INDEX
買取王国は「価値再生感動追求業」と自社ドメインを設定し、総合リユース小売業として、買取王国、マイシュウサガール、工具買取王国、おたから買取王国およびその他業態を運営している。
東海・近畿・北陸地方(愛知、岐阜、三重、静岡、大阪、京都、奈良、滋賀、石川、富山)で約60店舗を展開し、消費者や企業から買い取った古着、ホビー、工具、雑貨、高級ブランド品など多様な商品を販売。個店経営の長所を生かした上で、情報(データ)にもとづいた標準化を図かり、店舗経営の安定化を図ってきた。
同社では、「経営的な課題」と「運用上の課題」からDXに着手し、2015年4月に基幹システム刷新、ID-POSとBIツール導入し、データ活用の高度化を進めている。
物価上昇に伴う節約意識の高まりや、SDGs、循環経済への関心の高まりが追い風となり、リユース市場が活況を呈している。『リユース経済新聞』によると、リユース市場全体の規模は2024年の時点で約3.5兆円に達し、2030年には約4兆円まで成長する見込みだという。
買取王国もここ1、2年で業績を大きく伸ばし、2024年2月期の売上高は前年同期比14.9%増の67億円、経常利益は前年同期比24.5%増の5億2300万円と、ともに過去最高額を計上した。好調の背景には、外部環境の好影響を成長に結びつける、DXの取り組みがあった。
そもそもリユース業は、他の小売りとは異なる3つの特性を持つ。
リユース品は、傷や汚れなどコンディションが1つとして同じものがない。そのため1点ずつの単品管理が基本となる。
リユース品は新品と異なり、コンディションや希少性に応じて価格が大きく変動する。そのため、高い査定スキルが求められ、適切な価格設定が利益に直結する。
一般消費者からの買取、オークション、メーカーや他のリユース業者からの仕入れなど、仕入れルートが多岐にわたる。多様な仕入れルートを確保できるかどうかが、品ぞろえを大きく左右する。
特に買取王国の主力品目である一般衣料、靴、服飾雑貨品、腕時計などファッションアイテムは、上記の特性が顕著に現れる。そのため店舗スタッフの「勘」と「経験」のみに頼っていては、「どんぶり勘定」の経営に陥ってしまう。そこで同社は、値入れ率の適切な設定による粗利の最大化や商品回転率の改善による業績向上を目指し、商品在庫の鮮度(仕入れ日からの経過日数)を含めた単品管理の徹底を図る必要があった。
しかしその実現には、「経営的な課題」と「運用上の課題」が立ちはだかっていた。経営的な課題としては、分析に必要なデータが既存システムには不足しており、さらに在庫の鮮度管理を行うための基礎情報の取得も困難な状況だったことが挙げられる。そして運用上の課題は、業績管理資料の作成には手作業を要し、現場に大きな負荷がかかることだ。
同社管理本部システム部の永坂通康氏は、従来の様子についてこう明かす。「私が入社する前のことですが、2014年の導入検討開始当時、店舗は約36店、POSレジは約100台ありました。POSレジのデータは、毎日夜間にPOSレジサーバーへ連携され、システム部は各種データを『日次』『月次』で抽出・集計・加工し、Excelでインポートして幹部や主要リーダーに配布する業務を行っていました。資料作成をできる限り自動化するなど効率化を図っていたが、複数の担当者が年中無休に近い状態でそれに当たっていたと聞いています」。
これら課題を解決するため、データ収集から蓄積、活用に至るまでの基盤を構築し、2016年より本格運用を開始した。(導入の背景や経緯の詳細はこちら)
「リユース業は取扱商材が多岐にわたり、商材全体で見た値入率や回転率と、分類ごとで見た値入率や回転率は、驚くほど大きく異なります。データ集計の待ち時間がほぼゼロになったことで、商材全体と分類別で比較したり、店舗ごと、年月ごと、季節ごと、状態ごと、売場ごとなど、さまざまな切り口で細かく分析したりして、数字にもとづいたより具体的なアクションを考えられるようになりました」(永坂氏)
永坂氏はさらに、「会議用の定型資料・定例帳票の改善のための試作を気軽に行えるようになりました。新たな仕様が固まったら、ダッシュボード化したり、Datalizerの定義として保存したりすることで、2回目以降は利用者がシステム部を介することなく、簡単に利用できます。店舗スタッフを含む全員がダッシュボードでデータを見られるようになり、チーム一丸となって目標とする数値を意識しながらアクションを起こせるようになってきたのは、本当にすごいことです。目標を達成したスタッフの笑顔を見るたびに、うれしい気持ちになります」と、情報システム担当者ならではの視点で導入効果を挙げた。(導入効果の詳細はこちら)
データのじかんでは、DXにおける大きな障壁は技術的なものではなく、文化や人材、組織などの適応課題にあると指摘しているが、永坂氏はこの適応課題への対応を丁寧に行ってきた。
「上層部を含め、データを活用する文化は社内に根づいていました。しかし、Excelから新たなダッシュボードに置き換わり、扱うデータも増えたことで、現場から『分からない』という声が上がりました。そのような声に対して、『シンプルに説明できるよう準備すること』『気遣いや思いやりを忘れずに対応すること』を意識して、現場が理解を深めるサポートをしていきました。今では、「〇〇〇のようなことはできないか」というダッシュボードのアイデアが現場から上がってくることもあります」(永坂氏)
同社では今期、と来期の2期にわたる取り組みとして、新POSシステムの導入をはじめとしたさらなる業務効率化と商品政策、人材育成施策としてのキャリアパス制度の整備を進めている(下図)。
「システム部の役割は、システムの導入をリードすることだけではありません。新体制下において、目指した導入効果が得られるよう、システムやデジタルツールの活用状況を改善していくことも重要な役割です。前回の刷新の際と同様に、現場に寄り添う地道な活動を通じて、データが日常的に使われる環境を整えていきたいと思います」(永坂氏)
DX推進において、基幹システム刷新やデータ活用基盤構築、AI導入などは、自社のリリースの他、メディアなどでも華々しく取り上げられ、情シスの中でも花形業務として注目されがちだ。しかし、地方のような社内デジタルリテラシーのギャップが大きい環境においてこそ、「浸透」という地味ながらも重要な活動が、情シスの真の貢献領域だといえる。
(取材・TEXT:JBPRESS+稲垣 PHOTO:倉本あかり 編集:野島光太郎)
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