「チェンジマネジメントとは?」
「企業や組織でチェンジマネジメントを進める際の手順が知りたい」
このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
チェンジマネジメントとは、企業や組織において変革を計画し実行するための戦略的なアプローチのことです。企業経営を成功させるためには、刻一刻と変化する社会のニーズや需要に応じて社内体制を変革することが必要不可欠です。
本記事では、チェンジマネジメントを進めるための手順やフレームワークを紹介します。また、チェンジマネジメントを行った有名企業の成功事例も解説するため、ぜひ参考にしてください。
チェンジマネジメントとは、組織や企業における変革を計画し、実行するための戦略的なアプローチのことです。組織内のプロセス、システム、文化、人々の振る舞いなどの要素を変えることにより組織が目標を達成し、持続的な競争力を確保できるようサポートします。
チェンジマネジメントの目的は、組織内の変革を効果的に推進し、成功させることです。しかし、組織内の変革は困難なプロセスであり、多くの組織において、チームメンバーや経営層からの抵抗、変革の不確実性などさまざまな懸念事項が変革を阻みます。
そこで、変革期においては、変革のビジョンと目標を明確に設定すること、ビジョンと目標を実現するためのリーダーシップを持つ人材を確保することが欠かせません。
また、変革に関与するステークホルダーとのコミュニケーションを重視し、彼らの理解と協力を得ることも非常に重要です。
チェンジマネジメントにおける、基本的な要素には以下の4つが挙げられます。
しかし、そのフレームワークや手法は多様です。そのため、組織の特性や変革の規模に応じて適切なものを選択することが必要となります。
チェンジマネジメントには3つのレベルが存在します。組織や企業の変革をもたらすためには、それぞれのレベルでチェンジマネジメントが必要となります。チェンジマネジメントの3つのレベルを以下にご紹介します。
それぞれについて解説します。
組織や企業レベルのチェンジマネジメントを行うには、個人のレベルでのチェンジマネジメントが重要です。組織や企業はミクロ単位で見ると個人の集合体。個人の変化の集合が組織や企業に変革をもたらします。
個人レベルのチェンジマネジメントでは「変化への抵抗感を減らす」「変革の成功への理解」が求められます。新しい人間関係や新しい技術を習得する際などの環境の変化は、大変だと感じる人が多いでしょう。個人のチェンジマネジメントでも同様で、変わることに抵抗感を持つのは自然なことです。
個人レベルのチェンジマネジメントは心理面や身体面から適切なサポートを受けることで抵抗感を減らせます。また、個人がどうすれば変革が成功するかを理解すると、どのようなサポートが必要かがわかります。
新しいやり方への教育や仕事の定着、習う時期などが整理されれば、個人のチェンジマネジメントはスムーズにできるでしょう。
プロジェクトレベルのチェンジマネジメントは、個人の変革をサポートし組織や企業レベルでの変革を成功させるために重要となります。
個人レベルでのチェンジマネジメントは、組織や企業に変革をもたらす要素として重要ですが、日頃さまざまな業務を遂行するなかで企業や組織が個人を個別にマネジメントするのは容易ではありません。
プロジェクトレベルのマネジメントでは、チームもしくはチーム内の代表がマネジメントを行います。その結果、プロジェクト内の個人や不足しているチームなどをプロジェクト単位でサポートでき、効率的なチェンジマネジメントが可能となるのです。
エンタープライズのチェンジマネジメントは企業や事業レベルでの変革を目指します。エンタープライズ単位でのチェンジマネジメントが必要とされるのは、変化し続ける社会の需要や環境に適応するためです。
エンタープライズ単位でのチェンジマネジメントを実践するには、中枢から個人への変革がスムーズに行われる必要があります。
組織内の役割や構造、プロジェクトとさまざまな領域に対して変革を浸透させるため、各リーダーがチームを指揮します。個人には変革を効率的に受け入れられ誰に確認をすればよいか理解していることが求められます。
個人レベルでのチェンジマネジメントでさえ困難な変革となるため、エンタープライズ単位でのチェンジマネジメントはさらに時間がかかります。市場の変化に対応するために、日ごろからチェンジマネジメントを受け入れられる土台作りが重要です。
リーダーシップ論の草分け的存在のジョン・P・コッター氏は、チェンジマネジメントの大規模な変革を推進させる有効な手順・手法が8段階あると主張しました。
ジョン・P・コッター氏の示した「変革を導くための8つのプロセス」を参考に、チェンジマネジメントの8つの手順・手法を以下にご紹介します。
それぞれを解説します。
チェンジマネジメントの1つ目の手順・手法は「危機意識の共有」です。従業員にチェンジマネジメントでの変革が必要な理由を共有することで変革がスムーズにできるためです。
自社が抱える改善点や市場とのずれなどの問題点を共有できれば、従業員が当事者意識や危機感を持つことができ変革への抵抗が少なくなります。
