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‟光”をデータの処理に用いることで情報通信のゲームチェンジを狙う「IOWN構想」とは?

         

世界のデータ通信量が年々、飛躍的に増加しているのはご存じのとおりです。米IDCの調査レポート『Data Age 2025』によると、2025年の世界のデータ総量は163ゼタバイト(1ゼタバイト=10^21(十垓)バイト)に達するとのこと。それに伴い、データ通信網の容量拡大や、消費電力の低減を実現する進化が求められています。

NTTが打ち出した「IOWN構想」は、この課題に「光技術」を用いてゲームチェンジを起こすという考えを打ち出しています。すでに2023年3月16日には商用サービス「APN IOWN1.0」の提供も開始されたこのビジョンについて、今のうちに押さえておきましょう。

IOWN構想は、「光電融合技術」を基盤にした‟革新的な光ベース・無線ネットワーク”を利用する

IOWN 構想は、「Innovative Optical and Wireless Network(革新的な光学的・無線ネットワーク)」の頭文字で構成された次世代ネットワーク技術の構想です。その基盤となっているのが、これまで電子が担ってきた信号処理の領域に、データの伝送を行ってきた光を組み込むことで、超低遅延・低電力消費を実現する「光電融合技術」

光ファイバーやその量産技術であるVAD法をはじめ、「光」技術の研究に長年携わってきたNTT。その一つの達成として2019年4月16日に発表された「世界最小の消費エネルギーで動作する光変調器」と「光トランジスタ」があり、その先のビジョンとして、同年5月に「IOWN構想」が発表されることとなりました。

そのロードマップでは、2024年に仕様確定、2030年には実用化が達成され、「電力効率100倍」「伝送容量125倍」「エンド・ツー・エンド遅延200分の1」などの目標が掲げられています。

IOWN構想の価値──3つの主要技術分野とは?

IOWN構想がデータの未来にもたらす価値について、より詳しく見ていきましょう。

IOWN構想は以下の通り、3つの主要技術分野で構成されています。

【1】オールフォトニクス・ネットワーク(APN:All-Photonics Network)
【2】デジタルツインコンピューティング(DTC: Digital Twin Computing)
【3】コグニティブ・ファウンデーション(CF: Cognitive Foundation®)

「フォトニクス」とは、直訳で「光工学」のこと。オールフォトニクス・ネットワークとはすなわち、ネットワークだけでなく伝送装置や情報処理基盤まで全て(オール)に、光技術を導入することを意味します。前述の電力効率・伝送容量・低遅延の具体的な目標もこのオールフォトニクス・ネットワークに当てはまるものであり、「APN IOWN1.0」は、APNを利用し、100Gbit/sの低遅延を実現する企業向け通信ネットワークです。

「デジタルツイン」とは、“デジタルの仮想空間にリアルの空間や物体をリアルタイムの連動性をもって再現する”技術のこと。デジタルツインコンピューティングは、APNを基盤にしたリアルタイム通信により、さまざまなモノ・ヒトのデジタルツインを掛け合わせ、サイバー空間を現実の模倣ではなくシミュレーションの場とすることや、ヒトの意識・思考までもデジタルツイン上で再現することに取り組みます。

「コグニティブ・ファウンデーション」は、「IOWN構想の機能構成イメージ」において、APN・ネットワークサービス・DTCの各階層とAPIで連携し、そのオーケストレーション(ICT環境の監視・マネジメントの自動化)と最適化を実現する存在として位置づけられています。技術の進化に伴い複雑化するICTリソース・データマネジメントの調整・管理を担うのがCFといえるでしょう。

IOWN構想は本当に実現可能なのか? 重要なのは具体的な活用イメージ

IOWN構想は本当に実現可能なのか?

VI&P構想やiモード、NGN構想など、これまでNTT発の情報通信ビジョンやサービスが打ち立てられたものの、成功とはいえない結果に終わったことからそのような疑問を抱く方も少なくないでしょう。IOWN構想はまだまだ発展段階にあり、その成功可否について、まだまだ確かなことはいえません。

ただし、その成功には、以下のような具体的な活用イメージをどれだけ形にして人々に伝え、ニーズを広げていけるかが技術の進歩と同じくらい重要となるでしょう。

・宇宙からの地域・災害に寄らない宇宙統合コンピューティング・ネットワークの実現(通信の安定性・エリアカバー率の飛躍的な向上)
リアルタイム性を利用したリモートでの会議やトークセッション、エンタメやeスポーツの実現
・DTCやCFによる、安定性やフェールセーフを実現した自動運転やMaaS、未来予測の提供
・超低消費電力による、脱炭素目標達成への貢献と、無線給電システムとの組み合わせによる‟充電のいらない”モバイル端末の開発

終わりに

本記事のタイトルに用いた「ゲームチェンジ」というフレーズは、NTT代表取締役社長、澤田純氏が2020年11月のNTT R&Dフォーラム2020 Connect 基調講演『Road to IOWN』で強調したキーワードです。そこで語られたのは、情報通信分野における国際競争において日本は劣位に立たされているという事実と、その脱却に向けたビジョンでした。

はたして、IOWN構想によってゲームチェンジは達成されるのでしょうか。そしてその結果もたらされる変化に我々はどう対処すべきなのでしょうか
状況の変化に俊敏に対応できるよう、IOWN構想というゲームの状況を今後も注視していきましょう。

(宮田文机)

 

参照元

・太田 泰彦『2030 半導体の地政学 戦略物資を支配するのは誰か』日本経済新聞出版、2021
・関口 和一 、MM総研『NTT 2030年世界戦略 「IOWN」で挑むゲームチェンジ』日本経済新聞出版、2021
・Data Age 2025┃IDC
・IOWN構想特集ページ┃NTT
・デジタルツインコンピューティング:ホワイトペーパー(バージョン2.0)┃NTT
・NTT、「IOWN構想」に見る脱炭素実現への本気度 環境課題の解決と、経済成長の同時実現とは?┃NTT
・ムーンショット・エフェクト──NTT研究所の技術レガシー第5回  光トランジスタ誕生というムーンショット┃NTT技術ジャーナル
・NTT R&Dフォーラム2020 Connect 基調講演 Road to IOWN┃NTT技術ジャーナル
・半導体が根底から生まれ変わる!? NTTが開発した「光電融合」とは┃週間エコノミストOnline
・2030年実用化に向けて動き出す、NTTの『IOWN構想』とは?【前編】〜 光技術でインターネット世界を書き換える〜┃デジコン
・NTT、「光の半導体」で限界突破 電気から技術転換┃日本経済新聞
・光が従来のコンピューティング基盤に変革をもたらす!? 超低消費エネルギーの光電融合型プロセッサチップの実現に向けて┃NTT研究開発
・光通信ネットワークの構築に欠かせない 高品質な光ファイバの量産性に優れた製造法である「VAD法」が 世界的に権威のあるIEEEマイルストーンに認定┃NTT
・NTT R&D フォーラム - Road to IOWN 2022 IOWN 1.0 ―「IOWNサービス」スタート―┃NTT
・5年後には世界が変わってるかも。NTTが"宇宙インフラ開発"を本気で進める理由とは?┃NTT
・@haystacker(大塚 隼斗) in NTTデータ先端技術『IOWN構想のコグニティブ・ファウンデーションとは』┃Qiita

 

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