コロナ禍に翻弄された2020年も残すところあと少し。外出自粛と自宅勤務を強いられた1年間は長く感じられましたか、それとも短く感じられましたか。
年を取るにつれ1年が短く感じられるようになるのは一種の錯覚ですが、それは生きてきた時間と1年の長さを比べた際の体感の違いなのだそうです。
そう考えると、6歳の子供にとっての1年は途方もなく長い時間に違いありません。なにせ一生の7分の1の期間なのですから。そのため同じ小学校1年生でも、4月生まれと3月生まれでは学力や体力面で大きな差がついてしまいます。この差が後々の成績や進路に影響を与えたとしても不思議ではありませんよね。
これは単なる想像ではなく、国内外を問わずさまざまな研究者が早生まれの影響についての論文を発表しています。それらによると、早生まれの人は遅生まれの人に比べて不利な人生を歩みやすいのだとか……。
がっつり早生まれ(2月生まれ)の筆者はこれを聞いてもう涙目ですが、心に鞭を打って詳細を見ていくことにしましょう。
奈良女子大学の中田大貴准教授は2017年に、早生まれと遅生まれの子供の体力を比較した研究を発表しました。
奈良県内の小、中学生約3600人を対象にしたこの研究によると、4〜9月生まれ(前期)の子供は、10月〜3月生まれ(後期)の子供に比べ、全学年で体力測定の結果が良好でした。
最も差が大きかった中学2年生の具体的な数値を例にとってみると、前期の子供は後期の子供に比べ平均身長が4.6cm、体重3.3kg、立ち幅跳び14cm、握力が4.2kg上回っており、50m走だと0.4秒早いタイムという結果でした。
中学2年生時点で身長と体重にこれほど顕著な差があるということは、高校生になってもその差が残っている可能性があります。進路を決める高校時代という重要な時期にまで身体的な差の影響が見られるとしたら、その後の人生に影響してもおかしくありません。
早生まれの影響は学力にも及びます。東京大学大学院経済学研究科の山口慎太郎教授が4月生まれと3月生まれの中学3年生の入学先の高校の偏差値を比べたところ、その差は4.5ポイントにも上ることが判明しました。
これは大学進学率にもダイレクトに関わっており、早生まれの大学進学率が低いという傾向は日本だけでなく北米でも報告されています。ただし北米の入学時期は9月ですから、日本とは反対に夏生まれの人が不利になるという相関が見られます。
一橋大学の川口大司准教授の論文によると、4 年制大学卒業者比率は4月1日生まれよりも4月2日生まれの方が、男性に関しては2%ポイント、女性に関しては1%ポイント高くなっています。調査対象者平均の4大卒業率は男性27%、女性9%ですから、それなりに大きな数値と言えます。
見逃せないのが、体力や学力での劣勢が早生まれの子供のメンタルに及ぼす影響です。スポーツや学習面で思ったような結果が出せない劣等感から健全な自信が育まれなかったり、友人や教師との関係がうまく築けない可能性があります。
これは非認知能力にダメージを与える場合があると言われています。非認知能力はIQに代表される認知能力に対し、EQなどの情緒面の能力をつかさどります。社会的に成功する人は非認知能力が高い傾向があり、反対に低い人は逮捕率が高く収入も少ないという統計があります。収入に関しては、早生まれの人は30〜34歳時点での所得が遅生まれの人よりも4%程度低いという調査結果も出ているそう。
こうした研究から、早生まれの不利は大人になっても色濃く残ると推察されていますが、それを覆すようなデータもあります。
現サッカー日本A代表を例にとってみると、早生まれ率は約44%(23人中10人)。単純に考えて日本人の人口に占める早生まれの割合はおよそ25%ですから、日本トップクラスのサッカー選手には比較的早生まれが多いという計算になります。
ただし興味深いのが、GK(ゴールキーパー)選手の早生まれ率が100%(3人中3人)なのに対し、その他のポジションの早生まれの選手数は20人中7人で、ゴールキーパーを除くと早生まれ率は約35%まで下がる点。ゴールキーパーはチームの要ですが、攻めよりも守りに徹したいという特徴が早生まれらしいと言えばそうなのかもしれません。
ちなみにゴールキーパーを除いた選手数も人口に占める早生まれの割合より高くなっています。これだけを見ると「早生まれはスポーツの世界で活躍できない」という説は100%正しいわけでもなさそうです。
また、世界のスポーツ選手5000人の統計をとったこちらの調査によると、「早生まれがスポーツに不向きであるとは言えない」と結論づけられています。
近年では早生まれ月に子供を産むのを避ける傾向もありますが、早生まれの人が完全にいなくなるとは考えにくいもの。東京大学大学院の山口教授は、早生まれのデメリットを緩和する方法について以下のように述べています。
「入試などの重要な場面においては生まれ月ごとの合格枠を設けるといった制度の整備が効果的でしょう。しかしそうした制度の導入には時間がかかります。当座のあいだ教育現場でできることとしては、教員が早生まれの不利を認識し、早生まれの児童にリーダーシップをとらせるなどの配慮が必要かもしれません」
学校に学年制が存在する限り解消されない早生まれの不利。今年は新型コロナウイルスの観戦拡大に伴い、9月入学が検討されるということもありました。そもそも同じ学年にいる子供達が全員同じ年齢であることはそれほど重要視されるべきことなのでしょうか?アメリカでは子供が小学校一年生に上がるタイミングが厳密には決められていないようで、5歳から7歳の子が混在している、という状況も普通のようです。
「うちの子は体が小さいからもう一年待つ」という選択肢も長い人生を思うと、全く問題がないようにも思えます。日本の社会においてもフレキシブルな対応による公平さの実現が望まれますね。
【参考リンク】 ・ 東大院教授「早生まれの不利は大人まで続く」研究結果発表 ・ 早生まれと遅生まれ
(佐藤ちひろ)
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