いつの時代も戦略に不可欠な要素として利用されてきた「情報」。歴史的に見ると戦争での情報活用が戦況を左右した例は枚挙にいとまがありません。
例えば、現代で言う情報操作が勝利の決め手となった「トロイの木馬」。
長引くトロイア戦争に業を煮やしたギリシア人は、トロイア人の都市イーリアスの城門前に巨大な木馬を作り、「ギリシア人は敗走した。この木馬は神の怒りを鎮めるためにギリシア人が作った。イーリアス市内にこの木馬を入れるとトロイアの勝利が確定するという予言があった」と嘘の情報を流しました。
まんまと騙されたトロイア人は城門を壊し、木馬を市内に引き入れました。市民が勝利を祝って酔いどれ寝静まったとき、木馬の中から戦士たちが飛び出して、隠れていたギリシア軍を呼び寄せ、市は一晩で陥落したと言います。転じて、トロイの木馬という言葉は現在ではマルウェアの一種を指す言葉として使われています。
また、織田信長は「桶狭間の戦い」で情報収集を駆使して勝利をもぎとりました。
2万5千で攻めてきた今川義元勢を迎え撃つ織田勢は、その8分の1にも満たない3千弱。まともにぶつかっては勝てないと考えた信長は、敵の前衛は相手にせず、本隊の義元だけに奇襲をかける作戦を立てます。
スパイを忍ばせて義元の居場所の情報収集にあたらせ、「義元殿、桶狭間にあり」と判明した約2時間後にはもう義元の本陣に織田軍が乗り込んでいたとか。信長の情報リテラシー(情報活用能力)の勝利と言えます。
時代は変わって、現代。
情報やデータはビジネスに欠かせないリソースとして日に日に重要性を増しています。今や良質なモノやサービスを提供するだけでは競争には勝てません。情報やデータを活用して、「どう」提供するかが、商品の命運を左右します。
例えば、ある商業施設が新規店舗のオープンを検討しているとします。この場合企業側が第一に考慮するのは立地でしょう。しかし、人通りの多い繁華街や駅前であればどこでもいいわけではありません。極端に言えば、銀座に中古ゲームショップを出店したり、秋葉原に高級ブランドショップを出店するのはミスコンセプトですよね。(存在するのかもしれませんが、あくまでイメージとして)
新規出店を成功させるには、候補地が企業イメージやターゲット層にマッチしているか徹底的なリサーチが欠かせません。その一環として行われるのが、候補地の昼夜人口やその年齢層バランス、職業や居住地といった細かい属性の分析です。
こうしたリサーチのキーとなるのが、誰もが持っている携帯電話。個人の携帯電話からは日々膨大な運用データが発生しており、そのうち機密情報を除いたビッグデータを解析することで、ある程度詳細な情報を集めることができます。
上記の情報活用例は、一見誰でも考えつきそうな簡単なアイディアのように思えるかもしれません。しかし「コロンブスの卵」の教訓の通り、最初に仮説を組み立て実行するのは難しいものです。
情報リテラシーは、「情報を利用してアイディアを生み出し、実行する」能力と言い換えられるでしょう。一部の先進国では10年以上前から、初等教育の段階で情報リテラシー教育を実施しています。単にパソコンやインターネットが使えるというだけでなく、情報のビジネスへの活用を念頭に置いた実践的授業も行われています。
(文部科学省参考資料「情報活用能力について」)
日本でも2009年の学習指導要領に情報教育に関する内容が盛り込まれ、国を挙げた情報リテラシー教育が始まりました。しかしオーストラリアでは2011年にすべての中学校で1人1台のパソコンが整備されていますが(上記資料参照)、日本では2018年時点で5.6人に1台に留まっています。
もちろん、16歳の起業家として話題になった山内奏人さんのような情報リテラシー強者の例もあります。しかしこれは日本社会全体の底上げの結果というより、個人の才能に依るところが大きいでしょう。(インタビューからは、かなりの人格者であることもうかがえます。)
かつては情報を得ることが難しく、労力をかけてでもとにかくたくさんの情報を集めることが大切でしたが、情報が次から次へと飛び込んでくる時代には、情報を集めることよりもむしろシャットアウトし、自分に必要な情報や有益な情報を取捨選択する能力が求められています。そう考えると、フェイクニュースを見極める能力や集めた情報をうまく活用していくためのリテラシーに加えて最新情報に基づいて素早くリアクションを取る行動力は極めて重要なファクターになってくるはずです。そして、これらの情報活用能力および情報リテラシーの重要性はおそらく今後増していく一方でしょう。
参考リンク: 織田信長の“情報重視”と“危機管理” WingArc1st リテール業界向け情報活用ソリューション
(佐藤ちひろ)
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