INDEX
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBM コンサルティング事業本部 ハイブリッド・クラウド・サービス事業部
アソシエイト・パートナー
三井 直敏 氏
メインフレームの更改案件を中心に、モダナイゼーション案件のコンサルティングに携わり、大規模、マルチベンダー環境下でのモダナイゼーションに多数従事。現在はメインフレーム・アプリケーション・モダナイゼーションチームリーダーとしてビジネスを推進。
最初の登壇者は、日本アイ・ビー・エム株式会社 三井 直敏 氏。多数のモダナイゼーション案件に携わった経験から、モダナイゼーションの課題とソリューション、案件推進の勘所について発表が行われた。
レガシー・モダナイゼーション(以下、モダナイゼーション)とは、レガシーシステムを新しい技術に置き換えていくこと。レガシーシステムとは、メインフレームやオンプレミスのサーバーのみならず、過去の技術や開発手法、それらで構築されたシステム全般を指す。
「モダナイゼーションを行えば、既存ビジネスの確実な継続と新規ビジネスの創出の両方が可能になっていく」と三井氏は語る。しかし、日本でモダナイゼーションは、ゆっくり進んでいるのが実態で、いまだに4割の企業※がレガシーシステムを使っているという。
※一般社団法人 日本情報システムユーザー協会(JUAS)「企業IT動向調査報告書2024」
モダナイゼーションの効果は、ビジネスの戦略や目的があってこそもたらされるもので、自社にあった手法、実現可能性・投資効果を見極めて手法を選定することが肝要である。ただ企業によって、具体的な課題や効果的となる手法はさまざま。たとえば企業活動において「柔軟性・俊敏性の確保」を目的とする場合、モダナイゼーションの手法としては「リビルド」や「クラウド化」が選択できる。リビルドを選択すると、システムの全面刷新によって顧客の要望に答えやすいというメリットがある一方、コストは大きい。システムのクラウド化は、汎用化のメリットを享受できる反面、従来のオンプレミスやホストとは運用方法が異なるために思わぬリスクが表面化することも考えられる。
最適な手法を探るため、IBMでは、「Hybrid by Designアプローチ」というアーキテクチャー・フレームワークを提唱している。これは次の5つの考え方をキーとしている。
講演者資料より
講演者資料より
Hybrid by Designフレームワークでは、ビジネスに合わせて目標を定め、必要となる項目の成熟度を上げていくアプローチを取る(上図参照)。進め方は大きく分けて下記4ステージの流れとなる。
昨今隆盛を見せる生成AIも、活用が期待できる。1つめはモダナイゼーションの観点において、レガシー言語からオープン言語への翻訳など、システム開発へ適用すること。2つめは運用業務への適用である。運用業務について三井氏は「今後はAIがインシデントを分類し、過去事例を踏まえた原因推測や解決策を提示するなど、もう一歩踏み込んだ形へ進化するだろう」と述べている。
IBMでは、IBM watsonx.ai、IBM ModernSystemsなどデジタル変革のためのAIソリューションを用意。コード生成やテスト自動化、運用、プロジェクト管理などにAIを活用して効率化を図っているとし、三井氏は「効率的に生成AIやツールを活用することで、人に依存しない、持続的で効率的なモダナイゼーションを実現できる」と述べた。
東京システムハウス株式会社
デジタルエンタープライズ事業部 執行役員事業部長
比毛 寛之 氏
長年レガシーマイグレーションに従事。COBOL資産のモダナイズや基幹系でのOSSの活用など、基幹系システムの刷新が得意。2023年8月より、COBOLコンソーシアム会長を務める。宮城県石巻市出身。
続いての登壇者は、東京システムハウス株式会社 比毛 寛之 氏。COBOLの活用を支援する団体「COBOLコンソーシアム」の会長でもある比毛氏からは、COBOL資産の現状とモダナイゼーション手法が紹介された。
比毛氏はCOBOLを、天空を支えるギリシャ神話の神“アトラス”になぞらえて解説。COBOL言語が話題に上がるときは、「古い」「システムが複雑」「技術者の引退、技術者不足」などネガティブになりがちだという。しかしCOBOL資産は今も世界に8,000億行ほどが存在し、社会基盤を支えている。もしCOBOLがなくなると、「大混乱に陥る」ことが考えられる。
