大阪市内の交通を支える交通機関が地下鉄の大阪メトロだ。乗降客数が多い駅は何となく思い浮かぶが、乗降客数が少ない駅はなかなか想像つかないのではないだろうか。乗降客数が少ない駅の周辺といえば「寂れている」とか「不便」というイメージが付きがちだが、その実、ターミナル駅に近かったり、一本で行けたりするなど交通至便でであることも多い。
そのうえ、乗降客数が多い駅周辺と比べると家賃が安い傾向があるので、物件探しなど乗降客数のデータを把握し、その理由などを探ることは生活の質の向上につながるだろう。そんな「穴場駅」を探ってみよう。
この記事では大阪メトロが公表している2022年11月15日調査の「路線別乗降人員」を基にする。
南港ポートタウン線「ニュートラム」を除くと、最も乗降客数が少ない駅は今里筋線の清水駅となり、5234人だ。次に少ない駅は同じく今里筋線の関目成育駅の5469人。清水駅との差は235人となる。
続く下位の駅も今里筋線で順に井高野駅(6246人)、新森古市駅(6508人)となる。今里筋線以外で乗降客数が少ない駅は千日前線の小路駅(8035人)、玉川駅(9795人)、長堀鶴見緑地線の松屋町駅(8608人)、ドーム前千代崎駅(9575人)、谷町線の田辺駅(8912人)、長原駅(9799人)だ。駅の場所は大阪メトロの路線図を参考にしていただきたい。
まずは今里筋線以外の各駅を考察してみよう。乗降客数が少ない駅は千日前線、谷町線、長堀鶴見緑地線にある。ここで大阪都心にある駅が松屋町駅だ。
松屋町駅は松屋町筋にあり、長堀鶴見緑地線単独の駅である。松屋町筋は大阪市内を南北に結んでいるが、大阪メトロの駅は松屋町駅のみとなる。松屋町は駄菓子やおもちゃの問屋街で知られ、「まっちゃまちすじ」と呼ばれることも多い。反対に言うと、本町駅のようなオフィス街ではないということだ。
松屋町駅が乗降客数が少ない要因として他に挙げられるのが谷町六丁目駅との駅間距離だ。谷町六丁目駅は東梅田駅や天王寺駅に乗り入れる谷町線と長堀鶴見緑地線との接続駅だ。松屋町~谷町六丁目間は400mしか離れていない。
長堀鶴見緑地線は大阪市内を東西に結ぶが、大阪二大ターミナルである梅田・難波には乗り入れず、長堀鶴見緑地線自体の需要が少ないということだ。このようなことを考えると、松屋町駅周辺に住んでいても、谷町線の谷町六丁目駅へ徒歩移動することは自然だ。
また私鉄線の駅に近いことも不利に働くことがある。ドーム前千代崎駅は京セラドーム大阪があるが、乗降客数は意外と少ない。ドーム前千代崎駅の近くにある阪神ドーム前駅の乗降客数も9500人くらい。ちょうど、両駅で二分している感じだ。
千日前線の小路駅の周辺には近鉄布施駅がある。布施駅は急行停車駅であり、駅直結の近鉄百貨店がある。一方、小路駅の周辺には目立った施設がない。千日前線には近鉄今里駅の近くに今里駅があるが、こちらは東成区役所の最寄駅だ。
同じく千日前線の玉川駅の近くにはJR大阪環状線の野田駅がある。ややこしいが、阪神野田駅とJR野田駅は離れている。阪神野田駅と接続するのは千日前線の野田阪神駅だ。
大阪環状線との接続駅でもあり玉川駅周辺は賑わっているかと言われると、日中はそれほどでもない。現に昼間時間帯の野田駅には1時間あたり上下各4本しか止まらない。
谷町線の田辺駅は近鉄南大阪線の北田辺駅とJR阪和線の南田辺駅の中間地点に位置する。実は天王寺(大阪阿部野橋)へ最も運賃が高いのが大阪メトロなのだ。特にJRとは50円も差がある。谷町線の長原駅は大阪市最南端に位置し、郊外の雰囲気が漂う。
