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「異次元の少子化」という有事を巡る、大衆に届かない「データ」が示す本当の要因と支援のカタチ–データのじかん週報2023/5/16付

世界に類を見ないペースで進む日本の少子化が「国の行く末」を決める大きな要因であることは、官公庁や専門家、一般大衆を含めた多くの人の共通認識ではないでしょうか。ただ、その原因については「女性の社会進出の増加」や「結婚したくない人が増えたから」など、さまざまな意見がそれぞれの立場の人たちから主張されています。ただ、多様な主義主張が交わされる一方、「何を根拠にしているのか」、「どのようなデータをどう分析したのか」という情報まで表面化することは多くはありません。

         

・「女性の社会進出が少子化の原因」という言説は統計的に否定されている
・結婚したくない男女が急増しているわけではない
・専業主婦希望の女性は減り、一生働きたい女性が増えている

と聞くとみなさんはどう感じるでしょうか? データのじかんの主筆の大川が参加した内閣府経済社会総合研究所(ESRI)のフォーラムでは、メディアの表には出ないデータをもとに「静かなる有事」である少子化について議論されたといいます。大川曰く、一般的な認識とは異なる「事実を基にした鋭い見方」による少子化の要因と支援のカタチについて、編集長の野島と語ります。

データのじかん週報では、データのじかんの編集部内で会話されるこばなしを週1度程度、速報的にお届けいたします。

こばなし1:日本の少子化に対する一般的な認識とデータ

大川:4月26日に行われた内閣府経済社会総合研究所(ESRI)経済政策フォーラム「次元の異なる少子化対策への挑戦」で交わされた議論の一部で、非常に興味深い少子化に関するデータの切り口と論点がありました。特にニッセイ基礎研究所の天野馨南子さんの「地方で女性が活躍出来る場≒就業先を増やす事が重要」という指摘は、データのじかんの読者には少子化について考える際の視座に加えてほしいですね。まずは天野さんが少子化に関するデータをもとにまとめた結果は以下のとおりです。

※天野馨南子氏「日本の少子化に関するデータ解説」より抜粋

大川:さて、大前提として1970年から2021年にかけて出生数は193.4万人⇒81.2万人と58%減少しています。半世紀で42%水準になってしまった要因としては「カップル数の激減」、「理想のカップル増が激変」、「地方課題としての女性流出」が挙げられるとしています。

野島:項目1と2の上段部分である「カップルのもつ子どもの数」と「結婚希望者」減少も、少子化の要因として語られることが多いですよね。

大川:そうですね。個人的には上段部分が少子化に対する「一般的な認識」の一部だと感じています。ただ、天野さんはフォーラムにていずれも42%水準になった「主要な要因とは考えにくい」としているんですよ。それでは上記の一般的な認識をデータで用いるとどうなるのか、まとめてみましょう。

■一般的な認識1:「カップルのもつ子どもの数が減少した」から少子化が加速する?
主要な要因ではない。婚姻あたりの出生数は1.9人(1970年)⇒1.6人(2021年)と84%を維持。初婚同士婚姻あたりの出生数は2.1人⇒2.2人と105%水準を維持している。つまり、「夫婦のもつ子どもの数が減ったから」では説明できない。

■一般的な認識2:「結婚意思のない若者が増えた」から少子化が止まらない?
婚姻数が激減している根拠とは考えにくい。「いずれ結婚するつもり」と考えている18歳から34歳の未婚者の割合は、1987年は男性91.8%・女性92.9%で2021年は81.4%・84.3%となっている。確かに低下しているが、4割水準まで婚姻数が激減した主要な要因としては根拠が希薄である。

■一般的な認識3:「女性が社会進出した」から子どもを産まなくなった?
2020年の国勢調査では、以下のような優位な差が認められるので統計的に否定されている。
・子どもがいない世帯割合:専業主婦世帯>共働き世帯
・子あり世帯で18歳未満同居一人っ子世帯割合:専業主婦世帯>共働き世帯
・同上、18歳未満同居2子以上世帯割合:共働き世帯>専業主婦世帯

大川:18~34歳(結婚適齢期)の女性の理想のライフデザインとしては、「子育て期にやめることなく一生働きたい」が回答数の1/3を占めて最多に。ちなみに54~70歳の世代が結婚適齢期の際に行った調査と比べると、専業主婦コースを希望する人は33.6%から13.8%に大幅減しています。逆に結婚適齢期の未婚男性も「子育て期に妻が仕事を継続する妻と結婚したい」と考える人が約4割に急増しているのもデータとして明らかになっています。

野島:なるほど。カップル数の激減についても「初婚同士婚姻数の激減」についても、同資料では40~45歳の未婚率が1970年は男性2.8%、女性4.0%だったのに対し、2020年は男性29.1%(10.4倍)と女性19.4%とされていますね。一般的な認識との差異を比較すると、少子化の原因としては腹落ちする数値だと思います。