「変革しなければ今後の市場で生き残れない」ことを客観的に提示できれば、従業員全体に自社の危機感を共有できるでしょう。
変革の重要性も理解してもらえるので、スムーズな変革が可能となります。
チェンジマネジメントの2つ目の手順・手法は「チームの結成」です。
大規模なチェンジマネジメントをするためには、個人単位では難しく、チームを結成することで効率的な変革が可能となります。
チームの結成には変革をスムーズにできる人選が重要であるため、各部署へのコネクションやスキル、影響力などを考慮します。
「プロジェクト進行に長けている人」「従業員に対して高い影響力を持つ人」などから変革をリードできる人材をピックアップしましょう。
チェンジマネジメントの3つ目の手順・手法は「戦略の立案」です。ここでいう戦略とは、変革を経て目指すビジョンへ向かう方法を指します。
ビジョンとそこへ向かう戦略をはっきりさせるのは、思わぬ方向へ変革が向かってしまうのを防ぐためです。ビジョンは変革の最終的な目標を指します。
ジョン・P・コッター氏は以下の6つの特徴を持っているのが、優れたビジョンだと示しています。
チェンジマネジメントの4つ目の手順・手法は「チームの方向性の共有」です。先述した3つ目の手順・手法の「戦略の立案」で決定した戦略とビジョンを従業員に共有します。
戦力とビジョンの周知を徹底して従業員個人も共有できればチームの方向性が共有され、変革の方向性も同じ方向に進むからです。
戦略やビジョンをさまざまな方法を用いて周知したり、継続的に周知したりするとさらに効率よく変革を進められます。
チェンジマネジメントの5つ目の手順・手法は「自発的に働きやすい環境の整備」です。先述した「チームの方向性の共有」で共有された戦略とビジョンに向けて従業員が自発的に働きやすい環境を整備します。
自発的に働きやすい環境整備とは、組織の構造やシステムなどによる業務を妨げる環境をなくすことです。変革の妨げになる要素を取り除くことで、変革への方向性を共有できた従業員は自発的に行動できます。従業員が自発的に変革を進められる働きやすい環境を整えましょう。
チェンジマネジメントの6つ目の手順・手法は「短期目標の設定」です。変革を起こす大きな目標を達成するには、短期的な小さな目標を設定しましょう。
小さな目標達成でも成功体験の積み重ねとなり、チーム全体の達成感を持続させ、最終目標となる変革への進歩につながります。また、小さな目標を達成するだけでも、プロジェクトは確実に進んでいる実績になります。どんなに小さな目標でも変革へ向けての実績が伴っているので、プロジェクトを中止する理由を減らすことが可能です。
短期間で達成しやすい小さな目標からプロジェクトを進めるようにしましょう。
チェンジマネジメントの7つ目の手順・手法は「変革の推進」です。これまでの成果を活かして、さらなる変革の推進を行います。
企業単位の変革には長い時間がかかるため、長期的な目線で推進し続ける必要があります。短期間での結果や信頼感を基に、さらに変革を推進すると本来のチェンジマネジメントのプロジェクトの目標を達成しながら、今後の展望や変革へとつなげましょう。
市場に求められることは常に変化しているので、変革に明確な終わりはありません。常に求められる企業であり続けるためにも、変革の推進は重要といえます。
チェンジマネジメントの8つ目の手順・手法は「新しい方法の定着」です。今回の変革が成功した方法を定着させ、常に変革を起こす企業文化を残すためです。
変革には5年~10年の長期的スパンが必要とされており、変革のリーダーや後継者も定着させる必要があります。そのため、変革の重要さを従業員と共有し、概要を理解した次世代のリーダーの育成とプロジェクトの定着が重要です。今回の変革で推進した新しい方法が、企業文化として定着できるように務めましょう。
チェンジマネジメントの主要な3つのフレームワークを以下にご紹介します。
それぞれ解説します。
ADKARは、Awareness(認識)、Desire(意欲)、Knowledge(知識)、Ability(能力)、Reinforcement(強化)の頭文字を取ったもので、個人の変革に焦点を当てています。このモデルは、変革を受け入れ、実践するために個人が必要とする要素を示しています。
レヴィンの変革モデルは、変革を実現するための3つのシンプルな段階で構成されています。第1段階は、「解凍」と呼ばれ、既存の状態を変えるために必要な準備を行います。第2段階は、「変革・移動」と呼ばれ、新しいアイデアや方法を導入し、変革を実施します。第3段階では、「再凍結」と呼ばれ、変革を確立し、維持するための手段を講じます。
このフレームワークでは、組織内の7つの要素(戦略、機構、システム、スタッフ、経営スキル、経営スタイル、上位価値)が相互に連携していることを強調しています。変革が成功するためには、これらの要素が調和している必要があります。
チェンジマネジメントを取り入れた3つの企業の成功事例を紹介します。
それぞれについて解説します。