乗降客数が少ない駅だらけの今里筋線とはいったいどんな路線なのだろうか。今里筋線は井高野駅と今里駅を結ぶ全長約12キロの路線だ。開業年は2006年であり、大阪メトロの路線では最も新しい。
乗降客数が少ない要因はドル箱路線・御堂筋線と接続しないからだ。実は大阪メトロでは今里筋線を除く全路線が御堂筋線に接続しているのだ。大阪都心の背骨を支える御堂筋線に接続することで、各路線はどうにか成績をたたき出している。言葉は悪いが「御堂筋線依存体質」なのだ。
また、今里筋線は大阪都心を走らず、大阪市東部を南北に走る。ようするに市内のメインルートとはなり得ないのだ。
各駅の乗降客数が少ないことから察する通り、今里筋線の利用者数は想定の半分程度にとどまっている。一方、淀川や寝屋川などの主要河川を通るため、地下深くを走り、建設コストが高くついた路線でもある。そのようなことから赤字は必至だ。
とは言っても、今里筋線も大阪メトロの一路線ということもあり、大阪都心へのアクセスは確保されている。始発駅の井高野駅から東梅田駅へは太子橋今市駅で谷町線に乗り換え、所要時間は約30分だ。
また、ワンルームマンションの家賃が安いのも特徴だ。不動産サイト「SUUMO関西版」を見ると、井高野駅から徒歩10分圏内には家賃2万円台のワンルームマンションが並ぶ。梅田から30分圏内、独身や学生で静かな環境を望まれるなら今里筋線はねらい目かもしれない。
それでも、やはりターミナル駅の隣駅に住みたいものだ。実は大阪メトロにはターミナル駅の隣駅にもかかわらず、乗降客数がそれほど多くない駅が存在する。それが谷町線の中崎町駅だ。中崎町駅は東梅田駅の北隣に位置するが、乗降客数は約13000人だ。東梅田駅の10分の1以下の乗降客数だ。
しかし、駅周辺の住環境は良好だ。中崎町駅から東方向へ天五中崎通商店街があり、大阪らしい賑やかな雰囲気に包まれる。また、駅北側にはレトロでお洒落な喫茶店や雑貨店が並び、観光客の姿も散見される。
中崎町は梅田近辺にあるが、大規模な再開発は行われておらず、昭和レトロな雰囲気を残す。一方、ただ古いだけでなく、リノベーションするなど新しい雰囲気を取り込んでいるのがポイントだ。
中崎町駅から徒歩5分圏内にあるワンルームマンションの家賃はだいたい4万円からだ。阪急大阪梅田駅からも徒歩約10分だ。最近の梅田での再開発を考えると、中崎町の現状は奇跡といえるかもしれない。
余談ながら、職場が難波をはじめとするミナミでも、梅田周辺のキタに住みたいなら御堂筋線の中津駅もおすすめだ。中津駅も梅田駅の北隣にあるが、乗降客数は中崎町駅の2倍だ。中崎町駅にはない中津駅のおすすめポイントは中津駅始発列車があることだ。
中津駅始発の難波方面の列車は朝夕ラッシュ時に運行される。ラッシュ時にターミナル駅から北隣から確実に座れるのは東京にはない大阪の強みだ。
大阪市内は東京都心とは大きく異なり、四角形で面積は小さい。また、東京と比較すると私鉄線との接続が良好ではないどころか、千日前線のように競合する路線もある。
市域は狭いが、大阪メトロの駅でも乗降客数1万人を切る駅は意外と多い。また、市の端であっても大阪メトロを使えばターミナル駅まで30分以内でアクセスできるため、家賃を抑えたい人は乗降客数が少ない駅はねらい目かもしれない。
著者:新田浩之
2016年より個人事業主としてライター活動に従事。主に関西の鉄道、中東欧・ロシアについて執筆活動を行う。著書に『関西の私鉄格差』(河出書房新社)がある。
(TEXT:新田浩之 編集:藤冨啓之)
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