大川:そうですね。さらにある意味「気持ちいい」くらいの切り口が、上記の状況を踏まえたうえでの「地方の女性流出の課題」に対する天野さんの見解なんですよ。

こばなし2:企業支援ともつながる? 「古い価値観」ではない支援のカタチ

大川:独身の若者に目を向けると東京への転出超過が顕著で、特に女性の転出超過のエリアは39中34と顕著であると指摘されています。一方、転入超過の東京都は全国一の出生数を維持。維持率は2000年と比べても95%を保っています。全国の維持率は68%程度ですから、地方から東京への転出と出生数の相関関係が強いことには頷けますよね。転出の要因としてはSNSなどの普及によって、都心と地方の雇用格差の情報が流通していることにより、若者が「理想のライフスタイル」を実現するために上京するケースが多いと天野さんは分析しています。

※天野馨南子氏「日本の少子化に関するデータ解説」より抜粋

野島:なるほど。だからこそ、少子化対策として「地方で女性が活躍出来る場≒就業先を増やす事が重要」という結論になるわけですね。確かに今まで目にしてきた意見と比べると、切り口が新鮮で、データの見方を教えてくれますよね。

大川:そうですね。さらに重要なのは、データで示されたとおりライフスタイルや子育て、働き方などと明らかに考え方が違う若者に対し、「古い価値観」での支援は意味をなさないことも重要です。専業主婦と共働きの理想については現在の50~70歳と20~36歳以下では、見事に真逆になっていることがデータで明らかになっているわけですから。「フルタイムで働きたいのにパートしかない」といった環境の地方では、理想の働き方の実現はどう考えても無理ゲーでしょう。

野島:GWに埼玉県横瀬町が提供する「よこラボ」の話を伺いに行ったのですが、少し似たようなことを感じましたね。よこラボは企業や個人が「まちづくり」や「実証実験」をする場を提供する取り組みです。横瀬町ではArea898(エリアはちきゅうはち)というオープンスペースなど既存のJAの建物などを活用してコミュニティの場をつくっていて、夜はお酒を飲んで交流する場にもなっているんですよ。それこそ、私もその日会った方々と一緒に元JAの建物でお酒を飲みました。

大川:なるほど。

野島:よこラボの取り組みは非常に面白く、支援する側も支援をうける若者たちも前向きなのですが、日中のコワーキングスペースにいらっしゃる方、飲みの場に集まる地域外からのフリーランサーや多拠点居住を実践している方、地域おこし協力隊の方、夜になるまではお互い、コミュニケーションを図りつつも、夜になると、ある人はそのままスーと帰宅し、地域協力隊の方は仕事を始め、その横では飲み会が開かれている……といった多様な印象です。

大川:仕事で盛り上がる層とお酒で盛り上がる層、それぞれがちゃんと明確になっているのは、個人的には良いことだと感じましたね。もし良かれと思って見当違いの応援をしてしまうと、恐らく空気は変わってしまっていたと思います。

野島:一つのハコや支援の枠組みであっても、コミュニティは分散的で、多様な方が残りやすいということですね。確かに、世代によって「幸福」の在り方が変わるのであれば、コミュニティごとの適度な距離は必要かもしれませんね。


データのじかん編集長 野島 光太郎(のじま・こうたろう)  
広告代理店にて高級宝飾ブランド/腕時計メーカー/カルチャー雑誌などのデザイン・アートディレクション・マーケティングを担当。その後、一部上場企業/外資系IT企業での事業開発を経て現職。2023年4月より上智大学プロフェッショナル・スタディーズ講師。MarkeZine Day、マーケティング・テクノロジーフェアなどにて講演。近著に「今さら聞けない DX用語まるわかり辞典デラックス」(左右社)。静岡県浜松市生まれ、名古屋大学経済学部卒業。


データのじかん主筆 大川 真史(おおかわ・まさし)  
IT企業を経て三菱総合研究所に約12年在籍し2018年から現職。専門はデジタル化による産業・企業構造転換、製造業のデジタルサービス事業、中小企業のデジタル化。(一社)エッジプラットフォームコンソーシアム理事、東京商工会議所学識委員兼専門家WG座長、内閣府SIP My-IoT PF、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会 中堅中小AG、明治大学サービス創新研究所客員研究員、イノベーション・ラボラトリ(i.lab)、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMAを兼務。官公庁・自治体・経済団体等での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。直近の出版物は「アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド」(大川真史編、技術評論社)


データのじかん編集 藤冨 啓之(ふじとみ・ひろゆき)  
経済週刊誌の編集記者として活動後、Webコンテンツのディレクターに転身。2020年に独立してWEBコンテンツ制作会社、もっとグッドを設立。ライター集団「ライティングパートナーズ」の主宰も務める。BtoB分野を中心にオウンドメディアのSEO、取材、ブランディングまであらゆるコンテンツ制作を行うほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動中。データのじかんでは編集・ライターとして企画立案から取材まで担う。1990年生まれ、広島県出身。


(TEXT・編集:藤冨啓之)

 
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