一方でCOBOL言語自体は、保守性が高く変更が容易で、“とてもわかりやすい”言語でもあるのも事実だ。「COBOL問題の根本的な原因は仕様の古さなどでなく、IT資産の健全性が損なわれていること」と比毛氏は指摘し、次のような例を挙げた。
「マイグレーションは、長年の利用で損なわれてきたIT資産の健全性を回復するチャンス」と比毛氏は言う。今後も基幹システムが適切なコストと人手で維持・運用され、既存事業を安定して行えるようにすることが重要となるだろう。
東京システムハウスでは、マイグレーションサービス「MMS」を展開している。一般のマイグレーションにおいては、クライアントごとにTo-Beの基盤が必要になるが、MMSでは「AJTOOL」というフレームワークを用意して効率化しているという。
AJTOOLにはバッチ処理の実行フレームワークである「AJTOOL Batch Framework」、オンライン処理を実行する「AJTOOL Online Framework」がある。帳票についてはウイングアーク1stが提供する帳票システム「SVF」とCOBOLが連携したシステムがあり、「AJTOOL SVF Connector」で連携を行う。
講演者資料より
また、同社は基幹システムにおけるOSS利用の普及活動も行っており、特にOSSのCOBOLコンパイラ「opensource COBOL 4J」は、コンパイルの過程で中間のJavaソースを生成することから、COBOLリホストとJavaリライトを同時に実現できる二刀流方式として注目されている。まずは安全にCOBOLリホストでマイグレーションしておき、段階的に開発対象をCOBOLから中間Javaに切り替えることができるという。
さらに、Googleの生成AIであるGeminiを使用した「AIベテランエンジニア」というソリューションを用意。「AIベテランエンジニア」はAIがCOBOLの仕様書作成とシステムの質疑応答をする支援システムであり、2025年4月より提供を開始している。
TIS株式会社 産業公共事業本部
産業公共営業統括部 産業IT営業企画部 兼 産業ビジネス営業部 エキスパート
藤原 尚 氏
2003年TISへ中途入社。ITインフラ・セキュリティの営業を経て、2018年よりXenlon~神龍モダナイゼーションサービスの専任として製造・流通業を中心に顧客の脱レガシーを支援。現在はセールスリーダーとして企業のモダナイゼーションを推進。
3人目の登壇者はTIS株式会社 藤原 尚 氏。リビルドやERP導入における課題、リライトによるモダナイゼーションのメリット、同社のサービスを活用した事例について発表が行われた。
藤原氏はまず、モダナイゼーション市場の最新動向を説明した。藤原氏によると、「国産メーカーのメインフレーム・UNIXサーバーの事業撤退発表を契機に、脱レガシーの検討が加速している」という。技術者不足や保守委託企業の事業撤退など、体制が起因してモダナイゼーションが検討される場合もあるとのこと。
さらにリビルドやERP導入で基幹システム刷新を進めても、要件の肥大化や費用の高額化、プロジェクト長期化が課題になってしまう。そのため「リライトによるストレートコンバージョンを選択肢として検討するケースが増えている」と藤原氏は言う。リライトが採用されるケースとしては下記の状況が多いとのこと。
■(参考)リビルドとリライトの違い
・リビルド:現行仕様に追加要件を反映して新たにシステムを構築する。プロジェクトの難易度が高く、現行システムの凍結期間が長期化し、コストが高額化する傾向がある。
・リライト:現行仕様を移行し、その後システムを最適化する。短期間で現行仕様を再現することにより、リビルドと比較してコストを半減できる。
講演者資料より
TIS株式会社では「Xenlon~神龍 モダナイゼーションサービス」を提供している。このサービスはCOBOL,PL/IなどからJavaへ変換およびシステム最適化を行うもので、変換率の高さや正確性、性能、保守性を強みとしている。藤原氏は「データベースや帳票などの周辺アーキテクチャーも含めて、フルスコープ対応である点も特徴」とした。
さらにモダナイゼーションの成功事例が2件挙げられた。
1件目は金融業のある企業で、Solaris OSと、Net COBOLを使用したシステムの移行。この企業ではメーカによるUNIXサーバー事業の撤退、ミドルウェアのサポート終了(EOS)を背景として脱レガシーの検討が始まった。リビルドが高額となること、EOS期限に間に合わないことから、リライトを実施することを決定。業務プログラムはリライトでJavaに移行した。帳票はウイングアーク1stの帳票システム「SPAIS」を活用し、バッチ帳票は疎結合化を、オンライン帳票はWEB化を実現した。
