル時代に向けた洞察から、各業界・業種の先進的な成功事例、そして、ビジネスを加速する最新のサービス紹介まで、65を超えるセッションの大部分をアーカイブ配信として公開いたしました。 見逃した方はもちろん、もう一度視聴したい方も是非ご覧ください。




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