日産自動車は、自動車産業で有名な企業です。1990年代までに多額の負債を抱え、1999年から社長に就任したカルロス・ゴーン氏が「日産リバイバルプラン」として再建計画を発表しました。
社長就任から1年で業績をV字回復させたことで話題となったチェンジマネジメントです。稼働率の低い工場の閉鎖や下請け企業の削減、関連会社の保有株式の売却などで徹底的なコストカットを行い4年間で2兆1,000億円もの借金の完済を達成しています。
この規模のチェンジマネジメントは従業員の抵抗に合うことが多く、難易度が高いです。しかし、ゴーン氏は専門のチームを結成し、従来の慣習やシステムを見直し、目標達成できなかった場合は首脳陣の総辞任を条件に変革を進めました。
また、ゴーン氏は社内外に「日産はなぜ変わるべきなのか」「どう変わるのか」をさまざまなメディアを活用して発信しています。これは、「チームの方向性の共有」も図れるビジョンの提示方法として有効です。
そのような面からもゴーン氏のチェンジマネジメントは社内外問わず明確なものだったといえます。
富士フイルム株式会社は、カメラのフイルムを中心とした商品で有名でしたが、デジタル化の影響で、業務の中心をサプリメントや医療機器などにシフトした企業です。
2008年から「FF-CMP(富士フイルムチェンジマネジメントプログラム)」として課長以上の1,200人を対象に意識変革を目的とした研修が行われています。多面診断や印象に残っている仕事などを行い、自らを見つめなおすことで自己変革につなげるプログラムです。
今後あるべき新しいリーダー像を構築できれば、企業レベルでの変革が可能です。富士フイルム株式会社は、業務体制を大幅に変更した実績からわかるように、リーダー単位からの変革で、市場に合わせた変革を常に起こせる環境作りを整えています。
アドビ株式会社は、画像編集や動画編集などのグラフィック処理を中心とするソフトウェアを提供する企業です。
2017年に製品の中心を、売り切り型の「パッケージ販売モデル」から定額制で常に最新版が使える「サブスクリプションモデル」に変更する変革を行いました。
変革に対する反対はユーザーや従業員など内外問わずに存在し、完全な変革には2年以上かかかりましたが、反対派への丁寧な説明をした結果、サブスクリプション化に成功し、契約ユーザー数も上昇したので社内からも支持を得られるようになりました。
チェンジマネジメントに関するよくある質問を2つ紹介します。
チェンジマネジメントの考えを深めるための参考にしてください。
チェンジマネジメントは企業や組織の変革のみならず、社会全体の課題を解決するためにも重要な役割を果たします。
ハーバード大学の政治学者であるエリカ・チェノウェス氏は、社会を変革するための「3.5%ルール」を発見しました。3.5%ルールとは、社会全体の3.5%の人々を動かせば社会を変えられるという考え方のことです。
このことは、企業や組織にも当てはめることができます。社内の3.5%の人材の意識や行動を変革できればチェンジマネジメントを成功に導く確率が高まるでしょう。3.5%ルールについて詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
参考:人口の3.5%が動けば世界が変わる。非暴力的に社会を変える「3.5%ルール」とは?
デジタル化が進む現代において、企業や組織が体制の変革を進めるために社内のDX化は必要不可欠なものとなりました。社内のDX化のためには、ただITツールを導入すればよいというわけではありません。
DX化を成功させるためには、適応課題と技術的課題の2つを解決する必要があります。デジタル変革を進める際の課題解決について詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
現代社会は急速な変化の中にあり、企業にとっても様々な課題が日々浮かび上がっています。新型コロナウイルス感染症の流行やAI技術の進展など、外部環境の変化がワークライフスタイルに大きな影響を与え、これに伴い企業も柔軟で迅速な変革が求められています。
組織内での変革を計画的かつ効果的に進め、企業が将来にわたり競争力を維持できるようサポートするチェンジマネジメントの手法は、リーダーシップとコミュニケーションの強化を通じて、変革を成功に導く重要な鍵となるでしょう。
この記事では、チェンジマネジメント手順やフレームワークに焦点を当て、組織の変革において不可欠な要素を探求してきました。ビジョンと目標の設定、リーダーシップの発揮、コミュニケーションの重要性など、これらが組み合わさることで、組織が変革を成功に導くことができるのです。
変革は容易ではなく、抵抗や不確実性がついて回りますが、それを乗り越えて新たなビジョンを実現することが、持続的な成長につながります。これからますます厳しい状況が予想される中、柔軟性を持ち、変化を受け入れる力が企業にとって不可欠です。チェンジマネジメントを通じて、未知の未来に向けてしっかりと歩を進めていきましょう。
(大藤ヨシヲ)
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