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企業理念の活用の実際–理念で自走する強い組織の作り方③

         

筆者は長年にわたり事業会社(花王株式会社)において、企業理念(Corporate Philosophy)を活用した組織開発に取り組んできました。今回は、その内容を “理念で自走する強い組織(Philosophy Driven Organization)”のつくり方というパッケージにして、3回にわたって紹介しています(第3回)。

前回は、人や組織の変身・変容(X:トランスフォーメーション)と企業理念の浸透との相関についてみてきました。そうした変身・変容をはばむ“壁を超える”ためには、質の良い “問い” を理念から紡ぎだすアプローチが有効であるというのがその結論です。今回は、いよいよその具体的な手法について紹介していきます。

第1回:DXの “X” の意味するものは何か–理念で自走する強い組織の作り方①
第2回:企業理念、その「本質」とは何か–理念で自走する強い組織の作り方②

活動の目的とターゲット

部門長クラスが鍵を握る

理念浸透活動の目的は、理念と実践を結びつけ、組織を活性化し、事業目標を達成することです。端的にいえば、ビジネスのサクセスを実現することです。

※著者作成:組織のピラミッド

理念の浸透には、トップのコミットメントが欠かせないといわれます。それはそのとおりなのですが、しかし、いくらトップが旗を振っても、部長・部門長のミドル層が腰を上げなければ理念の浸透活動は動きません。業績と組織運営に責任を持ち、実質的に会社を動かしているのはこのクラスだからです。ここら辺の構造や力関係は、DXを推進するときの課題に通じるところがあるのではないでしょうか。

理念浸透活動の実際

以下、具体的に前職(花王株式会社)において筆者が実施した浸透活動のなかから、ワークショップについて紹介していきます。前回もお断りしましたが、わたし自身は前職を離れて5年以上経っており、その間インサイダーの情報に触れる機会はほぼゼロでした。したがって、今回紹介する内容は現在の花王の経営や組織運営とは関わりがありません。

理念ワークショッププログラム

ワークショップには馴染みのある方も多いでしょう。ファシリテーターの進行のもと、グループごとに討議を回していくことで、現状の課題の深掘りや、ありたい将来像についてのビジョンを描いていくものです。筆者が実施した理念のワークショップにはいくつかのポイントがあります。

職場単位で実施する

第一の目的は、抽象的な理念を具体的な実践に落とし込むことです。そのためには、同じ仕事をしている仲間、あるいは互いの仕事をよく理解している同じ職場のメンバーで取り組むのがいちばん理に適っています。

部門長がファシリテーターを務める

  • 自分たちの部署は何のために存在しているのか、本質的な役割は何か?
  • 自分たちはどこに行こうとしているのか、目指すべきあり方はどのようなものか?
  • 自分たちが大切にしている価値観は何か、なぜこれを選んで、これを選ばないのか?
  • 自分たちの本来の顧客は誰なのか?

こうした、理念から紡ぎ出した本質的な問いについて、リーダーたる部門長は自身が答えを出すのではなく、ファシリテーターとしてメンバーに投げかけていきます。

こうした問いかけの前段として、メンバー各自や職場における「理念の実践事例」を出し合い、共有するグループワークも効果があります。アイスブレイクとして「My Best Job!」といって、これまでの一人ひとりのキャリアのなかで最もやりがいや達成感のあった仕事を発表するといったプログラムも非常に有効です。

リーダーの一人ひとりの意思を尊重する

「ワークショップを実施する/しない」も含めて、リーダーの意思を尊重します。事務局は、上記のようなグループ討議のテーマを中心に、ワークショップの標準的なプログラムとテキストを用意します。それをベースに、メンバーにどのような議論をしてもらいたいか、事務局は部門長一人ひとりと対話をしながら、どんどんプログラムをカスタマイズしていきます。

