これらは、単なる偏見ではありません。6カ国、3万6,000人以上の人々への聞き込みで判明した調査結果です。
早速、統計によって音楽と性格の関係性を解き明かす研究の世界を覗いてみましょう!
調査は2008年、スコットランドのエジンバラにあるヘリオット=ワット大学の研究チームによって行われました。3万6,518人の人々に104の音楽ジャンルからの好きなものを選んでもらったうえで性格検査を実施することで行われたこの研究。
結果としてはじき出された各音楽ジャンルと相関する性格は以下の表の通りです。
ブルース | 自尊心が高い、クリエイティブ、外交的、紳士的、穏やか |
---|---|
ジャズ | 自尊心が高い、クリエイティブ、外交的、穏やか |
クラシック | 自尊心が高い、クリエイティブ、内向的、穏やか |
ラップ | 自尊心が高い、外交的 |
オペラ | 自尊心が高い、クリエイティブ、紳士的 |
カントリー・ウエスタン | 勤勉、外交的 |
レゲエ | 自尊心が高い、クリエイティブ、勤勉、外交的、紳士的、穏やか |
ダンスミュージック | クリエイティブ、外交的、非紳士的 |
インディ | 自尊心が低い、クリエイティブ、勤勉でない、非紳士的 |
インド音楽 | クリエイティブ、外交的 |
ロック・ヘビーメタル | 自尊心が低い、クリエイティブ、勤勉でない、内向的、紳士的、穏やか |
人気のあるポップス | 自尊心が高い、クリエイティブでない、勤勉、外交的、紳士的、穏やかでない |
ソウル | 自尊心が高い、クリエイティブ、外交的、紳士的、穏やか |
クラシックファンとヘビーメタルファンは「自尊心が高い/低い」の差があるものの、「クリエイティブ」「内向的」「穏やか」など意外にも共通点が多いことがわかりますね。
この事実に対し研究をリードしたアドリアン・ノース教授は「クラシックとヘビーメタルは非常に精神的に共通している部分があるのだと思う──それらはともにとても劇的だ」と語っています。
性格よりも年齢や性別や、収入の方が音楽の好みに関係してるのでは?
そう疑問に思った方もいるのではないでしょうか? 実は上記のヘリオット=ワット大学の研究も論文においてそのように結論付けられています。しかし、2016年にその結論を覆す新たな音楽と性格の相関に関する研究結果が、米国スタンフォード大学や英国ケンブリッジ大学の教授らが構成する研究チームにより発表されました。
研究チームの一員であるスタンフォード大学経営大学院のマイケル・コシンスキ教授は“性格は人口動態(年齢・性別・所得水準などの人間を分類する層)や社会経済的地位以上に音楽の好みを左右する”と語っています。
この研究はまず、音楽ジャンルを分類しなおすことから始められました。
そもそも既存の音楽ジャンル自体がレコード会社の意図やリスナーの思い込みに基づく不明瞭な枠組みだと問題視されたのです。そこで研究チームは“人々をひきつけ感情を引き出す音楽の特性にフォーカスして音楽を捉えなおす”ことにしました。
そうして生まれたのが以下の3要素の高低によって音楽を捉える方法です。
名前 | 概要 | 高い曲/低い曲の関連キーワードと例 | |
---|---|---|---|
1 | arousal (興奮性) | リスナーの興奮を引き出す性質 | 高い曲:激しい、力強い、耳障り、スリリング |
低い曲:紳士的、落ち着いている、メロウ | |||
2 | valence (誘発性) | リスナーの感情をポジティブ/ハイにする性質 | 高い曲:楽しい、幸せ、イキイキしている、元気が出る、うれしい |
低い曲:憂鬱、悲しい | |||
3 | depth (深み) | リスナーの知的好奇心を刺激し、奥行きを感じさせる性質 | 高い曲:知的、洗練されている、感動的、複雑、詩的、深い、エモーショナル、思慮深い |
低い曲:パーティミュージック、ダンサブル |
この3要素は76人の正式な音楽教育を受けていない“判定員”に26ジャンルにわたる100以上の楽曲サンプルを評価してもらうことで導き出されました。多くの楽曲を評価してもらうにつれて意見が上記の3要素に収束することが判明したのです。
音楽のひとつのジャンルの中には必ず上記の3要素が含まれると考えられます。
音楽の新しい分類法が決まったらついに「性格と音楽の好みの相関を確かめる実験」です。
この実験はFacebookで集められた9,500人にarousal・valence・depthの3要素が異なる50の楽曲の抜粋を聴き評価してもらうとともに性格検査を行うことで進められました。
検査に用いられたのは「ビッグ・ファイブ」という心理学では定番の性格診断の指標です。ビッグ・ファイブでは、以下の5つの特性で性格が分類されます。
調査の結果明らかになったビッグ・ファイブと3要素の関係は以下の表の通りです。
正の相関 | 負の相関 | |
---|---|---|
Openness(開放性) | valence 、 depth | なし |
Conscientiousness(誠実性) | depth | arousal |
Extraversion(外向性) | なし | arousal |
Agreauleness(調和性) | depth | arousal 、valence |
Neuroticism(神経症的傾向) | arousal | valence |
ここから、depthの高い楽曲が好きな人はarousalの高い楽曲が好きな人よりも誠実性が高いといった予測が立つようになります。もちろん、性格と好みの曲が百パーセント合致するわけではありません。
しかし、valenceが高い曲が好きな人はOpenness(開放性)も高いなどなんとなくのイメージとも合致していますよね。
ジャズやオペラが好きな人はオシャレで知的、EDMが好きな人はパーティピーポーなど、音楽ジャンルのファンに対してなんらかのステレオタイプを抱いている人は少なくないでしょう。
そのイメージに科学的裏付けを行うような実験がなされているのは興味深いですね。また、クラシックファンとヘビーメタルファンは似ているなどイメージが裏切られる結果が出るのも統計調査の面白いところです。
聴いている楽曲から自分や周囲の人々の内なる性格が見えてくるかもしれません。今後好きな音楽について人と話す際、ぜひ意識してみてください。
(宮田文机)
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