2件目はJFEスチール株式会社で、IBMメインフレームと、PL/I、COBOLを使用したシステムの移行。同社ではAI等の最先端DX技術を用いて持続可能な基盤を構築するという目標とともに、ベンダーロックインからの脱却、技術者枯渇リスクの回避も狙いとして脱レガシーを検討。リビルドは設計難易度と開発期間の観点において現実的ではなかったことから、リライトを採用することとなった。業務プログラムはリライトでJavaに移行、バッチ帳票はウイングアーク1stの「SVF for Mainframe」に、オンライン帳票はリライトで移行を行った。
講演者資料より
藤原氏は、「今後はTISのモダナイゼーション技術とJFEスチールの顧客業務支援サービスを組み合わせて、モダナイゼーションを推進していく」と発表した。
ウイングアーク1st株式会社
Business Document事業部 BD事業戦略部 ビジネスデザインG
四之宮 諒氏
2016年新卒入社。関西地区にて5年間代理店、直販営業を担当。現在はBusiness Document事業戦略部に所属し、帳票、文書管理、文書データ流通事業における製品戦略、企画を担っている。JIIMA認定 文書情報管理士(上級)を取得。
最後はデータの専門家である、ウイングアーク1st株式会社 四之宮 諒氏 が帳票システムの移行について解説。同社では創業以来行っている帳票文書管理事業において、日本国内でシェアNo.1となっている。
帳票システムの役割は、システムから流れるデータを紙やPDFなどの電子ファイルで出力し、”帳票”という人の目で見やすい形に変えていくこと。出力された帳票を用いて、人が実際に商取引業務、集計や分析、報告業務等を行い、最終的にその業務の結果を証跡として残していく。このように帳票は「企業活動における血液のようなもの」(四之宮氏)だが、モダナイゼーションとなると注力する領域は主にシステムとなる。「システムと人をつなぐ帳票システムも目的を持った移行が必要にもかかわらず、”とりあえず移行しましょう”となりがち」と四之宮氏は指摘する。帳票の効果を業務で発揮するためには、「視認性が高い」「システム連携可能」「信憑性が高い」という条件を満たすファイルにする必要があるとのこと。
ウイングアーク1stの帳票システム「SVF」および「SVF Cloud」では、システムごとにサイロ化しがちな帳票機能を集約し、「帳票基盤」を実現して大規模な運用が行える。さまざまな帳票に対応できることはもちろん、CSVやAPIを通じた各種システムとの連携も可能だ。帳票デザインとページ制御ロジック開発工数は、プログラミングの10分の1程度となる。
電子帳票プラットフォーム「invoiceAgent」は、電子帳票の受領、保管、配信までを一括管理するサービス。文書や証跡の管理と、取引先や業務特性に応じた最適な配信受信方法を選択できる。また電子インボイスの国際規格「Peppol(ペポル)」にも対応している。
さらに同社では、SVFとinvoiceAgentを組み合わせたデジタル帳票基盤というサービスも展開している。
講演者資料より
デジタル帳票基盤のメリットは下記の通り。
ほかに、メインフレームユーザーへのモダナイゼーションサービス「SVF for Mainframe」や大規模運用に適した「invoiceAgent Enterprise Cloud」もある。
四之宮氏はソリューションの導入事例を2件挙げた。
1つめは、三菱マテリアル株式会社の導入事例。ERP導入にあたり、文書アーカイブ基盤としてinvoiceAgentを導入した。これにより帳票作成から仕分け、保管、検索までの一元管理が可能とした。
2つめは、ダイキン工業株式会社。同社では化学事業部において「グローバル統一基盤プロジェクト」が発足。一気通貫の帳票ソリューションで基幹システムから帳票配信までをシームレスに展開でき、業務効率化やヒューマンエラー防止、ガバナンス強化を実現した。
四之宮氏は「今後はデジタル帳票が必須になると見込まれる」と述べ、帳票を起点とした業務改革を勧めた。
「帳票DX セミナー システムモダナイゼーション戦略と成功事例」では4社より異なるモダナイゼーション戦略が提示された。レガシーシステムの刷新は多くの企業にとって、避けられない道。この機に効果的なモダナイゼーションを検討してみてはいかがだろうか。
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