もし自分に子供ができたら、またはすでに小さい子供がいるなら、どんな幼児教育を取り入れたいですか?
例えば、外国語や楽器の習得は、頭が柔らかい3歳から5歳のうちに始めるといい、とよく言われます。
幼児教育の種類には、最近注目されているモンテッソーリ教育などを含む様々なものがあり、各家庭での習い事だけに留まりません。集団を対象とした体系的な幼児教育も数多く考案・実践されてきました。その中でも有名なのが、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマン教授により1960年代のアメリカで行われた「ペリー就学前プロジェクト」です。
これは選出した児童を特別なプログラムに沿って教育し、長期に渡って参加者のデータを収集したプロジェクトです。
このプロジェクト、本来は子供のIQを上げる目的で始まりましたが、関係者の思惑に反し、意外なところに成果が現れました。
現在でも高く評価されているペリー就学前プロジェクト。そのメソッドとメリットとは?
ペリー就学前プロジェクトが実施されたのは、1962年〜67年のアメリカ・ミシガン州でした。対象となったのは、低所得者層から選ばれた3〜4歳のアフリカ系アメリカ人の児童123人。
このプロジェクトでは、対象児童に特定のプログラムに沿った教育を施し、対象児童とそうでない児童の客観的データを数年おきに比較しました。比較データはIQ、高校卒業率、犯罪・収監率、既婚率などで、参加者が14歳、15歳、19歳、27歳、40歳の時点で行われました。40年近くに渡り経過を追い続けたわけですから、良質なデータと洞察をもたらしてくれるプロジェクトと言えるでしょう。
プログラムの具体的な内容は次の通りです。
・26人の子供に対して4人の教師を配置(教師は教育専門家)
・毎週1回、1時間半の家庭訪問
・授業時間は1日2時間半
・実施期間は就学までの2年間
まず気がつくのは、児童約6人に対して教師が1人というきめ細やかな体制。また週1回の家庭訪問が行われており、教育現場と家庭の連携が密接だったことが伺えます。反面、1日の授業時間はそれほど長くありません。
このプロジェクトの結果は、幼児教育の重要性をまざまざと見せつけてくれます。
プログラム対象者とその他の児童の追跡結果は、以下のようになりました。
一点補足するべきは、5歳時点でのプロジェクト対象児童のIQの優位性は8歳時点で消滅したという調査結果です。IQの向上を目的に始まったプロジェクトでしたが、その点では失敗でした。それではなぜ、その後の各項目で大きな差が出たのでしょうか?
研究者たちは、このプロジェクトは子供達のIQではなく、EQ(感情指数)やグリッド(やり抜く力)に良い影響を与えたのでは、と推察しています。
例えば、EQの高さ=社会性の高さは低い犯罪率や高い既婚率に、高いグリッドは学習面や就業面での良好なデータに反映されたと見られます。根気よく学ぶ力が良好な高校卒業率に繋がり、さらには高い就職率や年収に繋がったという考え方です。
ペリー就学前プロジェクトを自治体レベルで実践すると膨大な予算が必要と言われますが、コスト1ドル当たりのリターンは12.9ドルに上るという調査結果が。これは、高い年収が高い納税額や社会保障費の節減に繋がり、低い犯罪率が治安維持コストを下げた結果です。つまり投資に対するリターン率が大きい教育方法と言えますね。
現在、ペリー就学前プロジェクトは家庭内での教育にも応用できるようにアレンジされています。その中では子供の自発性を高めることに焦点を当て、次のような行動が推奨されています。
・子供と一緒に遊ぶ際に子供にイニシアチブをとらせる
・結果を褒めるのではなく、子供の行動や言葉を肯定する
・子供が問題解決に取組んでいるとき、すぐに手助けしない
・子供と積極的に会話をする
忙しい日々の中で実践するのは難しそうに見えますが、将来的に子供や自分にとってプラスになると思えば、根気よく試してみる価値があるのではないでしょうか?
参考リンク:ペリー就学前プロジェクトとは?~IQよりも大切なもの~ ペリー就学前プロジェクトの内容と効果まとめ【関連本も紹介】 ペリー・プレスクール・プロジェクト
(佐藤ちひろ)
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