理念で自走する強い組織

それでは、ファシリテーターを経験したリーダーの声を紹介しましょう。

先週金曜日にワークショップを実施しました。まずは誰よりもファシリテーターの私自身が勉強になりました。従って説明にも気持ちがこもり、メンバーの顔にも熱意が溢れました。9時から16時半の間、いつもの職場とは違う質の良い緊張感に包まれました。その結果、メンバーからの実践宣言には私の期待を越えた頼もしさが感じられました。年明けに、テーマをより身近なものにしてぜひもう一度やりましょうということにしています。大袈裟でなく、これをきっかけに職場が変わるかもしれないという気がしています。

次いで、参加メンバーの声です。

一日、このような機会を与えてもらえたこと自体に感謝の気持ちが湧いてきます。ただ数字や成果を求められているだけではなく、人間としての成長も期待されているのだということが実感できました。

さらに、執行役員クラスのリーダーの声。

ワークショップの目的を難しく考える必要はない。「理念を一年に一回見る」ことと、「部内コミュニケーション(知恵の結集に繋がる環境づくり)」の機会にさえなれば、それだけでもメンバーにとって十分に意味がある。実施後は、部門の一体感が強まり連携が良くなるとともに、メンバーの業務への取組み姿勢が明らかにレベルアップする。

最後の声のような状態を組織につくることが、筆者が提唱する“理念で自走する強い組織(Philosophy Driven Organization)”の目指すところです。すなわち、各社の理念に基づいた質の良い“問い”を組織内で循環させることで、「変身・変容X(Transformation)」に根拠と正当性を付与し、組織のレベルアップを図ります。

戦略‐組織

ワークショップは、一日、もしくは一泊をはさんで合宿形式の一日半を基本としています。対象は、部門の全メンバーなので、大きな組織では何回かに分けて実施することになります。事前の準備にもかなりの時間を取られるため、ファシリテーターを務めるリーダー(部門長)にとって、大きな負荷が掛かります。それにも関わらず、多くのリーダーが“驚くほど”積極的にこのワークショップに取り組んでくれました。それは何故なのでしょうか。

ひとつの仮説としては、1回目に紹介した「組織‐戦略」という枠組みにあると考えられます。部門長にとっての最優先課題は“戦略”を着実に実行し成果を挙げることです。しかし “組織”のあり方にも、潜在的には大きな問題意識を持っているのではないでしょうか。

すなわち、組織が活性化しているか、職場がいい雰囲気か、メンバーは互いに協力をしながら仕事を進めているかといったことです。しかし、それについてはどう手を入れていいのかなかなか確信を持てていないまま、自己流でなんとかこなしているというのが、多くの日本企業のミドル層の実情ではないかと思います。

理念のワークショップは、そうした部門長の潜在的な意識に「欲しかったのはこうしたプログラムだ」と直感的に応えるところがあったのだと思います。

Xが立ち上がる

理念に対する共感と信頼

もうひとつの重要なポイントは、前提としてリーダーもふくめたメンバーの理念に対する共感と信頼があるということです。いわゆる“絵に描いた餅”のような理念では、おそらくこうした活動は成立しないでしょう。

Xが立ち上がる瞬間

とはいえ、理念に描かれているのは組織としてありたい理想的な姿です。グループで討議を重ねていくうちに、現実とのギャップが徐々に意識されるようになってきます。そして「それでは、自分たちはどうするのか」といった、新しい自問自答が始まります。場の空気がフッと変わる瞬間です。

誰に指摘されたわけでもなく自分たちで見つけた課題ですから、それに向き合う議論は自ずと当事者意識に満ちた、明るく前向きなものになります。それは「変身・変容X(Transformation)」が立ち上がった瞬間といってもいいし、“理念に自走する強い組織” (Philosophy Driven Organization)のトリガーが引かれた瞬間といってもいいでしょう。

今回紹介できたのは、筆者が経験した活動のごく一部です。機会があれば、あらためて活動の実際をより詳しく紹介したいと思います。

著者:下平博文
事業会社において企業理念(Corporate Philosophy)を活用した組織開発、インターナルコミュニケーション等に携わる。2018年よりフリーランスのライターとして活動。
連絡先:shimodaira.hirofumi@pdonetwork.com

(TEXT:下平博文 編集:藤冨啓之)

 

参照元

データ活用 Data utilization テクノロジー technology 社会 society ビジネス business ライフ life 特集 Special feature

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